第三話 宣告式典に舌を噛んで
周囲に国の重鎮の並ぶ中、謁見の広間の中央で両親に頭を押さえ付けられラスティは状況を理解した。
絨毯まで豪華なのだなぁ、などと頭の中で浮かべて消して、彼女は伝令の言葉を思い出す。
『ラスティ・スコラァ・ヘルトナート。汝の身分剥奪を撤回し、聖女として国へと迎え入れる。また早急に血縁者含め王城へと参集するべし』
思い返しても正気を疑うような『命令』だ。
身分剥奪というのは国による『離縁』である。
彼女は王族の前で能力を暴走させ、危うく死者を出すところだったのだ。
そんな事件の元凶であれば罰せられるのは当然…… しかし元が『公爵令嬢』である。
それを大きな理由とし、しかし内外を鑑みて国境近くの辺境へ拘留となった。
貴族称を奪われ『仔豚追い』などと改められた。
(そうまでした犯罪者スレスレの存在に、聖女だなどという役職を与えるだなんて。まぁ、テキトーにそこらの教会のシスターとかを組み込むワケにはいかなかったんだろうしなぁ……)
それはラスティにも理解できた。
聖女といえば『清廉潔白』『ヒロインオブヒロイン』『多能でデキる女』『みんなの憧れ』などなど、枕詞がいくらでも浮かぶ。
事実、謁見の広間は本日一般人も訪れていたらしく、商人やメイドや庭師たちが遠くから騒ぐ声が届いていた。
「あぁ聖女様! よくぞ……!」
「おいでにならぬのかと心配しておりました!」
「ぎゃあぁ、聖女様ぁ! こっち向いてェ♡」
「ワタシを踏んでくださぁあい!」
「聖女様ぁー! 聖女様ーッ!」
なにやら騒がしさの中に不穏な声もあったが、気のせいにしておこう、とラスティはノイズを無視した。
聖女とはこの魔法のある不思議な国において、さらに不思議で強力な存在だ。
世界の乱れの起こる時、どこかの家に生まれるという言い伝えの聖人。
身体のどこかに『印』が浮かび、そうだと解るという…… 不思議な存在であるため何を基準に選ばれるのかは謎のまま。
ただ女性に印が現れ、その人は国をあげ保護しなくてはならないのだ。
過去の聖女は立っているだけで視線を集め、祈り寄せずにはいられなかったという。
(それほどまでのカリスマを持ち合わせるなら、自分は絶対に違うな)
研究に没頭しやや垢に汚れた腕を見ながら、彼女は深々と溜め息をついた。
たぶん何かの間違い、でなければ本物の出てくるまでの繋ぎ、ピエロの役割でもさせられる程度であろう、と髙を括った。
「面を上げよ、王の意である」
ラスティが思考を巡らしている内、奥に数段高く据え付けられた玉座に王が着席していた。
頭を下げたままでも宮廷楽師が様々な曲によってどうなっているのかを教えてくれる。
ここ『魔法国 モコード』の王、スイグンがそこに居るのだ。
先程の指示は顔を見せろ、という意味で、王を見てもいいワケではない。
視線は王の爪先、国のトップを直視して良いのは直接話し掛けられた者のみなのだから。
「そちが、ラスティであるな」
「はっぅいひぃい!?」
そう、話し掛けられたからには『何でも答えなくてはならない』のである。
奇妙な叫びで答えた場合、兵士の槍が突き刺さっても文句は言えない。
特に驚き、絨毯に手をついてワタワタとしている不審人物であれば。
「落ち着け。そちが、ラスティであるな?」
なのに、王が質問を繰り返した。
大魔法使いでもある実力者が。
「はっ! はひぃ、そのとぉりでごじゃいまひゅっ!?」
噛んだ。
出だしで噛んで、終わりで二度目を噛んだ。
「……悪名もあるそなたが真に聖女であるか、後に確かめさせるが良いな?」
「はっはい、は、もちろんです?」
恥ずかしさで混乱しており、ラスティは続けて何を言われてもうなずくしかできない。
そしてこのまま『聖女宣告式典』が開催されるという。
王に促され、あとは事務官らしき美丈夫が式の時間割りなど告げていく。
ラスティは両親にまた頭を下げさせられ、しかし一緒に移動してくれた。
「ふぅううう、まったく、まさかまさかが続いて肝を冷やしたよぉ…… ラスティ、聖女の印に心当たりはないのかい?」
母親は『臭いねアンタ』などとボヤきつつ質問した。
「知らない…… 聖女の印って、成人の日に浮かぶモノでしょ?」
「アンタその頃から風呂嫌いだっただろ。全身見なきゃならないんだとさ」
「お告げがあったのにずっと現れない聖女の行方は教会でさらに詳しく占ったようだから、まずラスティで間違いないハズさ」
父親は相変わらず汗をかいて、まん丸な顔を笑顔にしていた。
母を口説いたというがその辺のやり取りは想像もできない…… 肝っ玉母さんな母親とニコニコ大黒天な父親の間に生まれた自分。
ラスティは不思議な気持ちで両親を眺めた。
こちらの両親に、血縁者の、親族としての愛情は確かにある。
しかし自分の存在価値は変わらず低いと自認するので、こうして人に囲まれるのが、どうにも彼女にはむず痒いモノだった。
「……ん? 全身を、見る?」
気がつくと、ラスティはメイドたちに囲まれていた。
ここは浴室へと続く脱衣場。
両親は扉から脱出しており、手を振っていた。
「えっ、ちょっと……!?」
「失礼いたします聖女様」
「垢もキレイに落としてもらえるらしいから感謝しな」
扉の隙間から母の笑い声が聞こえたが、彼女はそれに構っている余裕は無かった。
「は! はぎゃ~~~~!!」
ラスティは身体を担がれ、久しぶりの入浴を堪能するコトとなった。
風呂嫌いではあるが、身体を清潔にするのがキライというワケではない。
ただ面倒臭いだけ、なのである。
「式典のためにもお身体を清めなくてはなりませんから」
「覚悟したいので、ソレは、先に言ってください……!」
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