表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真直の嫁入り  作者: 鳥柄ささみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

第三十八話 目覚め

「……っ、…………つ……っう……」


 意識が浮上して身を起こそうとするも、軋んで痛む身体。声を出そうとしてもまともに出ず、掠れた声しか出すことができない。

 一体自分がどんな状況でどこにいるのかさえわからないながらなんとか身を捩ると、誰かが近くにいたようで、私が起きた気配を察して声を上げた。


「……! 真直様!? あぁ、真直様! 目が覚めたんですね! あ〜、よかった……っ! よかったです〜!!」

「あ……は……っ、な」


 どうやら花がずっと付き添ってくれていたらしい。私が花の名を呼びながら起きあがろうとすれば、身体を起こさないように花に優しく押さえられてしまった。


「無理に起きようとなさらないでくださいっ! 今、お医者様呼びますから、寝たままで待っていてくださいねっ」

「わかっ……はな。あり……が……と……」

「頑張ってお話もなさらなくていいですから! 真直様はとにかく寝たままの状態で何もせずに待っていてくださいっ!!」


 花に何度も寝ているよう念を押されてしまい、大人しく寝転がる。

 寝転がりながら周りをよく見れば、ここは私と有馬様の私室だということに気づく。どうやら、あのあとここに運び込まれたらしい。


(一体どれほど寝てたのだろう。そもそも、あのあとどうなったのかしら。有馬様は……? 清水医師は……?)


 回らない頭で思考を巡らせていると、何やらドタバタと慌ただしい足音が聞こえる。

 もう花が戻ってきたのか、それともお医者様が来てくれたのだろうかなどと考えていると、勢いよく開く襖。

 その勢いのまま誰かが私めがけて飛び込んできた。


「真直さん! あぁ、真直さんが目覚めてくれてよかった……! 本当によかった……っ!!」

「あり……さ、……」


 飛び込んできたのは有馬様だった。

 勢いよく覆い被さるように抱きしめられて、私は身動きが取れない。


「真直さんが生きていてくれてよかった! 本当によかった……っ! キミがいなくなったらと思ったら、僕は……、僕は……っ!」


 抱きしめながら、悲痛な声と共にぼろぼろと涙を流す有馬様。有馬様のそんな姿にこんなにも心配をかけさせてしまった申し訳なさを感じる。

 だから私は力を振り絞って有馬様の背に腕を回すと、宥めるように抱きしめた。


「あり、ま……さま……だ……いじょ……です、から」

「……っ!」


 私が背を摩ると抱きしめられる力が強くなる。いよいよ苦しくなってきたなぁなどと何となく考えていると「あー!! 有馬様、ここにいた!」と花の大きな声が聞こえてきた。


「有馬様、先生がお見えですから真直様から離れてくださいっ」

「せ……んせ……?」


 有馬様が花に引っ張られて、私から無理矢理剥がされる。

 思わず苦笑しながら顔をそちらに向ければ、そこにいたのは先生と小野寺さん。なぜ二人がここにいるのかと回らない頭で考えるも、理由は全く思い浮かばなかった。


「おぉ、よかった。目が覚めたか」

「真直ちゃん、目が覚めてよかった〜! もう、半日も眠ってたのよー!? 次会うときはおめでただとか言ってたのに、まさかこんなことになるだなんて〜!!」


 先生が安堵したような表情で、私の近くに腰かける。小野寺さんも私の近くに座ると、そのまま私の手を握ってすんすんと泣き出した。


「せん……せ、何で……? ほ……もん、やめ……たって……」

「訪問はやめたけどねぇ。あくまで自分の足で出向くのをやめただけで、迎えに来られたらそりゃあ行くよ」

「おむ……かぇ……?」

「早朝、千金楽家から車でお迎えが来たのよ。真直さんが一大事だって」


 わざわざ早朝に自分のために車を出してくれたこと。

 自分のためだけに先生も小野寺さんも来てくれたこと。

 こんなにもたくさんの人に迷惑をかけてしまったと思うとともに、こんなにもたくさんの人達から気にしてもらえたのだと思うと不謹慎ながら涙が溢れる。

 今まで自分の体調など気にされたことがなかった私にとって、人から気にかけてもらうことは何よりも嬉しかった。


「あり……とう、ござ……ます」

「いいんだよ。医者が患者を診るのは当然なんだから。それに、母子二代に渡って看取るようなことがなくてよかったよ」

「……せ……んせ…………」


 先生の実感の籠った声に、思わず新たに涙が溢れる。

 母を亡くして悲しんでいるのは私だけじゃなかったんだと今更ながらに気づく。それと同時に、先生にこれ以上悲しい思いをさせるわけにはいかないと、生きる勇気が湧いてきた。


