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戦後処理官(英雄の後始末をしていただけの男)をリストラした王国、なぜか勝利の代償を払う  作者: 鷹宮ロイド


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第28話 更新されたやり方

 変化は、宣言から始まらなかった。


 会議も、条約も、発表もない。


 ただ、

 同じ言葉が、別の場所で使われ始めただけだ。


 南方交易都市リュネア。


 かつて一度、

 フォルン辺境領に使者を送った都市。


 彼らは、

 派手な制度改革をしなかった。


 代わりに、

 記録用紙の下段に、

 一行だけ追加した。


対応しなかった理由


 それだけだ。


「これ、書きにくいな」


 若い担当官が、苦笑する。


「やらなかったって、

 怒られそうだ」


「だから、理由を書く」


 上司は、淡々と答えた。


「判断して、やらなかったなら、

 責任はある」


 責任がある、という言葉は、

 免責ではない。


 覚悟だった。


 数日後。


 港湾区画で、

 小規模な結界不安定が起きた。


 数値は基準内。

 被害もなし。


「……今回は、見送る」


 現場責任者は言った。


「理由は?」


「潮位変動が原因。

 干潮後に自然回復が見込める」


 記録に残される。


対応:見送り

理由:

介入による航路制限の影響が大きいため


 結果、

 異常は消えた。


 誰も気づかない。

 ニュースにもならない。


 だが、

 無駄な作業は一つ減った。


 別の場所。


 内陸自治領の小さな町。


 結界技師は、

 古い記録を読み返していた。


判断理由:

異常が出なかった

だが、出る可能性はあった


「……この書き方」


 見覚えがある。


 誰に教わったわけでもない。


 だが、

 考え方は伝わっていた。


 フォルン辺境領。


 アレインは、

 新しい報告書をまとめて見ていた。


「増えてますね」


 リシェルが言う。


「“見送り”の記録が」


「はい」


 アレインはうなずく。


「更新されました」


 何が、とは言わない。


 それで十分だった。


 エマは、

 リュネアから届いた一通の私信を読んでいた。


正解は分かりません。

でも、

やらなかった理由を書くのは、

前より怖くなくなりました。


 彼女は、静かに息を吐く。


「……広がってます」


「はい」


 アレインは答える。


「でも、

 広めてはいません」


 それが、重要だった。


 世界は、

 劇的には変わらない。


 だが、

 少しだけ“重さ”が減る。


 無理に積み上げていたものを、

 一つずつ降ろすように。


 その日も、

 多くの国で何も起きなかった。


 だが、

 起こさなかった出来事が、

 確実に増えていた。

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