第3話「夜の梟」
翌朝、フレイから返信の手紙をルナが届けてくれた。
「手紙ありがとう。ヨル姉の事お願いね!でも手出したら許さないから!!」
・・・と短く書かれており、「肝に銘じておこう・・・」そう心に誓ったのだった。
朝食を終えた後、俺はヨールズの横でマナを弄ってた。
容体が思った以上に良く、明日退院しても大丈夫とのお墨付きをもらった為、その準備をしているのだ。
横ではヨールズが驚いた表情で事の成り行きを見守っている。
リング状にしたマナを固形化し、魔法効果付きの指輪を作った。
装備している最中は俺以外彼女をヨールズとは認識できないようになっている。
「これは・・・指輪ですか?」
「うん、この指輪には認識阻害の魔法をかけてあるんだ。」
と言いつつヨールズに渡した。
「え?それって魔道具ってことですか!えぇえぇぇ?!」
「?、どしたの?」
「魔道具と言えば高価で・・そんなもの頂けません!」
ヨールズの目がぐるぐるしてる。
「落ち着いて、これは明日から一緒に行動してもらう為に作った簡易的なものなんだ。だから特に高い物って訳じゃない」
「あ、そうなんですね・・・わかりました。色々とまだ聞きたいですけど今は良いです。それでどこに行くんですか?」
そう言いつつ落ち着きを取り戻したヨールズが物珍しそうに渡した指輪を観察している姿を尻目に、俺は今いる2階の窓から外を確認した。
ちらほらとガラの悪い男が周囲を確認しながら歩いている。
「領主の部下共がいつここにやってくるかもわからんし、トールにも迷惑かけるわけにはいけない」
「今回の件が片付くまでどこかに潜伏してもらう。まずは情報を集める為に行くとこがあるんだ」
「ごめんなさい・・・」
「?何を謝る?」
「私のせいでご迷惑をお掛けしてますよね・・」
「いや、この件は君だけの問題じゃないし、なにより君は被害者だ。謝る必要は無いよ」
「でも・・」
「いいから!これは俺の役目でもあるんだから気にしない気にしない!」
「きゃっ」
俺はにっかりと笑顔を作り彼女の頭をぐりぐり撫でまわした。
「何するんですかぁ・・・もぅ・・・」
「あ・・・つい、申し訳ない・・・」
一瞬不機嫌そうな彼女を見て手を放しお互い見つめあう形になったが、どちらともなく笑い出し事なきを得た。
翌日、朝食を終え部屋で身支度を整えているとトールがやってきた。
「つい先日訪ねてきたと思ったらもう行ってしまうんかい」
「すまないな、状況もよくわからない以上ここに長居しているとトールに迷惑がかかる」
「そこは別に気にせんと言ったじゃろうに・・・」
「シヴさんもいるんだし、二人とも危ない目に遭わせるわけにはいかんさ」
そう言ってバッグを持ったところでヨールズとシヴさんもやってきた。
「マナトさん、準備ができました!」
先日の重症だった姿からは想像できない、元気な様子でヨールズが言う。
「ほんと、元気になってよかったよ~」
「でも無理はしちゃ駄目だからね?」
「そうじゃぞ、一応病み上がりなんじゃから・・」
「はい!わかりました!」
「よし、それじゃ行くか」
「・・・と、その前に・・大丈夫だとは思うが指輪の効能試してみよう」
そう言ってヨールズに指輪をつけさせた。すると・・
「なんと?!」
「まぁ?!」
「ヨールズはそこにおるんじゃよな?」
「でもヨールズちゃんじゃない人がいる?」
「ふむ、大丈夫そうだな。一旦外していいよ」
ヨールズが指輪を外すとトール夫妻がまた驚いた。
「一体どうなっとるんじゃ?」
軽く説明して理解できたようなそうでないような複雑な表情の夫妻に別れの挨拶をして診療所を後にした。
もちろんヨールズには引き続き指輪をしてもらっている。
「どちらに行かれるんですか?」
「とりあえず情報集ってね」
そう言って向かったのはイーストウィッチで一番大きな酒場で平民街の外れにある「夜の梟」だ。
2階には寝泊りできるスペースもあり、イーストウィッチを訪れた際の活動拠点としても重宝している。
「成程・・・ここなら情報収集にはもってこいですね」
とヨールズが言うが実はそれだけじゃないんだなこれが。
酒場に入るとまだ昼間だというのにちらほらと酒を呑んでる客がいる。
「あれ?席に着かないんですか?」
「マスターに用事があってね」
