第四十九話 知恵のきたけ
ラスティたちは知らされていた編成を思い返し、近場に居るハズのドゥンを、本陣を経由してから合戦場の中央を目指す。
救護所から前線へ向かう途中にあるし、『司令官』に何も知らせないままに戦いを乱すような真似はできないからだ。
低木の繁茂する細い道は、先んじて騎士、騎馬、兵たちに踏み固められ馬車の進むに苦労はなかった。
「聖騎士を守るため、聖女自ら最前線で戦い抜きましょう!」
(そんなマネしたら王女も危ないでしょ……ッ?)
「わたくしはまだ現れぬ勇者に代わり、戦士たちを導く聖女と肩を並べ、戦女神となるのですわ!」
わずかに揺れる馬車の中、姫は最前線を目指す予定だったようだがラスティはそうしたくない、とコマッタケを生やしつつ道筋を変えた。
戦女神が本音なのだろうな、と三人娘たちは納得し、姫を説得した。
自分の欲求を満たし、目的を成し遂げるためにヴァーミラは前線へとラスティを押し出そうとしていたが、なんとかソレを止めたのだ。
手綱を取り回す馭者としてはエライ女性たちを乗せているので冷や汗が止まらなかったが。
「んもうっ、ヘルトナート!」
「は、ひゃい!」
「聖騎士になにかを言われたとて、救護所へは戻りませんわよね?」
ラスティは肩を掴まれ萎縮する。
しかし視線は逸らさなかった。
果たしたい『気持ち』に、彼女も成長していた。
「わ、たしも今回の、お役目のために『救護班』で見ているだけなのは、違うと思います……! セレイアお姉ちゃんも、エレオさんも、魔法兵として頑張ってくれているのだから……!」
セレイアも魔法のちからを伸ばしており、特に彼女は火の魔法に適性を見せている。
そのため今回の『樹木の魔物』にダメージを与えられるだろうとエレオミラと共に中衛に配置された。
ラスティは彼女たちを思い、安全を願った。
「だから、作戦の『手伝い』をしたい、デス! ドゥンが考えているのは、指揮官であるあの『闇の精霊』を討ち取るコトだと思うから……」
未だに本陣に到達していない馬車の荷台から空を見上げる。
旋回するワイバーンの背中には、緑色の苔人形が張り付いていた。
アレを…… 指揮するモノが居なくなれば、魔物は同士討ちも有り得るだろう。
その発想は読み取れたし、それなら一点突破で済む。
自分ならそうする、それが理由のひとつだった。
☆
「……で、オレんトコに突撃してきた、と?」
「ひゃ、う……」
「それが何かッ?」
申し訳ないという顔のラスティと、不満そうなヴァーミラの顔を交互に見てドゥンは深く溜め息をついた。
「まずはバカヤロウ、って叱って、蹴り戻したいトコロだけど、今回の作戦立案の時点で参加させなかった理由まで思い至ってるなら話を聞いてやるぜ?」
「えっ、と……」
ドゥンがラスティを遠ざけたのは、王国騎士たちの『面子』を立て、軍としての運用を系統立てるためだ。
そうでなかったら王命であるとて指示伝達が偏り、命令に従わないモノも出ただろう。
だからソレをしっかり『理解』しているなら、聖女を説得できるだろうと思えたのである。
「この戦いは、聖女の『遠征』とは違う、みんなの戦いだから。それに、ちゃんとみんなが戦わないと、得られる結果で貴族たちのパワーバランスを乱してしまうから、よね?」
「おう、そのとーりだぜラスティ」
「それと…… わたしのアイデアを入れてしまうと、今後も頼られてしまうから、心配してくれたんじゃない? かな?」
「……それはどーかな……」
不意打ちの図星にドゥンは目を逸らした。
友人たちに聖女を任せたのも『国のお偉いさんが雁首揃えて女の子を頼る』という図式に嫌気がさしていたからだ。
だから聖騎士はひとり戦争の陣頭に立つハズだった。
「あー…… くっそ! まぁいいや。もう開戦しちまったからなァ。ここから何かしら小細工できるモンでもねぇし。作戦に文句でもあんのか?」
「逆よ! その作戦の『補完』をしたく思いましてよ!」
ヴァーミラが吠えた。
話がこじれそうなのでドゥンは姫の唇に手のひらを押し付け、少し黙らせた。
「オレは聖女と話してるんだ。姫サマのワガママで魔物とじゃれてるワケじゃねえ」
「むぐーッ!」
苦笑いを浮かべ、ラスティはドゥンに応じた。
