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遥なる酒  作者: かきのたね


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16/22

15話

 女子会当日。

 私達は、神戸のとある喫茶店にいた。

 少し薄暗く落ち着いた光の照明が、アンティーク調の店内を優しく照らしている。

 だが、そんな店内の隅には観音様が鎮座しており、独特の雰囲気を醸し出していた。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい、ありがとうございます」


 木で出来たトレイの上には、白く綺麗な皿が置かれている。その真ん中では、熱々のとろけたチーズのかかったチーズケーキが存在を主張している。それが四つテーブルに並び、トレイの隅にはコーヒーやカフェオレが添えられていた。


 小川先輩は足元に紙袋を置いたまま優雅にコーヒーを一口ずつ飲んでいる。

 小春ちゃんは、チーズケーキをナイフで切り、持ち上げると細長く伸びるチーズにご満悦。

 凛ちゃんは、椅子に深く腰掛けてコーヒーをちびりと一口。

 そして私は、荷物を横に置いたまま店の壁をぼんやり眺めて口を半分開き、そこから魂が抜け出ていた。


「都会……怖いの……」


 どうしてこんなことになってしまったのか、話は数時間前に遡る……


――――――――――――――――――――


 朝、まだまだ集合場所には余裕がある時間。私はクローゼットの前で唸っていた。


「むぅー……小春ちゃんは、カジュアルな感じでいいとは言ってたけど……」


 学校に行く時によく着ている服と、通販で買ってから全然着る機会がなかった可愛い服を見比べる。……水族館に可愛い服を着て行ってもよかったかもしれないが、あの時はそんな気分にはなれなかった。


「……別に可愛くても、問題ないよね」


 胸元にリボンが付いたブラウスに腕を通すと心が弾む。ふわりとした白いフリル付きのティアードミニスカートとチョコレートのような色の厚手のタイツを履き、鏡の前で確認する。

 うん、間違いなく可愛い。少し歪んでいたリボンの形をちょんちょんと調整した。あとは薄いピンクでふわふわなボア生地の上着を羽織り、頭にお気に入りのベージュのニットベレー帽をかぶって、これで完成! これで初めての女子会も、しっかりと乗り越えられるはず!

 クリーム色のミニポシェットを斜めに掛けて、部屋を飛び出した。


 思わず撫でてしまうような可愛らしいファーに一目惚れした、おろしたてのベージュのブーツを履いて待ち合わせ場所……全員揃って三宮に向かうため、まずは学校の最寄りのバス停で待ち合わせることになっていた。

 そこからそのまま高速バスに乗れば、三宮までは一本だ。

 まず移動のために地元の路線バスの停留所に行くと、そこには先に凛ちゃんの姿があった。

 グレーのチェスターコートに濃紺のセミフレアデニムパンツ。カフェオレブラウンのブーツを履きこなして黒のキャスケット帽を深くかぶっている。手には黒いトートバッグを下げているが、アクセサリーの類は見受けられなかった。


「おはよー!」


「おはよう。それ、ずいぶん可愛い服じゃん……。デートでも行くの? まあ、別にいいけど……」


「いいでしょ、これ。可愛いけど、なかなか着る機会がなくてねー。凛ちゃんもその服、格好いいね」


「格好いいよりも、綺麗とか言われたいんだけどね」


「あはは、ごめんごめん」


 そうこうしていると、バスがやってくる。乗ってから10分もすれば待ち合わせ場所のバス停についた。バスから降りると、既に小春ちゃんが先に到着していた。


 小春ちゃんは濃い茶色のゆるく巻いた髪の毛も合わせて全体が甘いチョコレートとミルクのような色合いで、とても可愛らしかった。羽織っているふわふわしたショート丈の茶色いダッフルコートの裾と、そこから覗く同系色で少し色褪せたデニムミニスカートが、小春ちゃんが大きくこちらに手を振るたびにひらひらと揺れる。

 コートの間からはアイヴォリーのシンプルニットが顔を出し、ウール製の白いマフラーが暖かそうに巻かれていた。白くて小さなポシェットを肩から斜めに掛け、そこからは可愛らしい小さなイルカとシャチのぬいぐるみがぶら下がっている。手元には愛らしい白の手袋。足元は長めの靴下に白いスニーカーと合わせて、活発な感じがにじみ出ていた。


 私とは違う方向の可愛い格好をしていて、少し真似できそうにない……おしゃれの経験値の差を感じさせられた。


「おはようございます。先輩たち、一緒だったのですね」


「おはよ。うん、後は小川先輩だけだね」


「おはよー! 小春ちゃん、今日も可愛いねー」


「あはは……ありがとうございます。本田先輩も、今日はずいぶん可愛い服なのですねー」


 小春ちゃんの視線が上下に動く。その後に目線が合うと、右手を口元に当てながら少し眉を下げていた。


「でも、先輩……大丈夫ですか? その綺麗なブーツもそうですけど……そのスカート、結構ボリュームありますね。今日はデパートに行きますから、かなり歩く上に人混みもすごいと思うのですけど……」


「えっ……。そうなの?」


 二人の足元を見た後に、自分の足元をちらりと見る。スッキリしたカジュアルで動きやすそうな二人と、ふわふわとフリルが揺れる自分を見比べると、急に少し心にもやがかかってくる。


「どうしよう……。ちょっと、靴とスカート……履き替えたいかも……」


「今から戻るのは、流石に難しいんじゃない?」


「だよねー……あ、あっち見て。小川先輩が来たみたい」


 先輩は、ライトブラウンのロングコートに白いシンプルニット。ボトムスはブラウンのロングスカートと、足元は履いているのを何度も見たことがある、コーヒーブラウンのローヒールブーツ。それとツヤを抑えた革でできた黒のショルダーバッグを肩から下げており、首元には細いシルバーのチェーンネックレスが品よく銀色の光を反射していた。

 その姿からは、服を着こなしている大人の風格というものが漂っていた。私たちの前で足を止めると、先輩は綺麗に微笑む。


「おはよう。待たせちゃったかしら?」


「いえ、大丈夫です。その服装、素敵ですね」


「あら、凛ちゃんも落ち着いてスタイリッシュな感じで素敵じゃない。小春ちゃんはカジュアルな感じで可愛いわね。でも、足は寒くないかしら?」


「そこは我慢ですねー」


「そう、無理はしないでね? 遥ちゃんは今日はずいぶんガーリーな感じで、とっても可愛いわね!」


 改めて自分の姿を見渡す……。

 落ち着いたシックなトーンでまとめた三人。

 それに対して、上から下まで薄いピンクや白いフリル、全力の甘口で揃えてしまった私……。浮いてないかな? これ。

 私一人だけ明るい色で、マシュマロみたいにふわふわしていて、一緒にいると馴染めていない気がする……。


「ありがとうございます……。えっと……私、一度家に帰って着替えてきても……いい……かな?」


「今から戻ると、1時間以上かかると思うけど……バス、待たないとだめだし」


「そうねぇ……。あ、そうだ。途中で古着屋に寄りましょう? あの辺りって、いいお店が沢山あるのよー。そこで上着だけでも見繕えば大丈夫よ」


「うぅ……そうします……」


 そして、私達は高速バスへと乗り込んだ。楽しいはずの女子会への道。それは、私の上にだけ暗雲がたちこめているように感じていた……。

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