サナギから旅立つ日
「忘れ物ない?全部持った?持ったならさっさと行け!」
「うるさいなぁ、言われなくてもすぐ出てくってば。」
姉のハンナが無愛想に送り出し、かとおもえば、今度は心配性の母が騒ぎ出す。
「本当に大丈夫なの?アンタ危なっかしいから、すぐにでも怪我するんじゃないかって、お母さん心配で心配で。」
「大丈夫だって。忘れ物もないし、あの日から、ペトロさんが居なくなってから、毎日鍛錬を積んだんだ。もう、村では誰にも負けない。」
あれから十年程が経ち、もう立派な青年となったプシュケは、旅立ちの日を迎える。
ペトロに勇気付けられてから、約束の通りロシナンテになるための鍛錬を積んだプシュケは、村では負け無しで、冒険者となったとしても十二分に通じるであろう実力を持っていた。
「違うわよ。いや、違わないんだけどね。その、転けたりする方の怪我。アンタ、鈍臭いからさ。」
「あ、そっち? それなら大丈夫。鍛錬で体幹ついたし、注意もしてるから。」
「ならいいのだけど。ていうかペトロって誰よ?お母さん知らないわよ。」
「良いんだよ、お母さんは知らなくて当たり前だから。ちなみに、何年か前にアドバイスくれた人だよ。」
「そう。じゃあ、いってらっしゃいプシュケ。」
「行ってきます。」
こうしてプシュケは、十六年間住み続けた村から旅立った。
最初に向かうのは、冒険者の街“ブランメル”だ。
冒険者になる理由は、冒険者になると貰える特別な通行手形が非常に便利だからである。冒険者が持つ通行手形は、大抵の街をそれを見せるだけで無料で通れるという優れ物のため、これから長旅をしようという懐の寂しいプシュケにとって、これ以上ない必須アイテムであった。
あと他に欲しいものと言えば、パーティメンバーだ。自分の夢を笑わずに受け入れ、共に目指してくれるような、そんな仲間が欲しいところである。できれば強いと嬉しいが、欲張るのも良くないと自制した。
取り敢えず、ブランメルへはブランメル行きの馬車に乗って行く。その為には、馬車停がある隣の隣の街に行く必要があるので、そこまでは流石に歩く事にした。
「おじさん、馬車に乗せてください。」
「あいよ。五ペニね。」プシュケは五ペニを失った。
「ありがとうございます。」
馬車に乗り込むと、プシュケの他にも何人かの乗客が見えて、少し驚いた。
すると、隣の人に声をかけられた。物凄い美少女だった。可愛らしい顔立ちに、プシュケの胸くらいしか無い身長。髪は少しクセのあるボブで、白髪だった。正確には白に近い金?だったが、プシュケはこんな美人を見た事が無かったので、緊張が凄い。
「ね、ねぇ。君も、ブランメルに行くんでしょ?僕、ネネルって言うんだけど、君は?」
初めて見る僕っ子に、プシュケは更に緊張している。
「お、俺はプシュケ。隣の隣にあるトルテ村から来たんだ。」
「プシュケ、もし良かったらなんだけど、ブランメルに着いた後は、お互い分からない事が多いと思うから助け合えたらなって思うんだよね。だから、えっと、友達になってくれないかな。」
「勿論だ!心強いよネネル。これから宜しくお願いします!」
こうして、プシュケは初めての友達を得たのであった。




