第四十八話 ヒトサマのちからを見せつける
魔物と人、その戦いは薄曇りの下開かれた。
予定時刻は何をしていても迫り、戦士たちの雄叫びにより始まってしまった。
魔王の軍勢は魔物たちだ、時刻を知るワケもない。
人々の攻勢を受ける形で開戦となった。
過去の魔王討伐でもこういった『大戦』になるコトが多かった。
というより勇者だけで魔王城へ挑む、などという『鉄砲玉扱い』のが少ない。
「聖女ならば聖騎士と共に行動するモノです、わたくしもお供しますわ!」
雄叫びの前線より王城側に離れた救護のテントの中、ラスティの背中に王女ヴァーミラが話し掛けていた。
第一王子カエルス、第二王子アルクスと王城にて待機しているのに、彼女はフットワーク軽く使者を見送ったり、国内の騎士たちの指揮に口出ししたりと忙しい。
ここでも大きな声で発破をかけていた。
「……でも…… 王からの命令ですし……」
「友として、心配なさっているのなら動きなさい!」
置いていた杖を前に出し、前線へ行こうと言うのだ。
ラスティだってドゥンが心配で仕方ない。
特に、遠くからも五頭のヒュドラや大型のワイバーンの群れが見えていたのだから。
「前線の聖騎士ドゥンだけでなく、中衛の弓騎士も、支援部隊に入った学園の皆さんも! 聖女の護衛としてあなたと共にあるコトを望んでいましてよ!」
「そ、れは……!」
《ゴッ…… ドドドンッ……》
そんな会話をしていると遠くから大きな音が響いた。
先日から魔法の威力が格段に引き上げられた、と魔法使いたちから連絡もあって、魔法の有効性が引き上げられた。
戦闘の順序が変わったのである。
元来はまず『弓による一斉掃射』で矢を射掛け、突出してきた敵を槍や魔法で攻撃、騎士たちにより剣で迎え撃って、そこで『前線』が決まるのだ。
それが今は『魔法で範囲攻撃』してから討ち洩らしを弓矢で射掛け、残った敵を騎士が止め、また魔法で攻撃…… というサイクルを考案され、その指揮監督に聖騎士ドゥンが抜擢された。
魔法と戦闘の組み合わせ、そしてその対応というのは実戦経験がモノを言うからだ。
「この戦いは過去の記録が役に立たない、初めてだらけの戦闘なのですわ! あなたの知恵が必要な場面もきっとありますわよ!」
「ッ、そう、だよね。ドゥンも、怖いハズだもんね……!」
「よろしくてよ! 救護所の責任者は…… あなたね!」
「は、はいっ姫さま!」
「いきなりで申し訳ありませんが、聖女は借りていきますわ! ヴァーミラがそそのかした、と陛下へお伝えなさい!」
まだ誰も患者の居ない救護所を若い薬師に任せ、一向は平原を空いていた荷馬車で駆け出した。
乗り込んだのは聖女ラスティ、王女ヴァーミラ、支援三人娘。
まずは中衛部隊長、弓騎士パナヤを探すため。
☆
魔王の軍は水棲の魔物四割、森の魔物が五割、空の魔物が一割という混成になっていた。
魔物を統率するのは緑色の『苔人形』のような闇の精霊。
総勢600頭ほどまで膨らんでいた。
中核となるのは五頭のヒュドラ、大型のワイバーン、そして樹木の魔物トレントだ。
ヒュドラは最前線を進む。
その周囲から少し離れて樹魔木が続く。
ワイバーンはかなり上空から見下ろし、その背中に闇の精霊を乗せていた。
「ヒューッ、ヒュドラは速力そう無いからいーけど、ワイバーンが滞空しているのを見上げてるなんざ、命知らずにもほどがあるぜ」
聖騎士ドゥンは一時的に配下となった軍勢を振り返る。
魔法兵100、騎馬兵900、弓騎士隊500、槍兵500、歩兵800に衛生や伝令など合わせた合計3000名の大部隊だ。