「ほら、これ以上無理に声を出したらいよいよ出なくなるかもしれないから、もう喋らなくていいよ」

「真直ちゃんの気持ちは顔を見るだけでも伝わるから、喋らなくても大丈夫。今無理に喋ってせっかくの綺麗な声がなくなっちゃうのはもったいないから、喉も身体もしっかり休めてね」


(みんな優しい。その優しさが嬉しい)


 今までになかった幸せ。

 ちゃんと人として大事にされて、文句も言われず悪意も感じないことに、私はいらない子じゃない。生きていていいんだと改めて実感した。



 ◇



 その後、体温測定、喉、目、耳、呼吸音の異常の確認など一通りの検査を受けた。


 身体の節々が痛いのはどうも清水医師と揉み合いになったせいでところどころ打撲したり捻挫したりしてたかららしい。

 声も声帯が傷ついているわけではないものの、強く首を絞められたことで気管支が損傷してしまったそう。そのせいで声が出づらいとのことで、とうぶんの間は流動食であまり声を出さないように生活しなくてはいけないようだ。

 ただ、呼吸がしにくいわけではないため、それほど重傷ではないというのだけは救いだった。


 とはいえ、あくまで重傷ではないというだけですぐには治らないらしい。先生が言うには、完治するまでは私は大人しく寝たきりで静養してなければならないとのことだった。


 そして先生は診察を終えると、「じゃあ、またね。あぁ、帰る前に一点。真直ちゃんは頑張りやさんだから、早く治ろうと頑張りすぎないこと。逆に悪化するからね」と私に釘を刺して小野寺さんと一緒に帰っていった。


(なるべく早く治そうって思ってたけど、さすがは先生。幼少期から私のことを知っているだけあって何でもお見通しか)


 私は先生に見通されてたことをちょっとだけ恥じながらも大人しく言うことを聞かなければとぼんやり考えていると、何やら頭上が騒がしい。

 どうも花と有馬様が何やら言い争いをしているようだった。


「有馬様はお仕事があるんですから、お側付きの私が真直様の面倒を見ますっ!」

「いや、真直さんは夫である僕が面倒を見るよ。花さんは真直さんの代わりにお蚕様のお世話をよろしく! これは主人命令だよ」


 さすがに主人である有馬様にそう言われてしまったら引き下がるを得ず、花は「ぐぬぬぬ〜」と唸ったあと、「何かあったらすぐにおっしゃってくださいね!」と言い残して渋々ながら部屋を出ていく。

 そして、花が出ていき二人きりになったところで、なぜか有馬様は私の隣に寄り添う形でごろんと寝転がった。


「?」

「このほうがお互い楽に見つめ合えるだろう?」


 そう言うと、私のことを寝転びながら抱きしめてくれる。

 確かに、上から見下ろされるよりも距離感が近く、間近にいる有馬様になんだか安心した。


「真直さんが生きててくれて本当によかった」


 有馬様はそう言うと、私の頬に手を添えて額を合わせてくる。そして、そのままゆっくりと唇を重ねられた。


「……んっ、…………ふ……」


 何度も何度も慈しむように重ねられる唇。その唇から有馬様の体温を感じ、生きているということを改めて実感する。こうして有馬様に求められ、接吻できるということが堪らなく嬉しかった。


「……ごめんね。もっと早く僕が駆けつけていたら。……いや、そもそもあのとき真直さんの言うことにちゃんと耳を傾けていたらこんなことには……」


 申し訳なさそうに謝る有馬様に、私はふるふると頭を振る。


 実際、今まで悪意を一切見せずにいた清水医師を信用するなというほうが難しい。あくまで私に悪意を察する能力があったから彼の悪事を看破できたが、もし私に悪意を感じる能力がなければ有馬様同様、今頃騙されていたことだろう。


「いや、今更だけどやっぱりあのときは夫として何よりも真直さんの言葉を優先すべきだったと思ってる。そうすれば、真直さんがこうして危害を加えられるようなことはなかったはずなのに。申し訳ない」

「…………」


 まっすぐ見つめられながら謝られて、私はどうすればいいのかわからず。とにかく気にしないでほしいと思いながら有馬様の頭を撫でると、そのままギュッと有馬様を抱きしめた。


「真直さんは優しいね。……でも、これからは絶対守るから。誰にも真直さんに危害を加えさせないよう、僕がキミを守るから」


 有馬様からの力強い言葉に胸が熱くなる。

 嬉しくて、私はさらにギュッと強く抱きつくと、その気持ちに応えるように有馬様に口づけた。


「……僕としてはこのまま接吻していたいけど、そろそろ寝ようか。僕はずっとここにいるから、安心してお休み」


 有馬様の言葉に、ゆっくりと目を閉じる。

 すると、指を絡めるように繋がれる手。有馬様の体温を感じて心が満たされるのを感じながら、私は再び意識を手放すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