1.テーベ
テーベ星系は人口52億人、旧共和国連合星系の中ではブランデンブルグ辺境伯領に次ぐ規模の星系である。共和国連合時代は地球やグリフィス(現ブランデンブルグ)と並ぶ中心星系の一つで、先の銀河大戦では両星系が陥落した後も、近隣のナケルサク、エオニア、ヴィエンタオと星系連合を組んで戦い続けた。大戦での死者は2000万人以上といわれている。
大戦終結後は有力貴族ライストナー家を帝令候に迎え、帝国政府の梃入れもあって急速に復興が進んだ。特にブランデンブルグ、シュブレムベルグといった帝国の大星系及び自治星系ラセンナとの間にハイパー・ワープ航路が開かれた後は、各星系からの人口流入もあり、旧共和国連合領銀河中心方面星系の中心地となっている。
エドガー・グラフ帝国軍大佐は給仕の女性から新たなグラスを受け取りながら、またちらりとライストナー伯爵の方をみた。伯爵は先程から、テーベ内の領主達を周りに集めて何やら話し込んでいる。今日は帝令候セバスチャン・フォン・ライストナー伯爵の50回目の誕生日で、首都星カルナックにある伯爵の宮殿“月光宮”で祝賀パーティーが行われているのである。テーベ内の主だった者達、即ち貴族達や政府首脳、経済関係者、そしてグラフら軍幹部等1,000人余が一堂に会する年に一度の豪勢なパーティーである。
(これは当分、空きそうにないな)グラフはかるく溜息をつき、目の前で話しかけてくる男に注意を戻した。
「・・・・それで、大佐はテラフォードの再軍備宣言、どう思われますか? やつらは帝国と戦争でも起こすつもりなんでしょうか。そうなると、大佐もテラフォード征伐にやはり駆り出されるんでしょうね。あ、でもオクシタンを叩くのが先ですかな。いや、戦争なんて困ったもんですな。我々も商売がしにくくなるというもので。またラセンナの奴らに美味しいところを持っていかれてしまう」
グラフは少々うんざりしながら、テーベ商工会議所の会頭だという男のとりとめのない話に気のない相槌をうつ。グラフは帝国親衛軍ブランデンブルグ派遣艦隊のテーベ分遣隊司令である。テーベは大戦の経緯からも未だに一部に根強い“反帝国”意識があり、過去に度々反政府武装組織による叛乱や襲撃、テロ事件が発生していた。そのため、ブランデンブルグ派遣艦隊は500隻の艦艇からなる分遣隊をここテーベに駐留させている。しかしここ3年はテーベ星系内で大きな襲撃事件もなく、たまに近隣のナケルサクやヴィエンタオから出撃してきたと思われる武装船が商船を襲う事件が発生するぐらいであった。
「テラフォードですって?奴らにはろくな武力もありませんよ。軍艦200隻も送っておけば・・・・そうそう、ロレンツォにいるブランデンブルグ伯爵閣下の分遣隊がアブロリモーゼに進出すればすぐに降伏するでしょう。去年のようにね」
そう言ったグラフがまたちらっとライストナー伯爵の方をみると、視線に気付いた会頭は頷いて顔を寄せると訳知り顔に囁いた。
「ちょっと小耳に挟んだ話ですがね、伯爵は軍艦5,000隻を引き連れてオクシタン征討に向かわれるそうですよ。5,000というと、伯爵が3,000、リンデン子爵が1,000、それに3人の男爵が300ずつ・・・・といったところでしょうかね。きっとその相談をしているにちがいありませんな」
グラフは苛立たしげに心の中で舌打ちをした。そんなことは分かっている。そしてライストナー伯爵が無理をして5,000隻などという大艦隊を編成しようとしているのは、ライバルであるブランデンブルグ伯爵と張り合うためだ、ということも。聞くところによると、ライストナー伯爵はシュブレムベルグ帝令候にして帝国親衛艦隊司令長官であるヴェルニッケ侯爵と昵懇らしい。伯爵が司令長官に話を通せば、俺のテーベ分遣隊500隻をライストナー艦隊に加えてもらえるのではないか・・・・? そうなれば、俺はオクシタン征討に参加して出世のチャンスをつかむことができるし、伯爵にとってもブランデンブルグを上回る規模の艦隊を手に入れることができる・・・・。悪くない取引のはずだ。
伯爵が頷き領主たちの輪が解かれると、グラフはちょっと失礼、と会頭に会釈をし、急いで伯爵に歩み寄ろうとする。と、その時・・・・突然パーティー会場の明かりが消えた。きゃあ、何人かの女性客達が小さな悲鳴を上げ、会場がざわつく。
「何をしておる! さっさと明かりを点け・・・・」ライストナー伯爵の怒号は途中で途切れた。数秒後、会場に明かりが灯ると、世界は一変していた。




