第85話 世代の違い
研修終了後。
観測室の灯りが少し落ちた頃、エマは一人で端末を整理していた。
今日の記録。
再評価。
判断。
結果。
どれも問題はない。
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だが、指が止まる。
「……軽い」
小さく呟く。
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そこに、リュカが入ってくる。
「まだ残ってたんですね」
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「うん、少し整理」
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リュカは隣に立つ。
観測ログを一緒に見る。
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「今日の判断、問題なかったですよね」
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「なかったよ」
エマは答える。
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「じゃあ、いいんですよね」
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その言葉に、少しだけ間が空く。
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「いいよ」
エマは言う。
「ちゃんと判断できてた」
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リュカは安心したように頷く。
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「制度があると、分かりやすいですね」
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「分かりやすい?」
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「はい。再評価して、数値見て、判断する」
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エマは少しだけ笑う。
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「私たちの時はね」
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リュカが首をかしげる。
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「制度がなかった」
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沈黙。
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「……え?」
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「正確には、完成してなかった」
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エマは画面を見ながら言う。
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「余力って何かも、曖昧だった」
「見送りも、ただの放棄に近かった」
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リュカは黙って聞く。
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「だから、迷い方が違った」
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「どう違うんですか」
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エマは少し考える。
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「どっちも正しいかどうか分からない」
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「今は?」
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「どっちも正しいって分かってる」
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リュカは、少しだけ考え込む。
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「じゃあ、今の方が楽ですね」
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その言葉に、エマは頷く。
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「楽だよ」
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そして、少しだけ続ける。
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「でも」
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リュカを見る。
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「重さは変わらない」
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観測画面に、小さな光点がまた一つ揺れる。
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リュカはそれを見つめる。
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「正解が分かるのに、重いんですか」
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エマは答える。
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「正解だから重い」
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短い言葉。
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リュカは、その意味を完全には理解できない。
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だが、さっきの三分を思い出す。
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少しだけ、分かる気がする。
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エマは端末を閉じる。
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「私たちは、制度を作った側」
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そして、リュカを見る。
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「君たちは、制度の中で生きる側」
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世代の違い。
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同じ判断をしていても、
見ているものが違う。
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リュカは、小さく頷く。
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「まだ分かってない気がします」
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「いいよ」
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エマは穏やかに言う。
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「そのうち分かる」
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観測室の灯りが、ゆっくり落ちる。
外では、都市の光が揺れている。
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制度は受け継がれた。
だが、その重さは、
これから引き継がれていく。
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