そう言いカウンターへ向かう。
「マスター、いい部屋空いてるかい?」
と言いながら他の客に見えないように懐中時計を見せる。
「2階は今埋まってるんで従業員の部屋で良ければ」
「OK、頼む」
「えっ?」
驚いたヨールズと一緒にマスターの案内でカウンター奥の部屋に入っていく。
「ちょっと客対応するから店たのんだぞー」
マスターが他の店員に声掛けしつつ部屋のドアを閉めて鍵をかけた。
「前回も言いましたけど来るときは前もって一報くださいよ~」
「すまん、すまん、今回も忙しくてな・・・」
「ったくもぅ・・・で、隣のお嬢さんは?」
「あぁ、紹介するよ、聖女ヨールズだ」
「こんにちは、ドボルグさん」
「・・・へ?」
指輪と一応被せてたフードを外しながら挨拶したヨールズを見て酒場のマスターことドボルグは素っ頓狂な声を上げた。
「ん?面識あったのか?」
「それは同じ街に住んでますし、聖女の仕事でもお会いしてましたから」
「ちょ、ちょ、ちょ、なんでマナトさんと一緒なんスか!」
「ってちょっと待って、今絶賛指名手配中の謎の男ってマナトさん?!」
「は?何それ?」
「聖女が誘拐されたってんで領主が街中に部下をばらまいてしらみつぶしに探してるんですよ!」
「ウチにも聞き込みに来て怪しい男が来たら通報するよう言われてるんス」
成程、確かに状況だけ見れば誘拐か・・?
とりあえず今までの経緯を説明した。
「そうでしたか・・・確かにヨールズちゃん辛そうでしたしね・・・」
「体調良くなって良かったっス」
「で、国はどこまで把握してる?」
「諜報部イーストウィッチ支部長?」
「ちょ、それは他の人がいるときに言わない約束!」
「ヨールズは国で保護が必要になってきた。この際構わんだろう」
「全くもう・・・本部からは今のところ何も無いのが現状ですね」
「こちらも新領主になった途端、館に居る構成員と連絡が取れなくなりました」
「ちょい待ち、3ヶ月前だよな?その間本部に連絡入れなかったのか?」
「新体制のごたごたかと思っていたんで代替わりだけ報告して、同じ頃に酒場の仕事も増えて止む無く様子見に・・・。」
「ふむ・・」
「分かったことと言えば新領主は完全に身内の人間しか出入りさせない徹底ぶりで迂闊に手が出せない状態って事くらいです」
「そうか、わかった。とりあえず現状を本部に伝えてくれ」
(店との二足の草鞋を履いてる状態じゃ仕方ないか・・・もうちょい人員増やすよう要請しとこ・・)
「さて、ヨールズ、お前さんの身の振り方だが?」
「はっはぃい!」
当分話を振られないと思って油断していたのか結構動揺している。
その様子をみて苦笑いしつつ
「ドボルグ、どこか良い候補あるか?」
「それならアカツキファミリーを頼るのはどうでしょう?」
「あそこも代替わりして拠点が変わったんですが潜伏するには最適ですよ?」
「ん?大将に何かあったのか?」
「詳しくは知らないので現当主に直接聞いてくだせぇ」
「この後連絡入れておくんで明日向かうといいですぜ」
「じゃぁ、今日はここで休ませてもらうが良いか?」
「もちろんでさぁ。後で晩御飯お持ちします!ヨールズちゃんもゆっくりしてってな!」
「あ、はい!ありがとうございます!」
ドボルグが部屋を出ていき2人きりとなった。
「・・・色々説明してもらえますか?」
「あ、はい・・・」
ちょっとヨールズさん?圧強いよ?
と、ちょっとビビりつつ改めて自己紹介をした。
この国の先代国王からの願いで10年単位で各街を回り異変が無いか報告しつつ可能なら解決していく仕事をしている事。
ドボルグとは20年前からの付き合いである事。
「今回の旅の最初の街でいきなり事件に巻き込まれるとは思わなかったけどな」
と、苦笑いしつつヨールズの反応を伺うと
「ということは・・・よく大人たちが噂していた伝説の方がマナトさん?!」
「どういう噂・・・いや、詳しくは聞くまい・・・まぁ、そういう事になるか・・・驚いた?」
「この指輪を作っている様子を見て凄い方だというのは察していましたが・・・驚くというより納得感が大きいです」
「そうか」
ここまで話したところで夕食の時間となった。相変わらずここの飯は美味い。
食事を終え、軽く翌日の予定を3人で確認し今日のところは寝ることにした。




