第61話 静かな異変
北方沿岸自治領。
小規模な地脈変動が観測されたのは、午後三時だった。
規模は中。
連鎖確率、低。
予測被害、軽微。
数値だけ見れば、対応可能。
余力も、ある。
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「中央に報告は?」
「上げました」
「優先選択は?」
若い職員が、迷いなく答える。
「見送りです」
判断は、五分とかからなかった。
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中央危機統括局。
セルディオの机に、北方の報告が届く。
> 事象:中規模変動
> 余力:十分
> 判断:見送り
> 理由:自然収束見込み
彼は、数秒だけ目を止めた。
「……余力十分で見送り?」
副官が答える。
「最近は、この傾向が増えています」
「根拠は?」
「過去三件、自然収束でした」
データは正しい。
だが、違和感がある。
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フォルン。
エマは、その報告を読んで眉をひそめた。
「余力あるのに、見送る?」
「自然収束見込み、とあります」
リシェルが言う。
「問題ですか?」
エマは迷う。
「……問題ではないかもしれません」
アレインが、静かに補足する。
「ただし、記録を確認する必要があります」
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北方。
変動は、夜まで続いた。
収束はしない。
「予測より長い」
技師が呟く。
「再評価を」
若い責任者は、画面を見つめる。
余力は、まだある。
だが、もう一度介入を申請すれば、
“慎重すぎる”と見られる。
「……見送り継続」
決断は、軽かった。
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夜半。
小規模崩落。
港湾倉庫の一角が損壊。
死者なし。
負傷者二名。
大きな被害ではない。
だが、ゼロではない。
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中央。
「北方、軽微損壊」
副官が報告する。
「介入していれば防げました」
セルディオは、黙る。
計算上は、自然収束確率六十パーセント。
だが、四十は外れた。
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フォルン。
エマは、机を叩いた。
「余力あったのに」
「はい」
アレインは落ち着いている。
「なぜ見送った」
「自然収束を期待した」
「期待、ですか」
その言葉が、重い。
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北方責任者ノア・リュカ。
二十三歳。
若く、制度を忠実に守るタイプ。
「過剰介入は余力を削ります」
彼は報告書に記す。
> 判断:見送り継続
> 理由:余力温存
余力温存。
正しい言葉だ。
だが、違和感が残る。
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中央の記録監査室。
一人の男が、その報告をじっと見ていた。
カルド・イーヴ。
新任の記録監査官。
「……余力十分で温存?」
静かな声。
彼は、過去半年の記録を並べる。
見送り件数、増加。
介入件数、減少。
死者は少ない。
だが、微増。
「妙だな」
それが、始まりだった。
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その夜、世界は壊れていない。
だが、静かに何かがずれている。
見送りは、悪ではない。
だが、理由が変わり始めている。
余力は、守るものだった。
いつからか、
削らないための口実になっていないか。
第6部は、
静かな違和感から始まる。
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