第82話 当たり前の制度
昼休みの食堂は、穏やかな空気に包まれていた。
新人たちが、同じテーブルに集まっている。
リュカもその中にいた。
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「さっきの、普通でしたね」
誰かが言う。
「うん、教科書通り」
「再評価して、見送り」
軽い会話。
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「優先選択って、思ってたより簡単じゃない?」
別の新人が笑う。
「もっと怖い制度かと思ってた」
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リュカは少しだけ考える。
「……怖くはない」
「だよね」
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「だって基準があるし」
「数字も出るし」
「判断できるように作られてる」
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それは事実だった。
制度は整っている。
再評価。
余力。
確率。
すべてが可視化されている。
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「だから迷わないよな」
その言葉に、リュカは小さく違和感を覚える。
だが、言葉にはしない。
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その頃、エマは一人で資料室にいた。
新人の評価記録を見ている。
> 判断:見送り
> 再評価:適切
> 判断時間:短
「……迷ってない」
ぽつりと呟く。
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観測室。
午後の揺れがいくつか表示されている。
どれも小さい。
日常の範囲。
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エマは、端末を操作しながら考える。
制度は完成に近づいた。
再評価も機能している。
余力も適切に使われている。
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なのに、何かが違う。
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食堂に戻ると、新人たちの会話が聞こえる。
「結局、優先選択って効率いいよね」
「無駄な介入減るし」
「合理的」
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エマは、その言葉を聞いて足を止める。
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「合理的」
それは間違っていない。
だが、それだけではないはずだ。
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リュカが、エマに気づく。
「あ、指導官」
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「さっきの判断、どうでした?」
素直な質問。
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エマは少し考える。
そして答える。
「良かったよ」
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新人たちは安心したように笑う。
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だがエマは続ける。
「ただ」
空気が少し変わる。
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「いつか迷うよ」
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「迷う?」
新人の一人が首をかしげる。
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「制度があっても、迷う」
エマは静かに言う。
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「どうしてですか?」
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少しだけ間を置く。
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「どっちも正しい時があるから」
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リュカは、その言葉を黙って聞いていた。
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午後。
観測室に再び揺れが表示される。
今度は、少しだけ強い。
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エマは新人たちを見る。
「次、誰やる?」
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さっきより少しだけ、空気が重い。
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リュカが前に出る。
「やります」
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画面を見る。
数値はまだ小さい。
だが、さっきとは違う。
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リュカは、ほんのわずかに考える。
その時間は短い。
だが、確かにあった。
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制度は当たり前になった。
だが、迷いはまだ消えていない。
それは、消してはいけないものだった。
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