第86話 監査の視点
中央危機統括局・監査室。
観測室とは違い、ここは静かすぎるほど静かだった。
音は、紙と端末だけ。
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ミラ・カルドは、音声記録を再生していた。
> 再評価開始
> 連鎖三十
> ……限定介入
若い声。
わずかな間。
そして決断。
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再生を止める。
「……迷いがある」
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隣の監査官が言う。
「問題ありますか?」
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ミラは首を振る。
「ない」
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「むしろ健全」
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記録を確認する。
再評価時間:三分延長。
判断理由:データ不足。
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「ちゃんと考えている」
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端末を閉じる。
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ミラは立ち上がる。
「現場を見る」
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フォルン。
監査訪問は珍しくない。
だが新人たちにとっては初めてだ。
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観測室に入ると、エマが気づく。
「監査?」
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「はい」
ミラは軽く頭を下げる。
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年齢はエマより少し下。
だが目は冷静だ。
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「新人の判断を確認したい」
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エマは頷く。
「どうぞ」
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リュカは少しだけ緊張する。
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ミラは言う。
「昨日の判断、再現してもらえる?」
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端末を操作する。
同じ条件を再現。
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リュカは画面を見る。
数値。
波形。
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「再評価三分」
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迷いは少し短くなっている。
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ミラはそれを見て言う。
「いい」
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「理由は?」
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「データ不足」
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「その後?」
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「連鎖上昇で限定介入」
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ミラは頷く。
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「問題なし」
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新人たちが少し安心する。
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だがミラは続ける。
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「ただし」
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空気が変わる。
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「次も同じ判断をする?」
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リュカは一瞬、止まる。
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「……分かりません」
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ミラは小さく頷く。
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「それでいい」
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エマが少し驚く。
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「同じ状況はない」
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ミラは淡々と言う。
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「だから再評価する」
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リュカは、静かに頷く。
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監査は、正解を求めていない。
判断の過程を見る。
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ミラは観測画面を見ながら言う。
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「制度は完成に近い」
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「でも」
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エマが続ける。
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「人は完成しない」
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ミラは少しだけ笑う。
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「だから監査がある」
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観測室に、小さな揺れが表示される。
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ミラは言う。
「やってみて」
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リュカが前に出る。
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監査の前での判断。
少しだけ、重い。
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だが、逃げない。
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再評価開始。
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制度は、外からも支えられる。
判断は、見られることで磨かれる。
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思想は、誰か一人のものではない。
監査も、その一部だった。
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