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New Space Scrolls Ⅱ-名もなき者達の詩  作者: 乃木了一
第一章 帝国領侵攻
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7.ブランデンブルグ辺境伯

「何だと、もう一度申してみよ」

大声でもないのに、腹の底にずしりと響くような重低音に侍従は思わず身を縮めた。

「はっ、先程入った連絡によりますと、テラフォードの艦隊がアブロリモーゼに侵入、同地の総督府が陥落した由にございます。軍首脳陣が軍議の間に集まっており、閣下にお出まし願いたいと申しております」

ブランデンブルグ辺境伯、ウルリッヒ・フォン・キースリングは顔をしかめナプキンで口を拭いた。「すぐに行くと申しておけ」

「・・・ととさま、お仕事なのですか?」

幼い娘、クリスティーナがあどけない瞳でキースリングを見上げる。

「ああ、そうだ。なに、たいしたことじゃない。お前は母さまに絵本を読んでもらってもう寝なさい。また明日、朝食後に一緒に散策でもしよう」

ブランデンブルグ時間で午後8時半を回ったところである。

遅くに授かったまだ3歳の愛娘の頭を大きな手で優しくなでると、キースリングは立ち上がった。身長は190cmもあろうかという偉丈夫、豊かな口髭と顎髭をたくわえた彼は武門の誉れ高いブランデンブルグ辺境伯家の第12代目当主である。



市街地を一望できる小高い丘の上に建てられた宮殿“蒼穹城”の渡り廊下を渡ってキースリングが執務館の一室である軍議の間に入ると、ブランデンブルグ辺境伯軍及び帝国親衛軍ブランデンブルグ派遣艦隊の主だった者達が顔を揃えていた。

上座の席に座るやいなや、キースリングは尋ねる。

「それで、アブロリモーゼがテラフォードの手に落ちた、というのはまことか」

はっ、と応えてユルゲンス・ブランデンブルグ軍幕僚長が立ち上がる。

「今朝、帝国標準時9月11日午前10時過ぎ、今から6時間程前ですが、アブロリモーゼ宙域にテラフォード艦隊約120隻余が侵入、ハイパー・ワープ装置、軌道宇宙港を占拠したとのことでございます。また地上にも敵部隊が降下し、駐アブロリモーゼ総督府を占拠、我が軍のアブロリモーゼ駐留師団も壊滅した由にございます」

実際はアブロリモーゼ駐留師団は“降伏”したのだが、師団長は後の処分を恐れて本当のことを言えなかったのだろう。

「120隻だと? ヤツらのどこにそんな戦力があったのだ? 大使館は何をしていたのだ?」

決して声を荒げているわけではないが、キースリングの圧倒的な威厳に幕僚長は身をすくませた。「申し訳ありません、大使館とは『テラフォードが再軍備を宣言した』との報告があった後、音信不通になっております」

「ふうむ・・・・」

キースリングは不機嫌な顔で腕を組んだ。確かに今日の午後、テラフォードの再軍備宣言に関する大使館からの報告は受けた。しかしそれ以前にサン・リミノの和約に違反するテラフォードの軍備増強について大使館から一切の報告はなかったはずだ。恐らくテラフォードは随分前から密かに軍備増強を続け、アブロリモーゼ侵攻作戦の計画を練っていたのだろうが、駐テラフォードの帝国大使館はそれにまったく気づけなかった、というわけだ。(あの無能め!)3年程前、テラフォードへの赴任途中に引見したマントイフェルの覇気のなさそうな顔を思い出し、キースリングは心の中で罵った。


「それで、オクシタン征討作戦への参加はいかがいたしましょうか」

幕僚長は恐る恐る尋ねる。ふむ、と言ったままキースリングは黙って顎髭をしごく。10日前のオクシタン独立宣言はブランデンブルグにも少なからぬ衝撃を与えた。しかしその後、首都ルフトヴァルデにあるブランデンブルグ邸で情報収集を担っている執事長からオクシタン征討の閣議決定がなされたとの連絡を受けると、キースリングは直ちに征討への参加を宇宙艦隊司令部に申し出た。ただそれだけではなく、ブランデンブルグ伯直卒艦隊が本隊とは別にダゴンワース~フォンテイン経由で搦手からオクシタンを衝く、という作戦案を添えてである。殆どの貴族艦隊とは異なり、普段から旧共和国連合星系での叛乱に備えて臨戦態勢にあるブランデンブルグ辺境伯麾下の部隊は貴重な戦力になるはずだった。

「いや、オクシタン征討には是非参加なさるべきでしょう。情報によると、テラフォードの艦隊は和約の規定違反とはいえ、その主力はたかだかフリゲート60隻程度だというではないですか。それならロレンツォにいる閣下の支隊200隻も送れば鎮圧に十分でしょう。伯爵閣下ご自身には是非、皇帝陛下に弓を引くオクシタンの逆賊討伐の先頭に立っていただきたく。我々もお供いたします」

帝国親衛軍ブランデンブルグ派遣艦隊のアイスナー司令官が言う。彼は辺境地域での小規模叛乱鎮圧や宙族退治といった任務に飽き飽きしており、オクシタンという有力星系の叛乱討伐という一世一代の功の立てどころを逃したくないのだ。

「それもそうだな・・・・」

キースリングがそう言いかけた時、情報将校が緊迫した面持ちで入室し、幕僚長に何事かささやく。「何っ!」ユルゲンスの顔が青ざめる。

「今度は何だ?」

キースリングに答える幕僚長の声はかすれている。

「テーベで大規模叛乱が発生しました。帝令候ライストナー伯爵が叛乱軍の手に陥ちたとの由にございます」


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