第67話 思想の空洞化
将来備蓄係数の再検証が始まってから、中央危機統括局の空気は変わった。
余力算出表が、次々と差し替えられる。
備蓄係数七十。
六十。
五十。
数字を下げるたびに、余力は増える。
だが、現場の判断は変わらない。
見送り。
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「……なぜだ」
カルド・イーヴは、北方第四地区の報告を睨む。
再計算後、余力“十分”。
それでも、見送り。
理由。
> 慎重判断
「慎重、か」
便利な言葉だ。
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北方自治領。
ノア・リュカは、静かに机に向かっていた。
余力は確かにある。
だが、使えば次が怖い。
もし大規模危機が来たら。
もし同時多発が再び起きたら。
「……責任は取れない」
小さく呟く。
彼は制度を盾にしている。
だが本当は、自分が怖いだけだ。
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フォルン。
エマは、最新の統計を並べる。
「係数下げても、変わらない」
「はい」
アレインは頷く。
「問題は式ではない」
「じゃあ何ですか」
「心理です」
短い答え。
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中央会議。
カルドが言う。
「余力は確保されている。にもかかわらず見送りが続いている」
「現場の裁量だ」
ユリスは淡々と答える。
「慎重であることは悪ではない」
「慎重と回避は違う」
カルドの声は低い。
「今は回避です」
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セルディオは、静かに口を開く。
「制度が目的化している」
室内が凍る。
「本来、優先選択は“苦渋の判断”だった」
視線が、全員に向く。
「今は“安全な判断”になっている」
誰も反論しない。
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南方山岳自治領。
小規模揺れ発生。
ライナは、即座に限定介入を選択する。
「余力は中。だが、削られる前に止める」
被害ゼロ。
報告書には、こう記される。
> 判断理由:現在被害最小化
将来ではない。
今だ。
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フォルン。
エマは、その報告を見て言う。
「南方は、迷わない」
「はい」
「どうして」
「十八を知っているからです」
静かな答え。
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中央監査室。
カルドは、新しい分析をまとめる。
> 備蓄係数調整後も見送り率高止まり
> 現場判断に“将来恐怖”が残存
「式は直せる」
彼は呟く。
「だが、恐怖は式では消えない」
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ノアは、再び見送りを選択する。
理由は明確に書かない。
> 総合判断
曖昧だ。
だが、制度上は問題ない。
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フォルンの丘。
エマは、拳を握る。
「これ、思想が空っぽになってませんか」
「なりかけています」
アレインは否定しない。
「余力は“使わないため”のものではない」
「でもみんな怖い」
「はい」
「どうすれば」
アレインは、ゆっくりと答える。
「責任を、個人に戻す」
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中央会議室。
セルディオは言う。
「次回から、見送り案件は責任者の実名明記とする」
ざわめき。
「既に明記している」
「理由欄にも、署名を入れる」
空気が重くなる。
逃げにくくなる。
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その夜、西部でまた軽微損壊。
被害は小さい。
だが、確実に増えている。
思想は壊れていない。
だが、中身が薄くなりかけている。
第6部は、
制度ではなく、
“人間の恐怖”との戦いへ進む。
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