表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦後処理官(英雄の後始末をしていただけの男)をリストラした王国、なぜか勝利の代償を払う  作者: 鷹宮ロイド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/102

第63話 監査官カルド

 中央危機統括局・記録監査室。


 窓のない部屋に、紙の匂いだけが満ちている。


 カルド・イーヴは、半年分の優先選択記録を並べ終えた。


 見送り率、上昇。

 介入率、低下。

 大規模崩壊、ゼロ。


 数字だけ見れば、優秀だ。


 だが、その横に並ぶ小さな統計。


 軽微損壊件数、増加。

 軽傷者数、増加。

 中規模経済損失、増加。


「……削れている」


 静かな独り言。


 壊れてはいない。

 だが、削れている。


---


 カルドは、余力算出報告書を開く。


 各自治領からの提出書式は、ほぼ同一。


> 現在余力:中

> 予測危機:高

> よって温存


「予測危機?」


 実際の危機発生率は、低い。


 未来の不安を理由に、現在の介入を避けている。


 それ自体は、合理的だ。


 だが――


「余力が、使われなくなっている」


---


 ノア・リュカは、北方自治領の執務室で報告書をまとめていた。


「見送り三件、全て軽微」


 誇らしげですらある。


「無駄な介入を避け、余力確保に成功」


 制度通りだ。


 何も間違っていない。


---


 フォルン。


 エマは、最近の統計推移を眺めていた。


「壊れてない」


「はい」


 アレインは頷く。


「でも、削れている」


 エマが続ける。


 アレインは視線を向ける。


「何がですか」


「余力の意味」


 その言葉に、わずかに沈黙が落ちる。


---


 中央会議。


 カルドは、初めて発言を求めた。


「優先選択制度の運用状況について、監査報告を提出します」


 室内の視線が集まる。


 セルディオは、静かに頷く。


「発言を許可」


 カルドは、資料を投影する。


「見送り率は増加。大規模被害はゼロ。ここまでは成功です」


 誰も異論はない。


「しかし、小規模損害は増加傾向」


 画面に、折れ線が浮かぶ。


 緩やかな右肩上がり。


「余力は“温存”されているが、使われていない」


 ざわめき。


---


「何が問題だ」


 予算統括局長ユリス・バンデルが口を開く。


 低く、重い声。


「壊れていない。予算は抑制されている。成功だ」


 カルドは視線を向ける。


「余力は、削らないためのものではない」


「では何だ」


「判断を機能させるためのものです」


 静かな対立が生まれる。


---


 ユリスは笑う。


「温存は合理的だ。将来の大危機に備える」


「その“将来”は、いつ来ますか」


 カルドの声は平坦。


「来ない可能性もある」


「備えは必要だ」


「現在の傷が増えている」


 空気が冷える。


---


 フォルン。


 エマは、その報告の写しを握る。


「始まりましたね」


「はい」


 アレインは静かに言う。


「思想の解釈争いです」


---


 中央会議室。


 セルディオは、二人を交互に見る。


 どちらも間違っていない。


 だが、方向が違う。


「監査を正式開始する」


 短い宣言。


 カルドは、わずかに頷く。


 ユリスは、表情を変えない。


---


 その夜、西部でまた小さな変動が起きた。


 見送り。


 倉庫一棟、全損。

 負傷者一名。


 ゼロではない。


 壊れてはいない。


 だが、削れている。


 第6部は、

 制度そのものではなく、

 “使い方”を巡る戦いに入る。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