第73話 改ざんの痕跡
再評価時間制度が導入されてから、一か月。
小規模被害率は、確かに低下していた。
だが、カルド・イーヴは別の異変に気づく。
「……再評価ログが揃いすぎている」
全自治領の再評価時間が、
ほぼきっちり三十分。
誤差、ゼロに近い。
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監査室。
カルドは、生ログを直接取得する。
記録時刻。
通信履歴。
部隊移動準備時間。
照合。
「……」
沈黙。
本来は十分で再評価完了している案件が、
三十分後に“形式上の再評価完了”と記録されている。
時間が、水増しされている。
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中央会議室。
「再評価時間の形式化が進んでいます」
カルドは静かに報告する。
「形式化?」
セルディオが問う。
「実質再評価せず、三十分待機しただけの案件が複数」
ざわめき。
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ユリスが言う。
「最低時間を守っている。問題ない」
「再評価していない」
カルドは即答する。
「再評価時間は“考えるための時間”です」
「待機も再評価だ」
「違います」
空気が冷える。
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北方自治領。
ノアは、監査からの照会文を受け取り、目を閉じる。
確かに、再評価は十分で終わった。
だが制度に合わせて三十分と記録した。
形式を整えた。
「……悪意はない」
だが、空洞化の一歩だ。
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フォルン。
エマが言う。
「制度を守るために、制度を空っぽにしてる」
「はい」
アレインは頷く。
「人は、枠に慣れると中身を忘れます」
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中央監査室。
カルドは、決定的な案件を見つける。
再評価時間三十分。
だがその間、責任者は別案件会議中。
実質、考えていない。
「……これは明確だ」
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緊急会議。
「形式的再評価の横行を確認」
カルドが言う。
「意図的か?」
セルディオが問う。
「恐怖ではなく、手間回避です」
沈黙。
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ユリスは低く言う。
「人は効率を求める」
「効率は否定しません」
カルドは淡々と返す。
「だが、思想を空洞化させる効率は問題です」
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フォルン。
エマが言う。
「制度って、どこまで縛ればいいんですか」
「縛りすぎれば硬直します」
アレインは答える。
「緩めれば空洞化する」
「じゃあ」
「問い続けるしかない」
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中央。
セルディオは新たな通達を出す。
> 再評価ログに具体的検討項目を明記
> 責任者音声記録を義務化
考えた痕跡を残させる。
重い制度だ。
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北方。
ノアは、初めて音声記録を残す。
「規模小。だが連鎖確率三十。限定介入が妥当」
声が震えている。
だが、本物だ。
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その夜、西部で小規模揺れ。
再評価実施。
限定介入。
被害ゼロ。
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改ざんは露骨ではない。
だが、形式化は思想を殺す。
第6部は、
制度の改ざんではなく、
“意味の改ざん”と戦う段階に入った。
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