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第14話 冒険者審査

連載中の

『怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う』

https://ncode.syosetu.com/n7268mo/

もよろしくお願いします!

「あいつ、今度は誰と戦うんだ?」


 教室へ入る前から、自分の話が聞こえた。


「槍も弓も負けたんだろ。もう、普通に強いんじゃないか」


「昨日、隣の組の女子までオスカー君って呼んでたぞ」


「俺なんか、けっこうアピールしてるけど、まだ名前を覚えてもらえないのに……」


 努力の方向が違う気もするが、声は切実だった。


 それでも、机の上には新しい申し込みが置かれていた。


「返事を出す前に、予定を見てくださいませ」


 シルヴィアが、俺の手元へ帳面を置く。


「明日はギルドの審査です。今日、3人も相手にする時間はありません」


「今日は受けないよ。審査が終わってから、日程を相談する」


 学院の授業、迷宮、魔法の練習。そこへ決闘を詰め込んだら、何をするために強くなるのか分からなくなる。


 先生にも言われたとおり、選ぼう。


 俺は1枚の名前を確かめた。


 パルム・ベルク。


 隣の組で、攻撃魔法の実技に優れた生徒だった。


「その人なら、わたしも魔法を見たいな」


 エステルが言った。


「授業で見た火球、よくまとまってたよ。的に当たるまで、ほとんど形が崩れなかった」


「そういうの、覚えているんだな」


「面白い魔法は、気になるでしょう?」


 なるほど。俺たちは似た者同士かもしれない。


 だからこそ、見たいものを全部その日の予定へ押し込まないようにしよう。


 休み時間、返事を伝えに行くと、パルムは俺の顔を見て眉を上げた。


「受けないのか?」


「受けるよ。ただ、明日はギルドの昇格審査なんだ。終わってから、お互いの空いている日を決めたい」


「……無詠唱なら、疲れもしないのかと思っていた」


「詠唱がなくても、魔力は使うし疲れるよ」


 徹夜しても平気そうだと言われた前世を思い出す。平気に見えることと、平気であることは別だ。


 パルムは腕を組み、少し黙った。


「詠唱がいらないのは、認める。でも、速く出せるだけでは通用しない相手もいるだろう」


「そうだな。君の火球は威力も制御もいいって、エステルから聞いた」


「……殿下が?」


 組んでいた腕が、少し緩んだ。


「だから、ちゃんと準備して戦いたい。先生の立ち会いもお願いしてからだ」


「分かった。審査が済んだら、声をかけてくれ」


「ありがとう」


 話がまとまったところで、廊下から落胆の声がした。


「今日は、魔法との勝負が見られると思ったのに」


「ベルクの火球ならって、楽しみにしてたんだぞ」


「俺も暇じゃない。勝手に予定を決めるな」


 パルムに言い返され、男子たちが口を閉じる。


 どうやら、彼も周りの期待を全部背負う気はないらしい。


 知らない攻撃と向き合う機会は、俺にとってありがたい。それでも、今いちばん進めたいのは、3人で潜れる場所を増やすことだ。


 決闘なら、後日でもできる。


     *


 昼休み、エステルに火と土の制御を見てもらった。


「土はね、大きく作る前に、どこへ力がかかるか考えてみて」


「土よ、守れ――《アース・ウォール》」


 彼女は小さな土の板を作り、斜めに傾けた。


「全部を分厚くしなくても、この向きなら受け流せる。崩す時も、どっちへ倒れるか分かるでしょう」


 指を動かすと、板が自分の側へゆっくり崩れた。


 俺の作る土は、盛り上げるだけなら速い。その先を考える余裕が、まだ少なかったらしい。


 火では、燃やす範囲を狭く保つ練習をした。


「大きくするより、余分に広げない方が難しいな」


「うん。でも、その方が味方の近くでも使えるよ」


 俺が小さな炎を消す横で、シルヴィアは氷を作っていた。


 いつもの詠唱から、1部分だけ言葉を省く。


「――《フロスト・アロー》」


 杖の先に、小さな氷の粒が残った。


「……できました」


「今の、形が崩れなかったね!」


 エステルが手を叩く。


 シルヴィアはすぐに、同じ詠唱を繰り返した。


 2度目の氷は、半分の大きさになった。


「まだ、揃いませんわね」


「最初の1回ができたんだもの。そこからだよ」


 俺も、うなずいた。


 喜び方は控えめだったが、シルヴィアは出来上がった氷を、しばらく掌に載せていた。


     *


 放課後は、3人で明日の準備を確かめた。


 シルヴィアが包帯と薬を並べ、エステルがマジックバックの中身を読み上げる。俺は剣の刃と鞘、それから革紐の緩みを見た。


「道具を持っているだけではなく、誰がどこへ入れたかも分かるようにしておきましょう」


「包帯は、ここ。食べ物はこっちね」


「同じ場所に入っていなくて安心したよ」


「そこまで雑じゃないってば」


 エステルが頬を膨らませ、シルヴィアが笑いをこらえる。


 地図を広げて、いつもの探索経路も振り返った。狭い通路では俺が前へ出て、広い場所では2人の射線を空ける。帰る時刻も、先に決めておく。


 特別なことを見せようとして、普段の連携を崩したら意味がない。


「明日も、いつもどおりで行こう」


