第59話 選ばれなかった場所の意味
南方山岳自治領を、エマが訪れたのは初めてだった。
再建された防衛線は、以前より明らかに内側にある。
削られた外縁部には、もう人の気配はない。
風だけが吹き抜ける。
「ここが、崩れた区域です」
ライナが静かに言う。
瓦礫は片付けられている。
だが、地面の色が違う。
削られた跡だ。
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「十八名は、この区域から」
記念碑は、小さく、質素だ。
名前が並んでいる。
エマは、一つ一つを目で追う。
数字ではない。
文字だ。
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「……恨んでいますか」
思わず口に出る。
ライナは、少しだけ笑う。
「誰を?」
「中央を」
少しの沈黙。
「恨んでいないと言えば、嘘になる」
正直な言葉。
「でも、否定もしない」
「どうして」
「否定すれば、次は感情で決めることになる」
あの日と同じ答え。
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再建区域の小さな市場を歩く。
規模は半分。
店も少ない。
だが、客はいる。
「縮んだほうが、静かです」
ライナが言う。
「余力がある」
その言葉に、エマは頷く。
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「選ばれなかった場所って」
エマが、ぽつりと呟く。
「意味はあるんでしょうか」
ライナは、少し考えてから言う。
「あるわ」
「どこに」
「他の場所が残った」
即答。
「私たちが切られたから、北と西は守られた」
言葉は冷静だ。
「それが意味」
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フォルン。
アレインは、エマからの報告を読んでいた。
南方の再建。
記念碑。
市場の再開。
そして、最後の一文。
> 選ばれなかった場所は、消えていない
アレインは、静かに頷く。
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南方の丘の上で、エマは最後に振り返る。
削られた外縁。
小さくなった町。
だが、灯りがある。
「……消えてない」
小さく呟く。
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中央危機統括局。
セルディオのもとに、南方再建進捗報告が届く。
人口回復率七十パーセント。
経済活動再開。
「存続確認」
副官が言う。
セルディオは、短く答える。
「良かった」
その言葉は、誰にも聞こえない。
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夜。
三地域で、同時に小さな揺れがあった。
全て見送り。
余力はある。
選ばれなかった場所は、
壊れた。
だが、消えなかった。
その意味は、
数字では測れない。
十八の名前の下で、
小さな町が続いている。
それが、この選択のもう一つの答えだった。
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