元々の隊長格の意見を聞かずに動かしていい、と王から命じられたとはいえ、ここまでの人数を、命を預かるというのは重く苦しい。
しかしそんな心の動きを部下に見せられない。
危険な戦いに身を投じる兵士たちに、不安を与えるのは『上に立つ者』としてあまりにも軽率だからだ。
ドゥンは冷や汗を隠し、どうなる、どうする、という自問自答を繰り返していた。
ここに至るまでにもう何千回と思考、施策の想定を話し合ってきたので、大隊長たちも彼女のプレッシャーには気づいているし同情もしていた。
だが、これは戦いなのだ。
「聖騎士どの。時刻です」
「オウ! 初手構え、魔法準備! 挨拶は派手な炎のプレゼントだ、必要な距離まで詰めたらタイミング合わせてトレントどもを焼き尽くせ!」
古式に肖り、七つの角笛、大太鼓を構えさせる。
角笛と太鼓の音で指示が伝達され、想定通り部隊は動いていく。
それはたくさんの命を奪い、たくさんの犠牲を生み出すだろうが、もう止められない。
「また聖女サマに怪我を治してもらえるとか思ってんじゃねえぞ、魔物どもを駆逐し、倒しきってからじゃなきゃ聖女の微笑みは迎えられねえと覚悟しやがれ!」
ドゥンの脳裏には死があった。
それぞれのモンスターへの対抗策はあれど、その混成での突撃だ。
この『蹂躙』にラスティが巻き込まれるコトがなければいいが…… その気持ちが凶暴な微笑みに出ていた。
「恐怖を知らねえモンスターに、ヒトサマのちからを見せつけるぞ!」
《ブォッ》
天を突く彼女の太い腕が、振り下ろされた。
開戦である。
《プァアップァアップァアップァアッ!》
《ドドンッ、ドンッドンッドドンッドンッドンッドドンッ!》
「おおおおおおッ……!」
「おおおおおおォッ!」
前線を詰めるため、すべての兵種は駆けていく。
「手順忘れんなよぉあ!!」
戦舞台に立って、武者震いに視界が揺れる。
この戦いでは自分の腕で命の遣り取りをするコトができないだろう。
ドゥンの居る本陣まで魔物が来るのならば、それは負けなのだから。
『気をつけてね、ちゃんと戻ってきてよね?』
小さな友人、聖女ラスティの優しい、悲しそうな顔が浮かぶ。
泣かせたくはない。
そう感じて、彼女は拳を握った。
「本陣をここ、平原端の森から南、街道近くの救護所へと寄せろ。指示伝達はそのまま角笛と太鼓。魔法は準備整い次第指示通りに炎、水、土と属性をずらしていけ。騎士たちは遠距離攻撃とワイバーンを警戒、攻勢を続けるため、仲間を守れ!」
(聖女を守る聖騎士らしくねえ。いや、元々オレぁ騎士らしくはねえが)
ドゥンは自分で斬り結ばないのも、脅威と対峙していないのも不満だった…… だが高い威力の魔法を織り交ぜての戦など誰も知りはしない。
作戦は詰めてある、始まってからもその通りに動いている。
相手は魔物、そしてコレはまだ初戦だ。
こちらの王が居ないのもそうだが、相手の王、魔王自身も居ない。
そしてその配下である闇の精霊は、高い位置から見下ろして居るばかりだから。
「……ホント気に食わねえな。とっとと引き摺り落としてやる」
あの奇妙な姿を見て、ドゥンは『精霊』にも器というか、肉体がなければ魔物を統率するちからも発揮できないのだろうと予測していた。
だから前線を形づくるのは当然として、ワイバーン対策を、闇の精霊を撃ち落とす一手の用意を進めていたのだ。
「頼むぜ、パナヤ。あんたが今回の主役なんだからよォ!」
《ゴッドォオオンッ!》
前線では騎士たちの槍が獣たちを貫き、魔法の大火が魔物を焼いていた。
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