第60話 選ばないという選択
三地域同時危機から、三か月。
中央危機統括局は、最終報告書を正式に封印した。
分厚い記録の最後に、三行が並ぶ。
> 三地域中二地域存続
> 南方山岳自治領、部分存続
> 優先選択制度、継続
簡潔だ。
だが、その裏に二十一の名前がある。
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フォルン。
エマは、丘の上から静かな町を見下ろしていた。
「終わりましたね」
「一区切りです」
アレインは言う。
「終わりではありません」
「何が残りましたか」
「選ばないという選択」
静かな答え。
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中央では、新しい演算基準が策定されていた。
優先選択の際、
> ・見送り理由を明記
> ・事後支援を最優先
> ・責任者名を固定記録
逃げ道を減らす仕組み。
冷たい制度だ。
だが、曖昧ではない。
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南方。
ライナは、新防衛線の外を見つめていた。
取り戻す計画はない。
無理をしない。
「次に同時危機が来たら?」
補佐官が聞く。
「また計算される」
「怖くないですか」
「怖いわよ」
素直な答え。
「でも、記録は残ってる」
それが支えだ。
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北方の港では、今日も船が出る。
西部では、麦が揺れる。
南方では、小さな市場が開く。
世界は、完全ではない。
だが、壊れ切っていない。
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フォルン。
エマが言う。
「先生、助けなかったことって、正解なんでしょうか」
「正解という言葉は使いません」
「じゃあ」
「必要だった」
短い答え。
「必要であっても、痛みは消えない」
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アレインは、新しい頁を開く。
そこに書く。
> 判断:優先選択
> 助けなかった地域:南方山岳
> 理由:余力不足
> 結果:三地域存続(規模差あり)
そして、最後に。
> 備考:
> 選ばないという選択も、
> 記録する
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夜。
三地域で、灯りが揺れる。
同時に小さな変動。
全て見送り。
余力は、まだある。
選ばなかったことは、
消えない。
だが、世界も消えていない。
第5部は、ここで終わる。
助けないという決断は、
冷たく、重く、許されにくい。
それでも。
記録が残る限り、
選択は曖昧にならない。
そして、世界は続く。
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