第75話 崩れる言い訳
北方第六地区。
夕方、観測塔が微弱振動を検知した。
規模:小。
余力:中。
連鎖確率:二十。
以前なら迷う規模だった。
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ノア・リュカは、音声記録を開始する。
「北方第六地区、再評価開始」
机の上には、監査の統計が並んでいる。
十一名の死者。
削られた数字。
彼の指が少し震える。
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「自然収束確率四十五」
沈黙。
「……見送り」
口に出した瞬間、空気が重くなる。
録音灯が赤く光る。
自分の声が残る。
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その夜。
揺れは収束しなかった。
むしろ、拡大する。
「連鎖三十五に上昇!」
観測員の声。
「倉庫街に亀裂!」
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ノアは歯を食いしばる。
「限定介入準備!」
だが遅い。
倉庫街の一角が崩れる。
死者二名。
負傷者七名。
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中央危機統括局。
速報が届く。
セルディオは報告を読み、目を閉じる。
「……北方」
カルドは、静かに言う。
「再評価記録を確認します」
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音声ログ再生。
> 自然収束確率四十五
> ……見送り
沈黙。
会議室に重い空気が流れる。
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ユリスが言う。
「確率的には合理的だ」
カルドが返す。
「だが、連鎖兆候はあった」
画面に観測ログが映る。
小さな波形。
見逃された兆候。
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フォルン。
エマは、北方事故の報告を読みながら言う。
「これ……」
言葉が出ない。
アレインは静かに答える。
「責任が記録された」
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北方自治領。
ノアは、崩れた倉庫街の前に立っていた。
瓦礫。
煙。
静かな夜。
「……俺の判断だ」
逃げられない。
制度のせいでも、
恐怖のせいでもない。
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中央監査室。
カルドは、報告書を書いている。
> 判断:見送り
> 結果:死者二名
> コメント:連鎖兆候評価不足
冷たい文章。
だが、嘘はない。
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会議室。
セルディオが低く言う。
「制度は機能している」
全員が顔を上げる。
「逃げ道が消えた」
沈黙。
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ユリスは腕を組む。
「それでも死者は出た」
「出た」
セルディオは否定しない。
「だが、言い訳は消えた」
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フォルンの丘。
エマが言う。
「ザマァじゃないですね」
「はい」
アレインは穏やかに答える。
「これは、責任です」
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北方。
ノアは、事故報告書の最後に署名する。
手が震える。
> 判断責任者:ノア・リュカ
初めて、その重さを理解する。
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その夜。
小さな揺れが西部で起きる。
責任者は、録音を開始する。
「再評価開始」
声は震えている。
だが、逃げていない。
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制度は変わっていない。
だが、言い訳が崩れた。
第6部は、
思想の“現実の重さ”を、
誰もが背負い始める段階に入る。
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