第78話 思想の再定義
制度更新から、一か月。
中央危機統括局の統計は、静かに変化していた。
見送り率――微減。
限定介入――増加。
小規模被害――減少。
劇的ではない。
だが、確実だ。
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セルディオは、最新報告を見ながら言う。
「少し戻った」
カルドが頷く。
「思想が、制度に追いついた」
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フォルン。
エマは、丘の上で報告書を読みながら言う。
「最初からこうしてればよかったんじゃ」
アレインは、静かに首を振る。
「できません」
「どうして」
「人は、失敗しないと理解しません」
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北方自治領。
ノアは、再評価記録を残していた。
「連鎖確率二十五。余力中。限定介入」
声は落ち着いている。
以前のような迷いは少ない。
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事故の記録は、消えない。
死者二名。
だが、その重さが判断を変えた。
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南方山岳自治領。
ライナは、新しい報告書を見て言う。
「北方、良くなった」
部下が頷く。
「余力使用率も上がっています」
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中央会議。
ユリスは、統計を見ながら言う。
「効率は落ちた」
会議時間増加。
再評価時間増加。
だが、
「死者は減った」
セルディオが答える。
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カルドが言う。
「制度は軽いと壊れる」
「重いと?」
ユリスが問う。
「動きにくい」
「なら?」
「重さを調整する」
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フォルン。
エマは言う。
「思想って、変わりました?」
アレインは少し考える。
「いいえ」
「じゃあ」
「理解が変わりました」
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「どう変わったんですか」
「余力は削るものではない」
エマが頷く。
「守るものでもない」
「はい」
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「余力は、迷うためのものです」
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中央統計室。
更新後一か月。
死者数――ゼロ。
偶然かもしれない。
だが、希望でもある。
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北方。
ノアは、夜の観測塔で空を見上げる。
揺れは、また来る。
危機は終わらない。
だが、逃げない。
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フォルンの丘。
エマが言う。
「先生」
「はい」
「制度って、結局何なんですか」
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アレインは、遠くの灯りを見ながら答える。
「人が迷うための仕組みです」
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迷わない制度は危険だ。
迷う制度は重い。
だが、その重さが、
世界を少しだけ壊れにくくする。
第6部は、
思想が再び意味を取り戻す地点へと到達した。
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