第95話 もう大丈夫
フォルンの丘。
夜風が、静かに流れている。
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エマは、一人で立っていた。
遠くの都市の灯り。
変わらない光。
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端末には、今日の記録。
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三地域同時。
二地域同時。
単独判断。
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すべて、被害ゼロ。
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「……すごいな」
小さく呟く。
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かつては違った。
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迷いが混乱になり、
判断が遅れ、
被害が出た。
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制度は未完成だった。
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だが今は違う。
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誰かが迷い、
誰かが選び、
それが繋がっている。
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エマは、ゆっくりと座る。
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「もう……」
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言葉が止まる。
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胸の奥に、何かが溜まる。
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「もう、大丈夫かもしれない」
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その時。
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「何がですか?」
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振り向くと、リュカがいた。
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「……聞いてた?」
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「少しだけ」
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エマは、少し笑う。
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「制度の話」
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リュカは隣に立つ。
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「今日の判断、全部うまくいきました」
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「うん」
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「でも、まだ怖いです」
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正直な言葉。
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エマは頷く。
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「私も怖かった」
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「今も?」
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少しだけ間。
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「少しだけ」
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リュカは、遠くを見る。
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「じゃあ、ずっと怖いんですかね」
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エマは首を振る。
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「違う」
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「どう違うんですか?」
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エマは、ゆっくりと答える。
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「一人じゃない」
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リュカは、少しだけ考える。
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今日の判断。
自分だけじゃない。
エマがいて、
ミラがいて、
観測員がいて。
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そして、他の地域でも誰かが判断している。
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「……確かに」
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エマは、静かに続ける。
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「昔は、一人で背負ってた」
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「今は、分かれてる」
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責任も。
判断も。
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それが制度。
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リュカは、小さく頷く。
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「だから大丈夫?」
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エマは、少しだけ空を見上げる。
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そして言う。
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「たぶんね」
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確信ではない。
だが、間違ってもいない。
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風が、ゆっくり流れる。
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世界は、静かだ。
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何も起きていない。
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それは、
誰かが守っているからだ。
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そして、その「誰か」は、
もう一人じゃない。
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エマは、立ち上がる。
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「戻ろうか」
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「はい」
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二人は、丘を下りていく。
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制度は完成していない。
思想も完成していない。
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だが、
確かに続いている。
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それだけで、
十分だった。
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