↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/40

第4話 第4話 冒険者パーティ追放なら想定済み

連載中の

『怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う』

https://ncode.syosetu.com/n7268mo/

もよろしくお願いします!

「オスカー、今日からお前は、このパーティをクビだ」


 実習棟の準備室に入った途端、そう宣告された。


 俺は、まだ挨拶もしていない。


 これまでの礼を述べ、家の事情に触れ、活動方針の違いを説明する。角が立たないように考えてきた言葉が、全部いらなくなった。


 向こうから追放してくる場合も、もちろん想定内だ。


「おお、ちょうどよかった」


「は?」


 机の向こうで、ヴィンセントが眉を寄せた。


 ヴァルデン伯爵家の次男、ヴィンセント・ヴァルデン。《銀翼の鷹》のリーダーで、高等部1年の中では剣の実技で上位に入る、才能ある少年だ。


 隣には盾役のブルーノ・レインズと、風魔法を使うフェリクス・ベルネット。3人ともEランク冒険者で、《銀翼の鷹》もEランクパーティ。あとから加わった俺だけが、個人ではFのままだった。


「ちょうどいいとは、どういう意味だ」


「俺も、抜けようと思っていたんだ」


「……はあ、強がりはよせ」


 婚約破棄でも、同じところで話が止まった。


 皆、俺の返事を聞く前に、その先の会話まで決めているらしい。


「今のお前では、これ以上の依頼にはついてこられない。剣もろくに振れず、火を灯すくらいしかできない奴を、いつまでも連れて歩けないんだ」


 ヴィンセントは、机の依頼票を指で叩いた。


「いつまでも白晶の第5層までで満足するつもりはない。俺たちは、Dランクを目指している」


 8日前までの俺なら、もう少し頑張るからと頼んでいただろう。


 だが、今は違う。戦いで助けてもらったことには感謝している。そのうえで、これからどうするかは自分で決めたい。


「分かった。これまで助かった。ありがとう」


 頭を下げると、ヴィンセントは言葉を切った。隣のブルーノが、不思議そうに俺を見る。


「お前、そんな話し方だったか?」


「前より聞き取りやすいだろう?」


「そういう意味じゃなくてだな……」


 俺は笑って、話を戻した。


「ギルドには俺から伝えておく。それと、立て替えていた銀貨4枚を精算してほしい」


「……4枚?」


「傷薬と包帯、食料、それから切れた縄の買い替え分だ」


「そういう細かいことを、この場で持ち出すのか?」


「抜けたあとでは、言いにくいだろう」


 銀貨4枚を雰囲気で手放すほど、余裕はない。


 以前は「あとで払う」と言われると、いつですかと聞けなかった。その、あとでが今である。


「薬と包帯は覚えてるよ。ブルーノが腕を怪我した時の」


 フェリクスが眼鏡を直した。


「あれか。縄は俺が切ったな」


 2人の言葉を聞き、ヴィンセントは共同資金から銀貨を出した。


「持っていけ」


「ありがとう。共同の道具は、こっちだ」


 大きな袋を下ろし、予備の縄、採取用の小刀、火打ち石、雨よけの布を並べる。傷薬と包帯も残っている。


 自分の財布で買った緊急用のポーションは、別に収納してある。これらは皆で買った品だ。


「袋ごと置いていけよ」


 ブルーノが言った。


「袋は俺のだ」


「そのくらい、いいだろう」


「よくない。父上が買ってくれたものだ」


 彼は少し驚いた顔をした。


 派手ではないが、肩紐の縫い目まで補強された丈夫な袋だ。学院へ入る日に、父が手渡してくれた。これからも大事に使おう。


 内側に引っかかっていた釣り針まで机に置き、空の袋を背負い直す。


「薬を使ったら補充するよう、次の人に伝えてくれ。包帯の替えは残り2つだ」


「分かっている。もう行け」


 扉へ向かうと、フェリクスに呼び止められた。


「オスカー。……1人で、無茶はしないように」


「ああ。気をつける」


 廊下へ出た背中に、ブルーノの声が届く。


「それで、この荷物は誰が持つんだ?」


「お前が持て」


「俺は盾があるだろう」


「僕は両手を空けておきたいんだけど」