「作戦に文句はないけど…… 力添えしたいの」
「ふぅん。でもまぁ、現状、まだ魔物は増え続けてるぜ。ここから何かするのは机上の空論だと思うぞ」
「でも少しでも『選択の余地』を増やしたいの…… 作戦の中核は『ワイバーン対策』でしょ、城から三基のバリスタを借り受けてるものね」
魔法兵、騎馬兵など兵種は様々だったが、弓騎士隊に配備された『投射兵器』は後方でも見えていた。
歩兵に運ばせていたのでその意味も想像ができたのだ。
「……で?」
「作戦の内容を全部は知らないけれど、中衛の、守りが厚いトコロに『兵器』を置いてるなら、そこをワイバーンが襲うだろうと見越しての対抗策、つまり慣れてない兵士でも効果的な運用がしやすいからだろうな、って……」
「ソコには二基だけだ。前線近く、パナヤにヒュドラ対策としてひとつ操作してもらってる。アイツなら前線を任せられッからな」
元々の戦術予測はこうだ。
①盾役の騎兵隊と歩兵、槍兵により前線で獣型の魔物を抑える。
②進行してくる大型の魔物についてはバリスタ、魔法兵によって牽制、消耗を強いて膠着を狙う。
③飛行型の魔物の遊撃を誘い、投射兵器や弓矢でコレも消耗を強いていく。
④指揮官である精霊の行動を確認、射程範囲に入るのを確認次第、投射兵器によって攻撃する。
……隊長格との対応策会議で捻出したのがこの作戦である。
ドゥンは王命であっても意見を聞かずには動かしたくなかったし、人死にはなるべく避けたかった。
「……それは……? うん、そっか、だから最前線に魔法兵は……」
ここで初めて作戦を知ったラスティは、しかしそんな聖騎士の心までは知らない。
だが、彼女の中の『迷い』は見付けていた。
「今回の作戦って、消耗戦に見せて『一撃必殺狙い』の、闘いなんじゃない?」
ドゥンは黙ったまま。
不安な顔をしてる三人娘は、ラスティの背後に落ちていく『知恵のきたけ』を受け止めるのに忙しい。
今回のキノコは知恵熱を下げる効能を発揮していた。
「どうしてそう思う?」
ドゥンは溜め息を隠し、噛み潰し、頭働きじゃ敵わないな、と諦めていた。
「魔物対策として『距離を取る』のは常道だけど…… バリスタを全部前線後方に押し出してたら『殲滅』するちからを増すコトになるのよね。それをこう配備してるのって、相手の出方を伺って『定石外れを誘ってる』ように見えるの。戦力を温存してるのはそういう意味でしょ?」
ラスティは想定を上回る。
戦に慣れた騎士の話し合いの末を、端的に語った言葉と戦力配分から見抜いたのだ。
傍に控えていた大隊長のひとりは、彼女の『慧眼』にアゴを外してしまったように驚いていた。
「包囲網を拡げてねえのは、確かに。だが、これは戦いなんだ。不意打ち騙し討ちが当たり前なんだ。安全を願うのは上の立場として当たり前だろ、それが、なんでインファイトだ?」
「機動力のある弓騎士が前線じゃなく『中衛』に多いのと、パナヤさんの纏める『能力者部隊』がまだ控えてるから」
「あ~…… アイツらなぁ。そういや兵士よりラスティに馴染みのヤツらばっかだわなぁ……」
「学園所属の貴族教師や、巡回騎士隊員さんたち…… ヒュドラ討伐以降、仲良くなってくれたもの、忘れられないよ」
大戦力の温存、それは魔物に、魔王の手下に知られないようにしていた『奥の手』だ。
作戦の上辺と人員からラスティがそこまで読むとはドゥンも思っていなかった。
前線の状況はドゥンが語った通りになっていて、現状を上回る予測をラスティは見せた…… ただ、作戦を知ったからとてラスティの参戦に応じるコトはできない。
「だからって戦況判断力だけじゃ幕僚に加わるのは許せないぜ?」
「ッぷは、聖騎士ア=ドゥン!」
説得は無理か、とヴァーミラがドゥンの手から逃れ、自分の権力に訴えようとした時。
「伝令! 中衛位置にワイバーンの襲来! 魔法兵部隊が応戦しておりますが、バリスタ一基が破壊されました!」
作戦の中核、パナヤの居る場所が強襲されたとの一報が入った…… そして重く響く魔法の炸裂音。
友人を思い、ラスティたちはそちらを振り向いた。
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