第81話 新人
中央危機統括局の朝は、静かだった。
かつてのような慌ただしさはない。
だが、それは危機が消えたからではない。
制度が日常になったからだ。
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新人配属の日。
小さな会議室に、数人の若い職員が集められていた。
その中に、リュカ・アルトがいる。
十八歳。
今年、危機管理官として採用されたばかりだ。
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「これから皆さんには、優先選択制度の運用に関わってもらいます」
説明役の職員が言う。
だが新人たちは特に驚かない。
優先選択制度は、彼らにとって特別なものではない。
学校の教材にも出てくる。
普通の制度だ。
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説明が終わると、扉が開く。
「新人はこっち」
入ってきたのはエマだった。
落ち着いた声。
少しだけ疲れた目。
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新人たちは立ち上がる。
リュカもその一人だ。
「今日から現場研修」
エマは短く言う。
「まずは観測室」
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中央危機統括局・観測室。
巨大な地脈観測図が壁一面に広がっている。
光点がいくつも揺れている。
「これが現在の揺れ」
エマが説明する。
「小さいのが多い」
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新人の一人が言う。
「でも危険じゃないですよね?」
エマは少しだけ笑う。
「危険だよ」
新人たちは少し驚く。
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「小さい揺れでも放置すれば広がる」
エマは地図の一点を指す。
「だから再評価して判断する」
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リュカが手を上げる。
「質問いいですか」
「どうぞ」
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「優先選択って、そんなに難しいんですか」
エマは少し考える。
そして言う。
「難しい」
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「どうしてですか」
「迷うから」
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新人たちは顔を見合わせる。
迷う?
制度は明確なはずだ。
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エマは続ける。
「制度は判断を助ける」
「でも代わりにはならない」
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観測画面が小さく光る。
西部農業圏。
微弱変動。
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エマは新人たちを見る。
「いいタイミングだね」
端末を操作する。
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「再評価開始」
静かな声。
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数値が並ぶ。
規模:小
連鎖確率:十二
余力:中
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エマは新人たちに言う。
「誰か判断してみる?」
室内が静かになる。
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リュカが一歩前に出た。
「やります」
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画面を見つめる。
小さい揺れ。
危機ではない。
だが放置すれば広がる可能性。
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リュカは言う。
「再評価延長。観測五分」
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エマは少しだけ驚く。
「どうして?」
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「データが少ない」
リュカは答える。
「急ぐ必要はない」
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五分後。
波形は弱まる。
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「見送り」
リュカが言う。
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エマは端末を閉じる。
「正解」
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新人たちはほっとする。
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リュカは画面を見ながら呟く。
「普通の判断です」
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エマは静かに答える。
「今はね」
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窓の外では、都市の灯りが広がっている。
危機は消えていない。
だが、世界は続いている。
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