 俺も、両手を空けたい日はあった。


 足を止めず、腰の革の輪に差した木剣を直す。学院の実技でも使う、自分の木剣だ。


 この8日間、魔法の練習と一緒に素振りも続けてきた。《成長補正》があっても、使わない剣まで上達はしない。


 収納から突然出せば説明が増える。すぐ手が届く腰へ下げておく方が、都合がよかった。


     *


 冒険者ギルドは、学院の正門から歩いて10分ほどだ。


 革と油の匂いがする建物へ入り、受付へ向かう。


「パーティの脱退手続きをお願いします」


「オスカー君? 《銀翼の鷹》を抜けるの?」


 赤茶色の髪をまとめた受付のエマさんが、顔を上げた。


「はい。個人で活動しようと思いまして」


「共同の道具や報酬の精算は?」


「済ませました」


 登録簿を確かめた彼女が、小さな判を押す。


「未完了の依頼もないから、これで大丈夫。学院の課外活動許可も、そのまま使えるわ。1人で迷宮へ入る時は、個人のFランクに従って白晶の第1層までね」


「はい。分かっています」


 Eランクパーティの一員として同行できた範囲は、俺個人の許可ではない。ここからは、自分で戦って実績を積もう。


 脱退の手続きは、驚くほどあっさり終わった。


「なんだか、すっきりしてるわね」


「今日のうちに、1仕事できそうですから」


 エマさんは笑い、それ以上は尋ねなかった。


「最初は採取依頼を受けたいんですが、売れやすいものはありますか?」


「南門近くの白葉草ね。傷薬や回復ポーションの材料よ。状態がよければ、依頼の数量を超えた分も買い取れるわ」


 見本の束を観察し、《物品鑑定》と見比べる。品質は良好。薬効があるのは葉だ。


 若い葉を選び、根は残す。似た草との違いも教わっておく。能力が使えなくなったら何も分からない、では困る。


「ずいぶん雰囲気が変わったわね。以前は、ほとんど皆の後ろにいたでしょう」


「今は、聞きたいことがたくさんあるんです。まずは、これでテスト運用ですね」


「テスト……?」


「1度やってみて、どれくらい採れるか確かめるということです」


 前世の言い方が、つい出た。


「そうね。最初から欲張らないのは、いいことよ。今日はもう夕方だから、暗くなる前に帰ってね」


「はい。ありがとうございます」


 採取して運び、売る。実際にかかった時間と収入が分かれば、計画も直せる。


 俺は依頼票の控えをしまい、ギルドを出た。


 新しい能力と前世の経験で、今度は自分と家族を助けよう。


 そう考えたところで、路地の奥から声が聞こえた。


「離して」


 外套を着た少女が、3人の男に囲まれていた。1人が道を塞ぎ、1人が壁際に立ち、残る1人が腕をつかんでいる。


「ちょっと付き合ってくれればいいんだよ」


「嫌。手を離して」


 フードから銀色の髪がこぼれた。俺と同じ年頃の、美しい少女だ。


 婚約破棄。パーティ追放。そして、路地裏で絡まれる少女。


「テンプレのオンパレードじゃないか。まったく、神々は俺にいったい何をやらせたいんだ」


 小さくぼやき、制服の内側の笛を確かめる。


 これも想定内。路地裏の揉め事への備えはある。


 男の指が食い込み、少女が眉をひそめた。空いている手を上げかけ、大通りへ目をやって止める。


 何かを迷っているようだった。


 俺は歩き出した。


「その手を離してもらえるか」


 3人がこちらを向く。


 路地の入り口で止まり、《探索マップ》を確認する。奥に別の人影はない。背後は人通りのある大通りだ。


「学院の坊ちゃんか。お勉強なら、よそでやりな」


 男が腰の短剣を抜いた。


 刃物で脅す。ここまでは想定どおりだ。


 俺が制服へ手を入れると、男たちが身構えた。


「おいおい、抜く気か?」


 取り出した笛を口へ運び、思い切り吹く。


「ピーーーーーーッ」


「衛兵! 刃物です! 女の子が男3人に襲われています!」


「てめえ!」


 悪いが、1対3の勝負を申し込みに来たわけではない。まだ俺はそんなに強くないんだ。


 大通りから叫び返す声がした。これで人は来る。その前に少女を離させよう。


 短剣を持つ手へ、何度も練習した水玉を放つ。


「ぐっ!?」


