第25話 間に合った代償
ガルディア工業国家は、期限に間に合わせた。
条約で定められた復興条件は、すべて達成。
主要都市の結界は稼働し、
制裁も回避された。
公式発表は、簡潔だった。
復興計画は成功した。
国家機能に問題なし。
それ以上の説明は、ない。
首都中央区。
結界塔の足元で、技師たちが交代制で立っていた。
顔色は悪いが、
誰も弱音を吐かない。
「間に合ったんだ」
それが、唯一の免罪符だった。
だが、三日後。
一人の熟練技師が、職を辞した。
「……もう判断ができない」
引き継ぎ書は、整っている。
数値も、手順も完璧だ。
だが彼は、最後にこう書き残した。
判断理由:
正しいかどうかを、
考える時間がなかった
その一文は、
報告書としては不適格とされ、
保管庫に回された。
数週間後。
同じ区画で、
別の小さな異常が起きた。
結界は破られていない。
被害も出ていない。
だが、対応は遅れた。
現場にいたのは、
経験の浅い技師だった。
「前例は?」
「……あります」
「同じでいけ」
判断は、
“記録どおり”に行われた。
結果、事態は収束する。
だが、以前なら
不要だった消耗が発生した。
フォルン辺境領。
アレインは、ガルディアから届いた
人事記録を見ていた。
「……減っていますね」
リシェルが言う。
「判断できる人が」
「はい」
アレインは静かに答える。
「間に合った代償です」
エマは、資料を握りしめていた。
「これ、成功なんですか」
「公式には、そうです」
アレインは否定しない。
「でも……」
「でも、
次は間に合わないかもしれない」
それが、答えだった。
ガルディアでは、
次の復興計画が動き始めている。
今度は、より短い期限。
より厳しい条件。
理由は単純だ。
「前回、できたから」
成功は、
次の無理を正当化する。
エマは、ノートに書く。
間に合うとは、
未来を前借りすること
返せなくなった時、
本当の破綻が来る
その言葉の重みを、
まだ彼女自身も測りきれていない。
フォルン辺境領では、
今日も判断が積み重ねられている。
期限はない。
賞賛もない。
だが、
代償も、積み上がっていない。
ガルディアの夜景は、
相変わらず美しい。
誰も気づかない。
その光の下で、
「考える人」が
確実に減っていることに。




