第四十五話 湖の神殿跡地の戦い
勇者より早く目覚めた魔王により、あと半年の余裕があるハズの対策が破綻した。
とはいえ、今までも早めに着手してきた王家である。
もしもの手回しも万全、とまでいかずとも予想は立てていた。
「魔王のクセに早すぎだろ、ドーテーかよ」
「ドゥンさん、港でもソレ言ってましたね?」
「へッ、ムダ口で悪かったね」
ここまで何も役立ててなかった彼女は毒づいていた。
危機回避としても戦力の分散を最小限にし、働きを明確にするのは間違いではない。
王の言うことは間違っていない。
何かが起きる前から行動し、考え続けたから騎士たちがここまでスムーズに動けているのだろう。
いざという時が来てから慌てるなんて、人々の不安を煽るだけだ。
そう、国民があまり騒いでいないのは、王家に対する信頼なのだろう。
(異常事態への対応としちゃあ悪くないけど、オレは、聖女をちゃんと守れているか?)
ドゥンも嫌味っぽい言い方をしている自覚はあった。
手堅く正論すぎる対応だ、と思えた。
だけど自分という戦力が役立っていないのではないか、そう考えてしまっていた。
正された王の部下たちは情報収集をこなし、騎士は命懸けで魔王を見張っている。
『よろちくおねがいちまちゅ聖騎士様』
「おお、任せな」
『ちんでんのなかのさいだんにある、みちびきのかがみ、わたちのちからがふーいんされてるはずなのでち』
聖騎士と呼ばれて大喜びするような幼さは無かったのだが、生きたぬいぐるみのような可愛らしい精霊に願われて、ドゥンも何かしらしてやりたいと思えた。
彼はただ必死に願う。
『よろちくおねがいちまちゅ……』
ほとんど石材の山となっている神殿は、王城から馬車で二日の場所にあった。
歳経た地元の村長に案内され、崩れて入り口も見えないソコに到着した時は夕方だったが、聖女守護騎士たちの中のちから自慢により入り口は五分程度で片付いた。
まだまだ筋肉アピールがしたかった面々を無視し、ロロロは出来あがった入口から中へと飛び込む。
追い掛けるラスティ、ドゥン、エレオミラはそれぞれにランタンを掲げて中を確認する。
そこには絵があった。
壁画には数々の精霊と人々の遣り取り、四季の彩り。
彼らの距離感を物語る、今では精霊の存在すら夢物語となった中で、コレは彼らに重く訴えるモノだった。
ただ、天井の大部分が落ちていて、入って左手は崩れ見えてはいない。
ラスティはハッとしてロロロを探す。
壁画に対する感想より、今はしなくてはならないコトがある。
「ロロロちゃあん!? どこっ?」
『見つけたでち、助けてほちーのでち!』
風に乗って届いた悲鳴は、崩れた石材の向こう、奥の通路から。
ドゥンは聖女より先に行き、安全を確認する。
そこは祈りの座で、ほとんど崩れてもおらず、祭壇の姿はそのままだった。
しかし祭壇には禍々しい黒い塊が、真ん中に『鏡』を包むように乗っていた。
女性たちは嫌な顔をして、しかし後から入ってきた筋肉騎士たちに守られ様子を伺う。
魔物の敵対行動を懸念していたが、ソレは何もしてこない。
「意外にマヌケな、いや、精霊のちからを長く封じるための『仕掛け』なのか」
ドゥンはソレの仕事を考えると『攻撃性』の必要が無いコトを察し、つまり別の存在が『防御性』を受け持っていたのだろうと身構える。
場所としては狭く、槍も大剣も使えない。
丸盾と愛用の鉈剣を構えて探る。
「アレの他になんか居るんだろ……?」
『ちがいまちゅ、アレは! わたちたちののーりょくをつかうんでちゅ!』
豪華な銀の鏡を包み込んだ『黒曜石』のような石柱の上に『黒い点』が三つ並んでいた。
ドゥンが踏み込んだ右足に反応し、艶の無い黒々とした点は三角を描いて、回りだす。
「アッ! ドゥン、危ない!」
《バシュッ!》
黒い点の集まりから針のようなモノが飛び出し、彼女の足を撃ち抜こうとする。
しかしドゥンは危なげなく盾で逸らし、弾いてもラスティたちに向かわぬよう気を配った。
「ふうん? あの色合いで勘違いしてたが、今の『針』は水だな?」
『くろいの全て濁流の精霊たちでち! あやつられてるだけなんでち!』
湖の精霊のアピールしているのは、彼らも助けて欲しいというコトだ。
ドゥンは考える…… ラスティの天職能力、魔法を防ぐ能力なら今の『攻撃』は凌げるだろう。
だが、あの『点』にどんな攻撃を与えれば解放できるだろうか?
精霊に由来する何かをヒトの武器で倒せるとは思っていなかった。
だがその考え方でひらめく。
「ッ、ロロロ! もしかしてだが、あの石柱をブッ壊したらオメーがあの点々たちを抑え込めたりしねえか!?」
『や、やりまちゅ! なんでもやりまちゅから! みんなをたしゅけてほちーのでち!』
鏡を包む半透明の石、それは『モノ』だ。
触れられるモノであれば壊せる。
ドゥンはその自信があった。
「いよぅし、聖女サマは『魔法を防ぐアレ』を使いな!」
「び、天鵞絨の薄幕!」
半透明な光る壁がラスティを包むのを確認すると、ドゥンは点々たちが反応した位置のわずかに手前で止まる。
自分の肉体の重さ、手にした鉈剣の強さを攻撃のイメージとして固めて。
「護衛騎士の意地を見せろよ! オレがあの柱ァブッ壊す!」
「「応ッ!」」
出番を求めていたドゥンは元から自分で行動するつもりだった。
だから毒やキノコに頼るつもりもなかった。
今回はそういった生物兵器な聖女を頼らず働ける、ソレを喜んですらいたのだ。
《バシュッバシュバシュバシュバシュッ》
背を屈めて部屋を一気に駆け抜ける。
その勢いのまま石柱を撫で切り、しかし傷も付かなかった。
(スピードで振り回すのはダメかよ、なら!)
壁へ体当たりするように『踏みつけ』て、跳ね返るちからでショートソードを突き出した。
鉈剣の切っ先がヘコむ。
「──チッ」
彼女の大柄な体格のすべてが突きに乗ったのに、石柱はビクともしなかった。
だが突然、ピシッとヒビが入る。
《ピキッパキキッ》
「あぁん? なるほど『硬い』のか、テメー」
そう、硬いモノは脆い。
柔軟性が無い物質は、圧力に耐えられても衝撃には耐えられない。
飛んでくる黒い水弾を避けつつ、嫌そうな顔で彼女は言った。
「お気に入りだったのによぉ、研ぎ賃は城に請求すっかなぁ!」
駆け出しての二撃目は、狙いたがわず同じ場所、ヒビの入った場所を捉えた。
野獣のような、という言葉が誰よりも似合う彼女は。
「おっらァあ!」
《バキィインッ!》
宣言通り、石柱の破壊を成し遂げた。
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