第74話 制度の重さ
音声記録義務が導入された翌週。
中央危機統括局の空気は、明らかに変わっていた。
静かだ。
以前のような即断は減り、
会議は長くなった。
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カルド・イーヴは、最初の音声ログを聞いていた。
「……規模中。連鎖確率二十五。余力中」
責任者の声は迷っている。
「限定介入が妥当」
沈黙。
「……実施」
再生を止める。
「これは本物だ」
副監査官が言う。
「迷ってますね」
「迷いは正常です」
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北方自治領。
ノア・リュカは、音声記録端末を見つめていた。
赤い録音灯。
小さな装置だが、重い。
これからの判断は、
全部残る。
未来の監査。
未来の批判。
全部。
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揺れが来る。
規模:小。
余力:十分。
ノアは、録音を開始する。
「北方第三地区、再評価開始」
声が、少し硬い。
「自然収束確率五十。連鎖二十」
沈黙。
「……限定介入」
決断。
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フォルン。
エマは、新しい音声記録を聞いていた。
「なんか……人間ですね」
ぽつりと言う。
「はい」
アレインは穏やかに頷く。
「制度は人を消します」
「消す?」
「判断者を見えなくする」
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中央会議。
セルディオが報告を受ける。
「音声導入後、見送り率低下」
カルドが続ける。
「限定介入増加」
「被害は?」
「減少傾向」
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ユリスは腕を組む。
「効率は落ちた」
会議時間増加。
判断時間増加。
だが、
「死者数は?」
セルディオが問う。
「減少」
カルドが答える。
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フォルンの丘。
エマが言う。
「制度、重くなりましたね」
「はい」
アレインは空を見ながら言う。
「思想には重さが必要です」
「軽いと?」
「逃げやすい」
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南方山岳自治領。
ライナは、音声記録を残す。
「余力中。連鎖確率十五。見送り」
短い。
だが理由は明確。
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中央監査室。
カルドは、音声記録を整理しながら言う。
「面白い」
「何がですか」
副監査官が聞く。
「声で分かる」
迷い。
恐怖。
覚悟。
「文章より正直です」
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北方。
ノアは、再び録音を始める。
「……北方第四地区」
少し慣れてきた声。
制度は変わっていない。
だが、重くなった。
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その夜、三地域同時小規模揺れ。
北、限定介入。
西、限定介入。
南、見送り。
被害、最小。
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思想は、制度の中にある。
だが制度だけでは守れない。
声。
迷い。
責任。
それらが記録されることで、
制度は少しだけ人間に近づく。
第6部は、
制度の修復から、
思想の再定着へと進み始めた。
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