第四十六話 知らずに嫌われるのは、ちょっと
「お気に入りだったのによぉ、研ぎ賃は城に請求すっかなぁ!」
ドゥンの駆け出しての二撃目は、狙いたがわず同じ場所、ヒビの入った場所を捉えた。
野獣のような、という言葉が誰よりも似合う彼女は。
「おっらァあ!」
《バキィインッ!》
宣言通り、石柱の破壊を成し遂げた。
彼女が知らないコトだが、破壊した石柱は『封印の大岩』という、神話ではヒュドラを封じていた岩の属性を持っていた。
だがその『毒をはね除ける』能力は活用されるコトもなく、聖女が相手にならなかったために陽の目を見るコトもなく。
頑強であるハズの岩は剣一本で破壊された。
切っ先の潰れてしまったショートソードを持ち直し、ドゥンは距離を取る。
「やったかァ!?」
「それフラグッ!」
「あぁん?」
そのネタを知らない相手に文句のつけようがない。
超人のような技術を見たにもかかわらず、ラスティは不安を膨らませてしまう。
宙に浮かぶ三つの黒い点は、変わらず水の針を繰り返し撃ち出していたから。
《バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!》
「ロロロッ!」
『はいでち!』
ドゥンの声を耳にする前にロロロは浮かび上がった。
飛び交う水弾を掻い潜り、その身を砕けた岩の隙間に滑り込ませ── 瞬間。
《キィインッ》
金属音が響き、宙に浮く三点が止まる。
盾を掴んでいた騎士も様子を伺う。
騎士たちのラインまで下がると、ドゥンも一息ついた。
「どうなったの? 一応、確認してこよっか……?」
「やめとけ。魔法は防げるっつっても聖女サマを斥候にするつもりはねーよ」
ドゥンの意見が間違ってるとは思わないが、請け負った責任感(微小)があってラスティも何かをしなくては、と思って一歩踏み出していた。
ソレは、最初にドゥンの踏み出した位置と同じ場所で、宙の三点が反応した。
《バシュッ》
「あっバカ、ッ!」
《ビキッ》
ドゥンの培った反応速度に習得した『防御』が重なり、水の針は防がれた。
だが彼女の丸盾は砕けてしまう…… 抱えられたラスティはしゅんとうつむき、謝った。
「……ドゥンさん、ゴメンなさい」
「うるせえ、ワビとしてこれからはお互いに呼び捨てな── おい、ロロロッ、まだか!?」
言い終わる前から宙の三点、濁流の精霊だというそれらは何かから逃れようとする様子を見せた。
相手は湖の精霊。
彼の言葉がすべて真実なら『大精霊』なのだから、蛇に睨まれた蛙のようなモノだろう、とドゥンは剣を構えた。
「おッ? すぐに反応しやがれよな」
小さく笑い、ドゥンは剣を鞘に収めた。
殺意が消えた、と言うその反応にエレオミラも緊張を解いた。
「ふう。こんな至近距離の戦闘は少し衝撃的でした……」
「わりぃね。とはいえここッからはちょくちょくこーなるだろうからよ、お役目通りに振る舞えよな?」
聖騎士はもちろん、公爵家令嬢であり聖女なラスティ、魔法の名門でもある王子たち、この『役割り』を割り振られたヒトとは違うなら。
ドゥンはそう言って、世界の残酷さから女の子を引き離そうとしていたのだ。
「水魔法ならば学園でも五指の実力者と呼ばれておりましたが、やはり足りませんね……」
「そうだなあァ……? ソレもロロロ次第じゃねえか」
何せあの精霊は、全人類が知らずに掛けられた魔法の『枷』を打ち砕くためにここまで来たのだから。
「あっロロロちゃん!?」
様子を見ていたラスティが叫ぶ。
改めて浮かぶ銀色の鏡に黒い点が吸い込まれていったのだ。
「鏡が、点々を飲み込んじゃった? もしかして咎められちゃったの?」
ドゥンはラスティの言葉に呆れてため息をついた。
「咎めるもナニも、アイツらの動きなんざオレらに分かるワケねーッつの」
「や、いきなりだったので驚きはしたんですけど、わたしやドゥン、に、攻撃したから怒られちゃったのかな、って心配で……」
ラスティは自身が『流されて咎められた』経験があり、無機質な黒い点に同情していたのだ。
そんな経験をしてしまったから、出来る限り目立ちたく無くなり、隅の隅で隠れるようになったのだから。
「知らずに嫌われるのは…… ちょっと」
視線が鏡に向く。
その中から、聖女の存在に向けてではない、誰を見るでもない口振りで精霊が語る。
『ご協力感謝します、聖女と守護の騎士たち。君たちのちから添えに、こうして……』
「やや強引に巻き込んじまったのが分かってンなら早く取り掛かってくんな」
ドゥンはソレを遮った。
彼女は嫌われようが構わないからだ。
ここからは後始末だろうと言わんばかりの様子に、精霊も少し慌ててしまった。
『そうでち……? ん、んんッ。そうでしたね。では枷の解除には数日掛かりますので、ここでお別れです』
「オウ、頼むぜ」
『あとひとつ、頼まれて欲しい事柄があります』
ロロロは視線をラスティに合わせ頭を下げた。
『悪精霊となっていた彼らに取り憑いていた術は解きました。あなたがたの手伝いをしたいと申し出ていますので連れていってください。また惑わされる可能性もありますので、どなたか主従関係を結んでいただけませんか』
「あ、あっ、水の精霊ならエレオさんに!」
『はい。そちらの女性に適性があるのは伝わっております』
「え…… 私ですか?」
三点の、濁流、清流、湧水の三精霊は自身のプライドに懸けて主人を守ると輝き、エレオミラの頭上を守るモノとなった。
ただ、おそれ多いと言うエレオミラを説き伏せるのは中々難航し、帰りの馬車の中でも聖女からの説得が続いていた。
白色に輝く頭上の輪(回っているため)を見て、天使のようだとその姿を拝んでいた聖女の心情は誰も知らない。
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