第89話 教える側
中央危機統括局・研修室。
ホワイトボードの前に、エマが立っている。
かつて教わる側だった場所。
今は違う。
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「今日は再評価の基準をやる」
新人たちが一斉に頷く。
リュカもその中にいる。
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エマは、ゆっくりと書く。
・連鎖確率
・余力
・時間
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「この三つを見る」
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新人の一人が手を挙げる。
「それって基本ですよね?」
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「基本」
エマは頷く。
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「でも」
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少し間を置く。
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「基本だけで決めると、間違える」
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室内が静かになる。
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リュカは、その言葉をじっと聞いている。
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「どう間違えるんですか?」
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エマは少し考える。
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「全部正しい時」
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新人たちは首をかしげる。
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「連鎖低い」
「余力ある」
「時間もある」
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「それでも迷う時がある」
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エマは、ゆっくりと続ける。
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「それが判断」
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リュカが手を挙げる。
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「迷ったらどうすればいいですか」
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エマは即答しない。
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少しだけ考えてから言う。
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「理由を言葉にする」
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「言葉?」
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「なんでそう思ったか」
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ホワイトボードに書く。
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・理由を書く
・声に出す
・残す
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「それが責任」
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リュカは、小さく頷く。
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かつての自分。
三分迷った判断。
あの時、理由を言葉にした。
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研修が終わる。
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新人たちは、少しだけ静かになっている。
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「難しいですね」
誰かが言う。
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「難しいよ」
エマは答える。
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「だから制度がある」
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廊下。
リュカがエマに声をかける。
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「今日の話、分かりました」
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「どこが?」
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「正解を出すんじゃなくて、説明できるか」
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エマは少し驚く。
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「いい理解」
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リュカは少しだけ笑う。
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「まだ全部は分からないですけど」
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「それでいい」
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エマは言う。
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「分かりすぎたら危ない」
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外では、小さな揺れがまた一つ。
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新人たちは、それぞれの持ち場へ戻る。
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教える側と、学ぶ側。
役割は変わった。
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だが、迷いは同じだ。
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思想は受け継がれる。
言葉として。
記録として。
そして、判断として。
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エマは、少しだけ空を見上げる。
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「ちゃんと繋がってる」
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それが、何よりの証明だった。
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