 水の塊が手首を打ち、短剣が落ちた。少女をつかむ手も緩む。


「こっちだ!」


 彼女は即座に身をひねり、走ってきた。


 判断が速い。


 その足元を避け、後ろの敷石の隙間へ魔力を通す。盛り上がった土に靴を取られ、男が転んだ。


「何だ、これ!」


 残る2人のうち、1人は逃げた。もう1人がこちらへ向かってくる。


 少女を背にかばい、木剣を抜く。


「そんな玩具で――」


 男が拳を振りかぶった。


 《思考加速》《並列思考》を使う。


 体重を乗せようとした足元へ風を走らせると、踏み出した足が横へ流れた。


 崩れた男の横へ踏み込み、両手で持った木剣を短く振る。力比べになる前に、動きを止める。


 狙うのは、振り上げられた腕。


 硬い手応えと悲鳴。相手が腕を引いたところへ踏み込み、剣を返して膝の横を打つ。


 男は壁に背中をぶつけ、崩れ落ちた。


 打ってから次へつなぐ。授業で繰り返した動きが、できた。


 すぐに距離を取り、少女との間に立つ。追い打ちはいらない。


 視界に新しい通知が浮かんだが、確認はあとだ。


 魔力は半分以上残っている。魔力回復ポーションを飲むために隙を見せる必要もない。


 心臓の音が、練習室にいた時よりずっと大きい。


 それでも、足は動いた。


「動くな!」


 衛兵が駆け込み、男たちを取り押さえる。逃げた1人にも、別の衛兵が追いついた。


 俺は肩の力を抜き、木剣を腰へ戻した。


「怪我は?」


「少しだけ。大丈夫、助けてくれてありがとう」


 少女は腕をさすり、笑った。すぐに、好奇心に満ちた目が俺の手元へ向く。


「ねえ、今の魔法、詠唱してなかったよね? どうやったの?」


「あとで話そう。まず、衛兵に事情を――」


「エステル殿下!」


 白銀の鎧を着た騎士が、少女の前で膝をついた。胸当てには王家の紋章。


 ああ。そちらの展開か。


 助けた少女が、お忍びの王族。王城へ続くイベントのフラグまで立った気がする。


 エステル・アルヴェイン。王国の第3王女。同じ15歳で、3年前から魔道王国へ留学していたはずだ。


「殿下とは知らず、失礼いたしました」


 一礼すると、エステルは騎士の顔を見て、小さく肩をすくめた。


「その話はあとでね。……見つかっちゃった」


「殿下。どうか護衛を置いて行かれませんように」


「今日帰ってきたばかりなんだもの。少し、街を歩きたかったの」


 なるほど。お忍びというより、護衛をまいてきたらしい。


 騎士が俺へ向き直る。


「殿下をお救いいただき、感謝いたします。王城で詳しいお話を伺いたい。ご同行願えますか」


 俺は内ポケットの依頼票に触れた。


 白葉草を採り、暗くなる前に帰る予定だった。


 だが、王城で話を聞いてもらえる機会など、そうはない。父上の件で相談できる相手が見つかるかもしれない。


 おお。これは、なかなか好都合だ。


「承知しました。ご一緒します」


 馬車を待つ間に、先ほどの通知を開く。


【レベル】3 → 5


【スキルレベル上昇】《剣術》Lv1 → Lv2


 おお。2つも上がっている。


 相手を殺さなくても、戦って無力化すれば経験値が入るらしい。10倍の補正もあり、まだ低かったレベルが1度に2つ上がったのだ。


 剣術も、8日間の素振りに実戦の熟練度が加わり、次の段階へ届いていた。


 木剣の柄を握り直す。同じ剣なのに、持ち上げる腕が軽い。魔力の最大値も増えていた。技術だけでなく、身体そのものが強くなっている。


 ただ、打ち合った手の痛みは残ったままだ。レベルが上がることと、傷が治ることは別らしい。


 魔法で隙を作り、剣で打つ。次の練習では、この組み合わせを確かめよう。


 画面を閉じた。


 薬草は、明日でも採れる。


 今日はひとまず、王城へ行こう。父上のためにも、何かできることがあるかもしれない。


 婚約破棄され、冒険者パーティも追放されたモブ貴族だけど……。


 なかなか、悪くない1日じゃないか。

お読みいただきありがとうございます。

少しでも先が気になる、面白いと思っていただけましたら、

ブクマや↓の☆〜☆☆☆☆☆評価で応援していただけますと執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。