第14話 冒険者審査
連載中の
『怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う』
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もよろしくお願いします!
「あいつ、今度は誰と戦うんだ?」
教室へ入る前から、自分の話が聞こえた。
「槍も弓も負けたんだろ。もう、普通に強いんじゃないか」
「昨日、隣の組の女子までオスカー君って呼んでたぞ」
「俺なんか、けっこうアピールしてるけど、まだ名前を覚えてもらえないのに……」
努力の方向が違う気もするが、声は切実だった。
それでも、机の上には新しい申し込みが置かれていた。
「返事を出す前に、予定を見てくださいませ」
シルヴィアが、俺の手元へ帳面を置く。
「明日はギルドの審査です。今日、3人も相手にする時間はありません」
「今日は受けないよ。審査が終わってから、日程を相談する」
学院の授業、迷宮、魔法の練習。そこへ決闘を詰め込んだら、何をするために強くなるのか分からなくなる。
先生にも言われたとおり、選ぼう。
俺は1枚の名前を確かめた。
パルム・ベルク。
隣の組で、攻撃魔法の実技に優れた生徒だった。
「その人なら、わたしも魔法を見たいな」
エステルが言った。
「授業で見た火球、よくまとまってたよ。的に当たるまで、ほとんど形が崩れなかった」
「そういうの、覚えているんだな」
「面白い魔法は、気になるでしょう?」
なるほど。俺たちは似た者同士かもしれない。
だからこそ、見たいものを全部その日の予定へ押し込まないようにしよう。
休み時間、返事を伝えに行くと、パルムは俺の顔を見て眉を上げた。
「受けないのか?」
「受けるよ。ただ、明日はギルドの昇格審査なんだ。終わってから、お互いの空いている日を決めたい」
「……無詠唱なら、疲れもしないのかと思っていた」
「詠唱がなくても、魔力は使うし疲れるよ」
徹夜しても平気そうだと言われた前世を思い出す。平気に見えることと、平気であることは別だ。
パルムは腕を組み、少し黙った。
「詠唱がいらないのは、認める。でも、速く出せるだけでは通用しない相手もいるだろう」
「そうだな。君の火球は威力も制御もいいって、エステルから聞いた」
「……殿下が?」
組んでいた腕が、少し緩んだ。
「だから、ちゃんと準備して戦いたい。先生の立ち会いもお願いしてからだ」
「分かった。審査が済んだら、声をかけてくれ」
「ありがとう」
話がまとまったところで、廊下から落胆の声がした。
「今日は、魔法との勝負が見られると思ったのに」
「ベルクの火球ならって、楽しみにしてたんだぞ」
「俺も暇じゃない。勝手に予定を決めるな」
パルムに言い返され、男子たちが口を閉じる。
どうやら、彼も周りの期待を全部背負う気はないらしい。
知らない攻撃と向き合う機会は、俺にとってありがたい。それでも、今いちばん進めたいのは、3人で潜れる場所を増やすことだ。
決闘なら、後日でもできる。
*
昼休み、エステルに火と土の制御を見てもらった。
「土はね、大きく作る前に、どこへ力がかかるか考えてみて」
「土よ、守れ――《アース・ウォール》」
彼女は小さな土の板を作り、斜めに傾けた。
「全部を分厚くしなくても、この向きなら受け流せる。崩す時も、どっちへ倒れるか分かるでしょう」
指を動かすと、板が自分の側へゆっくり崩れた。
俺の作る土は、盛り上げるだけなら速い。その先を考える余裕が、まだ少なかったらしい。
火では、燃やす範囲を狭く保つ練習をした。
「大きくするより、余分に広げない方が難しいな」
「うん。でも、その方が味方の近くでも使えるよ」
俺が小さな炎を消す横で、シルヴィアは氷を作っていた。
いつもの詠唱から、1部分だけ言葉を省く。
「――《フロスト・アロー》」
杖の先に、小さな氷の粒が残った。
「……できました」
「今の、形が崩れなかったね!」
エステルが手を叩く。
シルヴィアはすぐに、同じ詠唱を繰り返した。
2度目の氷は、半分の大きさになった。
「まだ、揃いませんわね」
「最初の1回ができたんだもの。そこからだよ」
俺も、うなずいた。
喜び方は控えめだったが、シルヴィアは出来上がった氷を、しばらく掌に載せていた。
*
放課後は、3人で明日の準備を確かめた。
シルヴィアが包帯と薬を並べ、エステルがマジックバックの中身を読み上げる。俺は剣の刃と鞘、それから革紐の緩みを見た。
「道具を持っているだけではなく、誰がどこへ入れたかも分かるようにしておきましょう」
「包帯は、ここ。食べ物はこっちね」
「同じ場所に入っていなくて安心したよ」
「そこまで雑じゃないってば」
エステルが頬を膨らませ、シルヴィアが笑いをこらえる。
地図を広げて、いつもの探索経路も振り返った。狭い通路では俺が前へ出て、広い場所では2人の射線を空ける。帰る時刻も、先に決めておく。
特別なことを見せようとして、普段の連携を崩したら意味がない。
