第四十四話 モフモフ(仮)があらわれた!
それは『西の森の湖の精霊』と名乗った。
闇の精霊が仕掛けた『罠』かと疑う騎士もいたが、王はその子羊のような外見にへにゃっと眉毛をしならせた。
先程までのザラザラとした声色とは違う、高いが子どもの音域程度で舌足らずなしゃべり方だったから。
奇妙に見えていたモノからかわいいモノが出てきてしまうと、視線を集めてしまうのは仕方がない。
「あの、戯曲にされた精霊?」
『ぎきょくってなんでち?』
「はぅぐ、いや、ちょっと有名っていうか……」
しかし青白い毛玉に驚いたのは、この場のすべての者たちの共通認識だった。
舌足らずにクリクリ黒目の視線が向くと、疑問をこぼしたラスティは撃ち抜かれていた。
「……白い、羊に見えているのだが」
『いちおー、もちーふでち。ホントのすがたは、うにこーんでちゅ』
「──え? うに……?」
『うにじゃないでち。うにこーんでち』
「あ、ユニコーン?」
『うにこーんでち』
彼の発言は想像の斜め上、というか、発音もあって『かわいい』が過ぎる。
やり取りをしていたアルクス王子もかわいいに撃ち抜かれた。
やや浮遊する状態で王へと向いた顔も羊だし、青白いのはあの闇の精霊と同じ色なのに、丸々としているのと丸い瞳があるのは強烈だった。
悶えつつ、アルクスは確認する。
先程までの『闇』の精霊との関係性を。
『わたちはからだをのっとられてて、ずうっとふりまわされていたんでち。こわがらせてごめんでちゅ』
今までの遣り取りは聞こえていたけれど、何もできなかった、という。
誰の目にも愛らしく、彼はぺこりと頭を下げ、ただモジモジとしていた。
『んんと、おうさまに言っていいのかわかんないんでちが……』
「悩むくらいなら、言うがいい」
王も撃ち抜かれた。
細い手足で一生懸命に語る姿がかわいかった。
『ぷきゅう。ありがとうおうさま。わたち、闇の精霊にちからをうばわれて、この姿にされてちまいまちた。さっきまでのおはなしはきいてまちたが、わたち、いっこくもはやく元の姿にもどりたいんでちゅ』
「なぜなのか、聞いてもいいかね?」
『せいじょさまやまほーつかいさんたちへわたす"ちから"のせいぎょがわたちのヤクメなのでち』
彼…… 西の森の湖の精霊、ロロ=ロクァースは精霊を束ねる『大精霊』だった。
勇者と魔王の到来に際し闇の精霊がさまざまな嫌がらせをしており、彼の『人々の魔法へ影響するちから』を嫌って湖の精霊という立場、姿ごと奪われたのだという。
彼のちからを奪えば、ヒトが使う魔法は何段階も威力を減衰されてしまうのだ、と。
「やはり、湖の水を鉛で汚されて、ソレをやめて欲しかったらフルカ山に登れ、と言われたんですか?」
『そうでち、そして火口につきおとされてちまいまちた。え、なんで知ってるんでち?』
戯曲にも残っていた通りの『闇の精霊の自作自演』で踊らされた形だ。
一生懸命に身振り手振りを交えて語る姿は『んきゃわいいぃよお!』と女性陣を悶えさせたが、話をまとめるとこうだ。
火口に落ちる寸前、彼は今の、青白い綿毛に身を包む子羊の『無力な姿』に変えられ、精霊としてのちからを奪われたのだった。
その逸話があるため、西の活火山の名前は絞首台と呼ばれるようになったとも伝わっている。
しかし、ヒトの魔法が弱体化したという記録は残っていなかった。
山の名前が決まったくらい古い話で、誰もソレを意識しないくらい緩やかに弱くなっていったからなのだろう。
だからこそ、魔法を補うように薬学や技術が発展したのだ。
『このような姿ではしんじにくいかもちれまちぇんが、もうあまりよゆーがありまちぇん』
「余裕が、時間がない?」
『まおーにふくじゅーしゅると、まもののちからがつよくなるんでち。いまのうみのまもののほとんどはまおーに従ってまちゅ。たたかおうとしゅるのなら、そのまえに、わたちのうばわれたちからをとりもどちておかないと、いっぽーてきになってちまいまちゅ』
ロロ=ロクァースは右手の白い花を掲げる。
そこに、魔王城に残した船が襲われている状況が浮かび上がった。
「こ、コレは!?」
『とおみのはなは、見るだけしかできまちぇん。かれらは逃げてくれてまちゅが、いまもおっきなイカにおそわれてまちゅ』
音の無い画像は、ボヤけて消えた。
次に左手の緑色の宝石が光った。
『わたちの湖はうめられてぬまちになってると知ってまちゅ。でも、わたちはちからをとりもどちたい。そちて、せいじょさまやおうさまにおんがえちをちたいでちゅ』
彼の左手から緑色の光が西へと伸びる。
そこに彼のちからの源泉があるのだろう…… かわいい生き物の語る真面目な話に、謁見の間には静寂が訪れていた。
まだ少なからず『かわいい』の波が満ちていたが、誰もソレは言わない。
小さなシッポがフリフリしているのに気づいた出入口付近のガーディアンたちは、話の半分以上が頭に入って来なかったが。
「解った。この精霊の言葉を信じよう。ラスティ、手間とは思うが精霊のちからを取り戻し、人々の『枷』を外してきてくれぬか。頼む」
「しかし、魔王城への対抗は……?」
「そちらは私と騎士たちが受け持とう。聖女守護騎士隊は『精霊の護衛』と『人々のちからの復活』を! ただし無理はするなよ」
王は方向性を固め、アルクスとカエルムに目配せして立ち上がる。
生まれた一瞬の驚愕、騎士たちは王へ跪き、ロイヤルガード以外は声を待った。
「難敵が現れた事実を受け止め、我が国は魔王へ宣戦布告する! そして人類を脅かす宣告あれば、全力をもって彼の野望を打ち砕く!」
『────王命、承りました!』
そう告げたちから強い声、応じる声に、横に居たラスティはビビッてしまい、強制的にお役目を与えられた状況に我に返った。
(……アレッ? わたしにできるか解んないトコロ任されてない!?)
しかし、敵意も無くかわいい湖の精霊と行動を共にするならいいかな? と、心を掴まれている自覚なく、無理矢理引き込まれたお役目に向かって思考を巡らせるのだった。
とりあえず、ロロ=ロクァースを『ロロロちゃん』と呼ぶコトが決定した。
『なんででち……?』
部隊編成よりも先に決まった理由が解らず、精霊からは疑問の声があがったが、たいせつなコトなので、とラスティは珍しく押し通した。
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