「うん。3人なら大丈夫」


「ええ。ただし、明日に疲れを残さないことですわ」


 シルヴィアに念を押され、俺とエステルは揃ってうなずいた。


 その日の迷宮は、明日の審査を考えて短く切り上げた。


 短い探索でも、魔物との戦闘はあった。連携を確かめながら進み、レベルは20に上がった。風の魔法剣は、4振りほどなら続けられるようになっている。


 帰る前の休憩で、2度目の恩恵を確かめた。


【成長恩恵】《体力回復促進》《魔力回復促進》――(極小)から(小)へ上昇


 水を飲んで座っているうちに、脚の重さが引き始めた。魔力も、今までより早く戻ってくる。いつもなら休憩の延長を頼む頃に、自分から立ち上がれた。


「もう歩けるの?」


「うん。今日は、戻りが早い」


 エステルに答えながら、嬉しさをかみしめる。1発の威力が増すのもいいが、次の1戦へ余力を残せるのは大きい。だからといって、明日の審査前に使い切るつもりはない。


 回復魔法の練習は、帰ってからだった。


 道具の手入れで指先を少し擦ったので、シルヴィアに見てもらい、自分で光を当ててみた。


 薄い光を散らさず、傷の場所へ留める。


 赤くにじんでいたものが、ゆっくり止まった。


「……止まった」


「ええ。今のは、きちんと働きましたわ」


 傷跡は残っている。小さな傷1つに、ずいぶん魔力を使った。


 7年間練習してきたシルヴィアのように、滑らかに治すことはできない。それでも、最初の1歩だった。


「ありがとう、先生」


「……その呼び方は、少し落ち着きません」


「教え方がいいから、できたんだと思う」


 シルヴィアは顔をそらし、包帯を取り出した。


「では、手当ての続きも覚えてください。魔法が途中で切れた時も、困らないように」


 うなずいて、巻き方を見る。


 いつか、彼女が怪我をした時にも、この手で役に立てるように。


     *


 シルヴィアが加入して、1週間が経った。


 翌日の放課後、俺たちは昇格審査のためギルドの訓練場へ行き、個人ごとの実技と質問を受けた。


 俺は剣と魔法、エステルは4属性、シルヴィアは氷と回復を見せる。


 終わると、審査員が荷物と探索計画を確認し、白晶へ同行した。


 潜るのは、まだ第1層だ。


 今度は、3人での連携と判断を見てもらう。


 広い通路へ入ったところで、狼が5匹、こちらを向いた。


 俺は前へ出ながら、数と位置を伝える。


「エステルは左の2匹。シルヴィア、右を頼む」


「了解」


「任せてください」


 中央の1匹へ水弾を放つ。


 狼が横へ跳ぶ。俺はその先へ回り、鉄剣を振った。


 刃の風を保ち、2振り目を届かせる。


「土よ、縛れ――《アース・バインド》! 風よ、切り裂け――《ゲイル・エッジ》!」


 左では土が狼を止め、その上を風の刃が走った。右ではシルヴィアが詠唱を結ぶ。


「――《フロスト・ランス》!」


 2本の氷槍が敵を貫く。


 彼女が使ったのは、確実な通常の詠唱だった。


 練習で1度できたことを、そのまま大きな魔法へ当てはめたりはしない。


 5匹目が消えたところで、横の枝道に新しい反応が現れた。


「右の奥、もう1匹」


 《探索マップ》で確かめ、声をかける。


 牙が見えた瞬間、小さな土壁を置いた。


 狼の突進が止まる。


 その頭へ、エステルの水槍が届いた。


「ありがと、見えたよ」


 彼女は杖を下げず、奥へ目を向けている。


 審査員は剣へ触れずに、記録を取った。


 その後も探索を続け、決めていた時刻で帰路につく。回収を急ぎすぎないこと、誰かが足を止めたら待つこと。毎日やってきたことを、いつもどおり繰り返した。


 地上へ戻ると、審査員が俺たちを見た。


「攻撃は十分です。周囲を確かめ、味方が動ける時間も作れています」


 胸の奥が、少し熱くなる。


「第2層から先では、知らない敵も増えます。今日と同じように、戻る時を間違えないように」


「はい」


 俺たちは、揃って頭を下げた。


     *


「おめでとうございます。《深淵》は、Eランクパーティへ昇格です」


 受付でエマさんに告げられ、エステルが両手を握った。


「やった!」


「個人の審査結果も、3人ともEランク認定です。それぞれの登録に反映しますね」


 俺は、新しい記載を確かめた。


 白晶、第5層まで。


 もちろん、明日いきなり第5層へ行くわけではない。まずは第2層の入口からだ。


「私たちの名前、少しは似合うようになってきましたわね」


 シルヴィアが言う。


「まだ底は、全然見えないけどね」


 エステルが笑った。


 俺のレベルは、22になっていた。


 剣も、魔法も、回復も。教わって、試して、失敗して、少しずつ手元に残るものが増えた。


 良い1週間だった。


「オスカー。もう1つ、予定を相談していい?」


 エステルが、鞄から封書を出した。


 封には、王家の紋章がある。


「お姉様の報告が、ようやく片づいたんだって。明日の放課後、お話ししたいそうなの」


 俺は、封書を受け取った。


 強い姉との面談。


 その先に来そうな展開まで含めて、想定はしている。


 あとは、その想定に今の俺の力が、どこまで追いついているかだ。

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