「明日も、いつもどおりで行こう」
「うん。3人なら大丈夫」
「ええ。ただし、明日に疲れを残さないことですわ」
シルヴィアに念を押され、俺とエステルは揃ってうなずいた。
その日の迷宮は、明日の審査を考えて短く切り上げた。
短い探索でも、魔物との戦闘はあった。連携を確かめながら進み、レベルは20に上がった。風の魔法剣は、4振りほどなら続けられるようになっている。
帰る前の休憩で、2度目の恩恵を確かめた。
【成長恩恵】《体力回復促進》《魔力回復促進》――(極小)から(小)へ上昇
水を飲んで座っているうちに、脚の重さが引き始めた。魔力も、今までより早く戻ってくる。いつもなら休憩の延長を頼む頃に、自分から立ち上がれた。
「もう歩けるの?」
「うん。今日は、戻りが早い」
エステルに答えながら、嬉しさをかみしめる。1発の威力が増すのもいいが、次の1戦へ余力を残せるのは大きい。だからといって、明日の審査前に使い切るつもりはない。
回復魔法の練習は、帰ってからだった。
道具の手入れで指先を少し擦ったので、シルヴィアに見てもらい、自分で光を当ててみた。
薄い光を散らさず、傷の場所へ留める。
赤くにじんでいたものが、ゆっくり止まった。
「……止まった」
「ええ。今のは、きちんと働きましたわ」
傷跡は残っている。小さな傷1つに、ずいぶん魔力を使った。
7年間練習してきたシルヴィアのように、滑らかに治すことはできない。それでも、最初の1歩だった。
「ありがとう、先生」
「……その呼び方は、少し落ち着きません」
「教え方がいいから、できたんだと思う」
シルヴィアは顔をそらし、包帯を取り出した。
「では、手当ての続きも覚えてください。魔法が途中で切れた時も、困らないように」
うなずいて、巻き方を見る。
いつか、彼女が怪我をした時にも、この手で役に立てるように。
*
シルヴィアが加入して、1週間が経った。
翌日の放課後、俺たちは昇格審査のためギルドの訓練場へ行き、個人ごとの実技と質問を受けた。
俺は剣と魔法、エステルは4属性、シルヴィアは氷と回復を見せる。
終わると、審査員が荷物と探索計画を確認し、白晶へ同行した。
潜るのは、まだ第1層だ。
今度は、3人での連携と判断を見てもらう。
広い通路へ入ったところで、狼が5匹、こちらを向いた。
俺は前へ出ながら、数と位置を伝える。
「エステルは左の2匹。シルヴィア、右を頼む」
「了解」
「任せてください」
中央の1匹へ水弾を放つ。
狼が横へ跳ぶ。俺はその先へ回り、鉄剣を振った。
刃の風を保ち、2振り目を届かせる。
「土よ、縛れ――《アース・バインド》! 風よ、切り裂け――《ゲイル・エッジ》!」
左では土が狼を止め、その上を風の刃が走った。右ではシルヴィアが詠唱を結ぶ。
「――《フロスト・ランス》!」
2本の氷槍が敵を貫く。
彼女が使ったのは、確実な通常の詠唱だった。
練習で1度できたことを、そのまま大きな魔法へ当てはめたりはしない。
5匹目が消えたところで、横の枝道に新しい反応が現れた。
「右の奥、もう1匹」
《探索マップ》で確かめ、声をかける。
牙が見えた瞬間、小さな土壁を置いた。
狼の突進が止まる。
その頭へ、エステルの水槍が届いた。
「ありがと、見えたよ」
彼女は杖を下げず、奥へ目を向けている。
審査員は剣へ触れずに、記録を取った。
その後も探索を続け、決めていた時刻で帰路につく。回収を急ぎすぎないこと、誰かが足を止めたら待つこと。毎日やってきたことを、いつもどおり繰り返した。
地上へ戻ると、審査員が俺たちを見た。
「攻撃は十分です。周囲を確かめ、味方が動ける時間も作れています」
胸の奥が、少し熱くなる。
「第2層から先では、知らない敵も増えます。今日と同じように、戻る時を間違えないように」
「はい」
俺たちは、揃って頭を下げた。
*
「おめでとうございます。《深淵》は、Eランクパーティへ昇格です」
受付でエマさんに告げられ、エステルが両手を握った。
「やった!」
「個人の審査結果も、3人ともEランク認定です。それぞれの登録に反映しますね」
俺は、新しい記載を確かめた。
白晶、第5層まで。
もちろん、明日いきなり第5層へ行くわけではない。まずは第2層の入口からだ。
「私たちの名前、少しは似合うようになってきましたわね」
シルヴィアが言う。
「まだ底は、全然見えないけどね」
エステルが笑った。
俺のレベルは、22になっていた。
剣も、魔法も、回復も。教わって、試して、失敗して、少しずつ手元に残るものが増えた。
良い1週間だった。
「オスカー。もう1つ、予定を相談していい?」
エステルが、鞄から封書を出した。
封には、王家の紋章がある。
「お姉様の報告が、ようやく片づいたんだって。明日の放課後、お話ししたいそうなの」
俺は、封書を受け取った。
強い姉との面談。
その先に来そうな展開まで含めて、想定はしている。
あとは、その想定に今の俺の力が、どこまで追いついているかだ。




