第69話 監査開始
将来危機発生確率の再算出――七パーセント。
その数値は、中央危機統括局に静かな波を起こした。
三十という想定のもとで築かれた“恐怖”が、
一気に現実のサイズに縮む。
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セルディオは、正式に命じた。
「優先選択運用の特別監査を開始する」
対象は直近半年。
全自治領。
全見送り案件。
室内が緊張する。
これは制度批判ではない。
運用批判だ。
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カルド・イーヴは、監査責任者として立つ。
「目的は処罰ではありません」
淡々と告げる。
「判断と恐怖の乖離を明確にすること」
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北方自治領。
ノアは、監査通知を受け取り、息を吐いた。
「やっぱり来たか」
書類を整理する。
記録は正しい。
改ざんはしていない。
だが、理由は薄い。
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フォルン。
エマは言う。
「監査って、ザマァですか?」
アレインは首を振る。
「いいえ」
「じゃあ」
「修復です」
短い答え。
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中央監査室。
カルドは、三分類で案件を整理する。
1.合理的見送り
2.恐怖過剰見送り
3.理由不明見送り
第三分類が、予想より多い。
「理由不明?」
副監査官が眉をひそめる。
「“総合判断”としか書かれていない」
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ユリス・バンデルは、監査報告を受けて言う。
「曖昧さは必要だ」
「曖昧さは責任を逃がします」
カルドは即答する。
「制度は柔軟であるべきだ」
「柔軟と曖昧は違います」
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南方山岳自治領。
ライナの記録は、明確だった。
> 判断理由:現在被害最小化
> 将来危機確率:低
> 余力:中
迷いも、追記されている。
「十八を忘れない」
それが、南方の一行。
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監査は進む。
ある自治領で、問題が見つかる。
余力“不足”と報告。
だが実際は、部隊配置を意図的に分散。
形式上、余力不足に見せる運用。
「……調整か」
カルドは静かに言う。
改ざんではない。
だが、意図的だ。
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セルディオは、その報告を受け取る。
「運用上の誤りだ」
「故意です」
カルドは冷静に返す。
「恐怖を理由に、現在介入を避けた」
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フォルン。
エマが言う。
「制度は守ってる。でも中身がずれてる」
「はい」
アレインは頷く。
「それが空洞化です」
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北方。
ノアは、自分の過去の見送り案件を見返していた。
恐怖。
将来備え。
慎重判断。
本当に必要だったか。
答えは、簡単ではない。
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中央会議。
セルディオは静かに言う。
「見送りは、免罪符ではない」
室内が凍る。
「今後、理由なき見送りは再評価対象とする」
制度は変わらない。
だが、重くなる。
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その夜、三地域で小規模揺れ。
北、限定介入。
西、見送り。
南、限定介入。
被害は最小。
少しだけ、流れが変わる。
第6部は、
“制度の乱用”から、
“責任の再固定”へと進んでいく。
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