第62話 縮小の連鎖
カルド・イーヴは、机の上に積まれた記録を一冊ずつ開いていった。
北方。
西部。
南方以外の小規模自治領。
共通している文言がある。
> 理由:自然収束見込み
> 理由:余力温存
> 理由:将来的危機への備え
どれも、間違ってはいない。
だが、どれも似すぎている。
「……言葉が揃いすぎている」
彼は、統計表を引き出した。
優先選択制度導入前。
導入後。
第5部終了後。
見送り率は、緩やかに上昇。
介入率は、目に見えて低下。
死者数は――
大幅増ではない。
だが、確実に増えている。
年間平均、+七。
「小さい数字だな」
呟く。
だが、小さいからこそ、見逃される。
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北方沿岸自治領。
ノア・リュカは、上司からの通信を受けていた。
「倉庫損壊の件、再評価は?」
「必要ありません」
ノアは即答する。
「死者ゼロ。軽微損害」
「余力は?」
「温存済みです」
自信がある。
制度に従った。
記録も整っている。
何も問題はない。
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フォルン。
エマは、北方の追加報告を読み終えた。
「……二名重傷」
「命に別状はない」
リシェルが言う。
「でも、防げた」
エマの声は低い。
アレインは、静かに問いかける。
「防ぐべきでしたか」
「余力があったなら」
「では、毎回余力を使いますか」
エマは言葉に詰まる。
それは、別の問題を生む。
過剰介入。
将来危機への備え不足。
「……違う」
彼女は小さく首を振る。
「理由が、軽い」
そこだった。
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カルドは、次の資料を開く。
北方の変動予測値。
自然収束確率六十パーセント。
「四割は、外れる」
低く呟く。
そして、その下に小さく書き込む。
> 判断基準の変質
> 余力温存が目的化している可能性
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中央危機統括局。
セルディオは、監査部からの問い合わせを受け取った。
「記録監査官カルドより、見送り増加傾向に関する照会」
副官が告げる。
「内容は?」
「余力算出基準の再確認要請」
セルディオは、しばらく黙る。
「……通せ」
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夜。
フォルンの丘に、エマが立っている。
「先生」
「はい」
「制度って、勝手に変わりますか」
アレインは少し考える。
「制度は変わりません」
「じゃあ」
「使う人が変わる」
静かな答え。
「目的がずれると、同じ言葉でも意味が変わる」
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その夜、小さな変動が西部で発生した。
再び、見送り。
被害は、軽微。
だが、倉庫一棟損壊。
負傷者一名。
ゼロではない。
また一つ、数字が増える。
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カルドは、机に肘をつきながら呟いた。
「大崩壊は起きない」
「だが、小さな傷が増えている」
制度は、まだ正しい。
だが、使い方が変わり始めている。
それは崩壊ではない。
だが、静かな劣化だ。
第6部は、
まだ表面に出ていない歪みを、
ゆっくりと浮かび上がらせていく。
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