↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿中】エクリプス 〜選ばれない月は、太陽を閉じ込める〜版権無視Ver.  作者: 月乃下 想
まなざしの先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/66

6-6

 武田家でのお家騒動から年末年始を駆け抜け、1月の冷え込みが少しだけ和らいだ雨の夜。



 すっかり夜の帳が下りた住宅街を、傘をさしながら帰っていると、ポケットの中のPHSが震えた。

 傘を落とさないよう注意しながらポケットを探り、画面を見ると、そこには久しぶりに表示された武田の名前。


『山谷ー、今ひま? あ、今年もよろしくー』

「あー、こちらこそよろしく。今バイト帰りだけど、どうかした?」

「あのさ、Peacefulのバイトってどう? 大変?」

「やけに唐突だな。んー、俺は厨房だったから、手早く料理さえできるなら苦労はないかも」

「今、厨房だった、って言った? 仕事、接客に変わったの?」



 そういえば、お家騒動から年末年始のどさくさで武田には伝えてなかったな。



「俺さ、高専祭終わったあと、『Peaceful』のバイト辞めたんだ」

「えっ、そうなの!? なんで?」

「高専祭のライブで音響やってくれてる東田さんって人がいてね、修行がてらバイトしないかって誘われて、今その人のライブハウスでバイトしてる」


 何だかんだで3年近くいたバイト先だから、店長にはかなり引き止められた。

 理由を話して、最後は背中を押してくれた店長には頭が上がらない。

 まあ、金谷と鈴森は続けて働くことになったから心配はないけど。あいつらも短期バイトのつもりが、結局残ってるしな。


「そうだったんだ。そっか、ライブハウスか……どこにあるの?」

「駅前のビルあるじゃん? 白い方。あの2階にあるよ。名前は『Sparkle Polar』。ライブやってない日はバーで営業してるんだ」

「ライブハウス……かあ。次はいつバイト出てるの?」

「明日も出るよ。オーナーの奥さんが風邪ひいちゃって、人手が足りないからって」

「じゃあ明日行くわ、席空けといて」

「未成年がバーの予約するなって」


 翌日。


「来たよー」


 席の予約はしてないが、本当に来たよ武田。


「いらっしゃい、カウンターでいい?」


 あ、今のセリフちょっとカッコいいかも。


「うわ、なんか顔が得意げでウザい」

「ひどくない? 何、面倒な客なの?」

「おう山谷、お前、客をナンパしてんじゃねえよ。働け」

「そうだそうだー」

「東田さん……こいつはただの同級生ですって……むしろ絡まれてるのは俺の方ですよ」

「なんだ、逆ナンかつまんねえな。もう帰れよ山谷」

「そうだそうだー」


 東田さん、ニヤつきながら帰れとか言われても困りますって。

 あと武田、IQ下がりすぎだ。


 頼まれた飲み物とお菓子の詰め合わせバスケットを出し、武田に釘を刺す。


「ちゃんと自分で払ってよ」

「大丈夫! これからはアンタにたかったりしないから!」

「ほんとかな……」

「ほんとだって! …………母さんにめっちゃ怒られて懲りたし…………」


 最後は聞き取れないが、武田は一度口にしたことにはちゃんと責任を持つやつだ。だから大丈夫だろうと、俺は安堵のため息を漏らした。


「なんかいいね、この日常っぽくない空間」

「でしょ? ライブやってる日はまた違う雰囲気になるんだよ」

「そっかー、ちょっと興味あるなあ」


 東田さんが、奥からウイスキーの瓶を持ってきた。どうやら窓際のテーブル席にいる常連と飲むのだろう。


「お酒って、美味しいもんなのかねー。さっぱりわからん」

「でもアタシたちも、あと2年もすればお酒飲めるようになるじゃん」

「たぶん飲まないなー、匂いから苦手」

「そうなの? アタシはイケそうな気がする」

「そうか頑張れ、俺は仕事に戻るから」

「ちょっと、興味ないからって仕事に戻るなー!」



 それから数日後。

 毎週木曜、ライブハウスは定休日だ。せっかくだからとオーディオ部に顔を出そうとしたが、部室の鍵が閉まっている。

 みんな外部で練習かな? だったら吹奏楽部の部室に向かってみれば、こちらも高専祭というイベントが終わってひと段落ということで、部室には誰もいない。


 よし、帰ってギター弾こ。


「ただいまー、って、お客さん?」


 玄関には、女性ものの上品な靴が置かれている。

 そういえば家に入ってから、リビングから賑やかな話し声が聞こえてくることに気付いた。


「ただいま母さん、お客さん来てるの──って、うわっ!!!」



 うちの小さなリビングに、武田母がいた。



「あ、真太郎くんおかえりなさーい! 今年もよろしくねー。今ちょうど、美沙さんに家族会議のこと話してたのよ」

「真太郎……あんた親の知らない間に、立派になったのね……」

「な……なんで武田の……お母さん……」


 俺の驚愕さえも面白いと言わんばかりに、上品に笑いながら武田母が言う。母さんは目元を拭うふりをしながら、全力で俺を茶化していた。


「遅ればせながら先週、美沙さんにお電話したら、久しぶりにお家に呼ばれたの」

「そりゃ当然、息子がお世話になったのだからお礼ぐらいはね。相手が菫ちゃんなら尚更」

「それにね、うちの椿も本当に、真太郎くんにお世話になってるのもあるし、いろんな意味でご挨拶は必要でしょ?」

「もーご挨拶なんて! 気が早いけど悪くないかも!!」


 お母さんズが何を言ってるのか、さっぱりわからない。完全に置いてけぼりだ。


「武田のことはもういいですって、お母さん。あれはこの前話した通りで……って母さん、何ニヤついてんの」


 さっきから母さんが、俺の顔をニヤニヤしながら見ている。

 意図の読めないニヤつきに、次の言葉が出てこない。



「あの真太郎がね、椿ちゃんの味方になったってのが、あたしは嬉しかったのよ」

「そうなの、私は嬉しかったのよ。美沙さんずっと真太郎くんのこと心配してたからね」


 コーちゃんから以前聞いた話。

 改めて俺は、親に心配をずっとかけてたんだなと反省する。


「母さん、ほんと心配かけてごめん」

「何言ってんの真太郎。親は子供を心配するのも生き甲斐なのよ」

「真太郎くん、本当にいいお母さんを持ったわね」


 目頭が熱くなる。

 これ以上ここにいたらまずい……さっさと部屋に戻ろう。


「はい……それじゃあお母さん、ゆっくりしていってください」

「ありがとう。あ、それと……ふふっ」


 どうした武田母。


「椿のこと、これからもよろしくね」

「当たり前です、友達ですから」

「あらあら……これは椿のがんばり次第ね……ふふっ」


 だから武田母、どうした。

 というか、楽しみって何だ?




 まあ、考えてもわからないだろうし、いいや。

 階段を上がり、自分の部屋の扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。