第四話 入浴キャンセル:キャンセル
ラスティは全裸にひんむかれてシャワーを掛けられた。
そして泡立ったスポンジで五人掛かりの全身洗浄を受けると…… あらかじめまとめられた髪以外はスッキリ、自分の肌がややヒリヒリとしつつも清潔を取り戻したと感嘆の吐息を漏らした。
普段からこんな風にされるなら逃げてしまうと思いつつ、ジロジロと見ているメイドの視線からは実際に逃げ出した。
「は、恥じらいくらいは、まだありまして……!」
「ありました、背中、肩甲骨の間に」
「ふ、ええ……?」
「背中に……!」
「なんてことでしょう……!」
「一刻も早く、お知らせして!」
ラスティが隠していた『前』ではなく、視線は背後に集中していた。
少しでも聖女について聞いていたなら、そんな恥じらいを肩透かしするコトは無かっただろう。
聖女の印は、その役割によって現れる場所が違うのだ。
例えば新たな技術の開発や開拓を成し遂げる聖女ならば手足のどこかに。
例えば戦乱を平定する聖女であれば額や胸元に。
では、背中の場合は?
それは、この世界の運命を背負う時、少女の背中に現れるという。
報告に駆け出したメイド数名を見送り、真実を告げられたラスティは絶句した。
「ひえうええ、ッ世界の、運命ィ……!?」
丁寧に湯浴み着を着せてくれたものの、表情に興奮をにじませたメイドたち。
髪の毛の洗浄を始めた数名を見つめ、息を吐き出したままでラスティの呼吸が止まった。
気絶していても身体はどんどん清められる。
身を任せているだけでいいのだから、それは最適解かも知れなかった。
しかしこのトコロ、特に運動をしているわけでもないが極限の疲れを感じていたラスティ。
その疲労と緊張は、気を緩めた直後に睡魔となって押し寄せた。
「くぅぅ…… くぅぅ……」
つまり湯船に浮かべられつつ、爆睡状態に陥った。
なんならちょっとお湯を飲みそうになったがメイドが察して支えてくれたので難を逃れられた。
☆
強制入浴を終えたラスティは、すぐに次の部屋へと送り出された。
女性だけの部屋で採寸され、肌色からコーディネーターが服と宝飾品を注文、手直しまでの指示を飛ばす。
そしてすぐヘアケア、スキンケア、ネイルケアなどが同時進行で進む。
何が楽しいのか調子を合わせ、メイドたちが歌いつつ仕事が進む……。
一時間後、鏡に写っていたのはまるで別人のようなラスティの姿だった。
ぼうぼうにうねって伸びていた髪の毛はしっとり纏められ、銅色に見えていたのに今や『曙朱色』、聖女の化粧のひとつに挙げられる聖なる色味を帯びていた。
そして身に付けるのは白地に青い刺繍と金帯で留められた『聖女の衣』。
「自分だと解ってても、その、とても輝いて見えます…… みなさんスゴい……!」
「ふふ、頑張りました」
「地が無垢だったのでケアが楽しかった……!」
「聖女様、オススメの化粧水と薔薇香水を後程お届けいたします」
まるで全体がひとつの宝石のようだ、と素人ながらにラスティは心を温めた。
化粧はほとんど無く、顔白粉を馴染ませた程度。
しかし服装にはとてつもない豪華さを感じていた。
それはそうだろう、聖女の衣は国宝クラスだ。
しかし法衣であると同時に、とてもオシャレな服である。
自覚するほどに細い身体をすらりとしたシルエットがカバーし、病的な印象を受けない程度に『スレンダー』な体躯へと見せていた。
それにケアのお陰でツヤツヤと陶磁器のように滑らかさを取り戻した白い肌、その上に飾られる金黄玉と銀細工が聖衣にアクセントを加え、女性の気品と色気を添えている。
少し前まで『クロカビ令嬢』などと呼ばれていたとは到底思えない美少女がそこに居た。
背中に流された髪は黒絹のリボンで一纏めにされていた。
「あっ、リボン、元のリボンは、その、あの……!?」
「はい、こちらに」
年上メイドの右手にはやや傷んだ青布のリボン、ここに至るまで彼女のクセっ毛を纏めていた品だ。
それはラスティにとっての宝物。
彼女は深く頭を下げ、残してもらえたコトを感謝した。
身を飾る聖衣は教会のシスターが着ているモノとは明らかに違う、豪華で上等な品だ。
部屋から出てきたラスティを見て、父親は涙ぐんだ。
「まるで天使のようだよ。名前まで変えられた時はどーなるかと思ったが…… やはり我が娘ながら、普通の在り方ができないのだね」
「生まれた時に教会にお告げがあったのは、コッチを示唆していたんだねぇ」
両親は感慨深く穏やかに抱き合っていた。
彼女が問い返すと出産後に祝福をいただこうと教会へ行けば『良くも悪くも大きな事件に巻き込まれる運命を感じた』そうで、それが聖女という祝福を指していたのだ、と優しく笑っていた。
過去のやらかしの時、母親は憤怒に顔を歪めていたのたが…… ラスティは忘れるコトにした。
こうして準備が整い、不本意ながら聖女としての姿を公衆へと見せるため、ラスティは再び謁見の広間へと戻ったのだった。
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作者がハリキリます☆




