第四十七話 魔王の進軍
ラスティたち聖女護衛騎士隊が西の湖の神殿跡地へと繰り出した頃。
王の指示に従い、魔王へ向けての『文』が放たれた。
それは矢文という形で繰り返し写しを投げ掛け、そして本書は使者に持たせていく。
返書をもらうと『開戦』となる、王政の古式応答を仕向けた。
この使者は討ち取られる場合もあり、王族は入れない。
だからカエルム王子もアルクス王子も城にて返答を待っていた。
使者となったのは若いガーディアンの騎士三名。
魔王の『使者』が『闇の精霊』だったので、自分などで良いのだろうかなどと考えていた騎士たちだったが、港で投げ掛けられた一言に奮起した。
「いいかしら! この予想外の中、戦いの開始があなたの腕の中の書状の往復で決定しますのよ!」
「はッ! 重く受け止め、命を懸け一筆を……」
「違いましてよッ!」
齢十六の少女から、高圧的に投げられた言葉。
そう、王族は使者になれない、しかし『見送り』ならば、とヴァーミラはここまでついてきた。
剛胆な姫に、騎士たちはたじろいだ。
「な、ナニをおっしゃいますか姫様」
「命を懸ける、のは間違いです! それでは返答を持ち帰れませんのよ!?」
「……!」
高圧的な口調の中に彼女なりの優しさを見出だした若い騎士たちは、三人並び頭を下げる。
黒髪が流れ、艶めく黒い輝きが周囲に彼女の高貴さを振り撒くようだった。
「生きて戻りなさい、そして!」
《カッ》
金色の瞳が輝き、騎士の目の前で揺らめいた。
そう、彼女は騎士たちの前に膝をついて目線を合わせたのだ。
高貴な女性の振る舞いではない、しかし彼らに対する思いやりがあった。
「その手で、王へと届けるのです。分かりましたね?」
「は、はっ、ははぁああっ!」
彼女の白い肌、伏せられた眉、その白黒のはかなさに彼らは撃ち抜かれた。
左右の彼らは斜めから見ていたのでヴァーミラが膝を折った瞬間の、ゴイスバデの一部分がたゆゆんとしたのに反応していた。
高飛車で口汚いと思われていた彼女のイメージが払拭され、何人もの騎士がファンになった一幕である。
「我ら、使者としての勤めを果たし、必ずや陛下に書状をお届けいたします!」
「ええ! よろしくってよ!」
その光景を見ていた数名の老騎士たちにより、紅いドレスの『月の色人』、もしくは激しき『人殺しの姫』……思いやりで人を悩殺する女性だと呼ばれるようになる。
彼らはしっかりと役目を務めた。
海上の城はこの時のみモヤを晴らし、上陸を許したのだ。
『そんなに遊びたいか。合戦の時と場所、把握した』
魔王は姿こそ見せなかったが、投げ掛けられた文の返信をまた『闇の精霊』によって届けてきた。
そう、闇の精霊は姿を見せたのだ。
ただしこの時の様子は、王との謁見を見ていた騎士のひとりが疑問に思うほど『形が変わっていた』。
青白い痩せたのっぺらぼうだったのが『緑色の苔の塊』のように見える、一応程度のヒトガタをしていたのだ。
しかし、名乗りは『闇の精霊』という。
彼の真偽は解らずとも、騎士たちは役割りを果たすため船に、港に戻る。
矢文を撃ち込んで魔物はおとなしくなったが、海の中はそれらの影で溢れていて、最初に残していた騎士たちが全滅したのも仕方ないという様子。
しかも魔物は何度か倒しているものの、魔王のちからは未知数のままなのだ。
決戦は地上、一週間後の中天。
王国の魔法兵と騎士の大部隊。
そして教会の魔法兵が合流し、戦闘を予定していた。
だが、それがどのように進むのか、まだまだ不透明のままだった。
☆
魔法国モコードの南、元は大きな湖があったインシグネ平原にラスティたちは集まっていた。
刻限の少し前、これから魔王軍との戦争が始まろうかという時である。
彼女は戦いたくなかったが、先発部隊として聖騎士ドゥンが選ばれるとそんなコトは言っていられなかった。
現状、魔王の軍は水棲の魔物が五割、野獣や猛獣など森の魔物が四割、そして翼竜など空の魔物が一割という構成。
普段であれば共にあるコトすらできない魔物が統率され、その場で控え、指示を待っていた。
総勢としては500頭ほどだろうか。
中にはラスティが討伐したヒュドラも含まれていた。
対するヒトの軍勢は3000名…… そんな危険な戦いにドゥンを行かせたらどうなるか。
大怪我、もしくは死、その先は他の友達も巻き込まれるだろう…… 恐怖に囚われたラスティはエレオミラに泣き付く。
「わッ…… わだじどーじようぅ!?」
「ラスティ嬢、戦える者が戦うのは当然なのです。私たちはまず見守り、戻ってきたら癒してさしあげるコトが仕事です」
ラスティにはまだ、聖女として任命された仕事がある。
まだ現れぬ勇者を導く、そんな役立たずの役割を。
ソレを成し遂げるため、彼女は前線には配置されなかった。
「ラスティちゃんは果たさなくてはいけないお役目のためにも『救護班』でちからをふるってね」
実家への打診やら他国の軍艦についての運用のために王城に残っていたセレイアも傍に控え、ラスティをお姉さん力で包みほぐした。
その柔らかな胸に負けそうになるものの、ラスティはドゥンを見上げる。
「辛気臭い顔すんな。まずはヒト当て、昔の戦記モノの舞台に立てると思えば腕がなるぜ!」
「気をつけてね、ちゃんと戻ってきてよね?」
「ラスティこそ、メソメソ泣いてんじゃねえぞ?」
友人たちに聖女を任せ、聖騎士は立つ。
開戦時刻まで、あと一刻。
魔物たちは川を遡上し、まだ増え続けていた。
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