第87話 日常の中の判断
午後の観測室。
大きな揺れはない。
光点が、ゆっくりと瞬いている。
それが日常だ。
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リュカは端末の前に立っていた。
午前の監査は終わった。
ミラは隣で記録を見ている。
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「次、来るよ」
エマが言う。
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画面に、新しい揺れが表示される。
西部農業圏。
規模:小。
連鎖確率:十五。
余力:中。
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「やる?」
エマが聞く。
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「やります」
リュカは即答する。
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さっきより、迷いは少ない。
だが、ゼロではない。
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「再評価開始」
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数値が流れる。
変動は小さい。
安定している。
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リュカは少しだけ考える。
さっきの判断。
監査の視線。
エマの言葉。
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「……見送り」
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静かな決断。
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ミラが記録を見る。
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「理由は?」
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「連鎖低。収束傾向」
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短い。
だが十分。
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数分後。
波形は消える。
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「収束」
観測員が言う。
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新人の一人が笑う。
「やっぱり簡単ですね」
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その言葉に、誰もすぐには返さない。
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エマが言う。
「簡単な時もある」
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「難しい時もある」
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ミラが補足する。
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「問題は」
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二人の視線が重なる。
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「難しい時に、逃げないこと」
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リュカは静かに頷く。
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画面には、また別の小さな揺れ。
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終わらない。
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だが、日常になっている。
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制度は特別なものではなくなった。
危機対応は、特別な行為ではなくなった。
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それでも。
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判断の重さだけは、
変わらずそこにある。
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リュカは、次の光点を見る。
ほんの少しだけ、慎重に。
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それが、この世界の新しい普通だった。
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