第24話 急いでいる国
フォルン辺境領に、久しぶりに“急ぎの使者”が来た。
埃まみれの外套。
休む間もなく差し出される国璽付きの書簡。
「至急、助言を求める」
その文字だけで、
アレインは内容を察した。
使者は、南西の工業国家ガルディアから来ていた。
短期決戦で戦争を終え、
復興を急ぐ国。
「時間がないのです」
応接室で、使者は切り出した。
「三か月以内に、
主要都市の結界を完全復旧させなければならない」
リシェルが眉をひそめる。
「理由は?」
「条約です」
勝者として課された条件。
復興の遅れは、即制裁につながる。
確かに、猶予はない。
「だから、あなた方の方式を」
使者は身を乗り出す。
「記録でも、訓練でもいい。
最短で“使える形”を」
エマが、思わず口を開いた。
「最短……?」
その言葉に、
アレインは静かに首を振る。
「無理です」
即答だった。
「なぜだ」
「急いでいるからです」
使者の表情が強張る。
「我々は、
失敗できない状況にある」
「だからです」
アレインは、淡々と続ける。
「失敗できない場所では、
考える余裕が生まれません」
「それでも、
何もしないよりはましだろう」
使者は食い下がる。
「後始末を前提にすれば――」
「前提に、
してはいけません」
アレインの声は低い。
「後始末は、
失敗を受け入れる覚悟があって初めて成り立つ」
それがない国は、
記録だけを欲しがる。
沈黙。
使者は、しばらく黙り込んだ後、
苦々しく言った。
「では、
我々は見捨てられたのか」
「いいえ」
アレインは否定する。
「選択を、
あなた方に返しただけです」
その夜。
ガルディアの首都で、
結界の強制再起動が行われた。
数値は回復し、
期限も守られた。
だが、技師の一人が倒れた。
過労によるものだと処理され、
事故には数えられない。
フォルン辺境領。
報告を聞いたエマは、唇を噛んだ。
「助けられたかもしれないのに」
「助けていません」
アレインは静かに言う。
「急ぐ選択を尊重しただけです」
それが、
この世界の現実だった。
数週間後。
ガルディアでは、
小さな不調が連鎖し始める。
誰も大きな声を上げない。
期限は守られたからだ。
数字は、基準内だからだ。
エマは、ノートに書き残す。
急ぎは、
判断を単純化する
単純化は、
見えない損失を生む
その言葉に、
答えは書かれていない。
その日も、
フォルン辺境領では何も起きなかった。
だが、
急いでいる国は、
確実に増えていた。
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