5-11
高専祭2日目。
体育館は、酸欠になりそうなほどの熱気と歓声に包まれていた。
後輩たちのバンド──SPUNKYは午前の最後だったか、約束したし、見に行ってやんないとな。
結局ZERO SOUNDは名乗らず、SPUNKYというバンド名にしたようだ。本人たち曰く、『女は度胸!』って意味で名付けたらしい。バンドに待望の女子が入ってくれたことだし、金谷、鈴森はさぞかし喜んでることだろう。
そんなことを考えてる俺が、今何をしているのかといえば。
「──山谷! 今何分!?」
「58…… 59…… 4分ジャスト! 今です!!」
焼きそばを焼いて──麺をゆでていた。
高専祭は2日間。今年も高専祭のオープニングは吹奏楽部の演奏から。
さらに今年も屋台を出す。
個人練と合奏の時間を割いての話し合いが行われたが、今年は大変だった。
なんと、焼きそば派とアメリカンドッグ派、派閥が割れたのだ。
俺は焼きそば派に行きたかったのに、後輩の女子が、
「先輩! いっつもお昼にアメリカンドッグ食べてるんだからこっち来てください!!」
という余計なリークで、泣く泣く焼きそば派に入れなかったのだ。俺、そんなにアメリカンドッグ食べてないけど……。
なお、敵対派閥には賄いナシという謎ルールは負けた後知ってまた泣いた。
焼きそばの売れ行きは好調どころか、ちょっと異常な程の列ができていた。
ここで美里先輩(元部長)から男たちに追加の仕事が指示される。出来上がった焼きそばを大箱に入れ、学校中を練り歩き売りまくる。ソースの匂いがよく出るよう、独自に調合したとか言ってたな。
「何、ちょっとしたものだよ。匂いを嗅いだだけで理性が軽く飛ぶようにしてる」
……何してるんですか美里先輩。
その匂いが学校中に拡散し、謎の引力で焼きそば屋にお客さんが集まり、現在に至るというわけだ。
そんな屋台もひと段落し、ちょうどSPUNKYの時間になった。
……今行ったら、ちょうどセッティング中かな。
不本意とはいえ、バンドの加入依頼を断ってしまったのだ。多少なり負い目は感じている。せめて、SPUNKYのステージが少しでもいいものにできるよう手伝ってあげよう。
体育館に入ると、ちょうどライブが終わったばかりのバンドが出ていくところだった。みんな汗だくで、衣装もずぶ濡れだ。
すげー動いたんだなーと感心しつつ、ステージ袖に行き後輩たちに声をかける。
「よ、頑張れよSPUNKY!」
声をかけると、後輩たちが緊張で固まった顔のままこっちを見る。
「先輩! やばいっすすっげー緊張するっす……」
「私……昨日……スティック飛んでく夢見ちゃって……」
「あ……あ…………あ………………」
「(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫………………)」
四者四様、阿鼻叫喚の地獄絵図。
これは……どうにかしてやらないと。
「セッティングは俺に任せていいよ。お前らの演奏を、観客に叩き込んでやれるように仕上げるから」
「え……でも先輩、森山になんか文句言われたりはしないですか……?」
「大丈夫、このぐらいなら何も言われないって。そんなことより、演奏失敗しないようにリラックスだぞ」
そう後輩たちに告げ、SPUNKYの機材セッティングを始める。
ギター、ベース、ドラム、そしてボーカル。
全員分の機材セッティングを手早く終わらせステージを降りると、ニヤつきながらタバコの煙を吐き出す東田さんに声をかけられた。
「ほんとお前は後輩思いだなー」
「これも勉強です」
「かーーーっ! 真面目だなお前は!! まあいい、お前の作る音なら卓の調整は問題ないだろう、あとは任せろ」
そう言ってPAに戻る東田さん。
いい人だよなー。禁煙の会場なのにタバコ吸ってることを除けば。
あ、そうだ!
PAに駆け出し、東田さんを呼び止める。
「SPUNKY、よろしくお願いします!」
「任せとけ、あいつらはそつのない音を出してたから、何の問題もない」
頭を下げ、ステージの真下に陣取る。
開始2分前にSPUNKYの全員が会場に戻り、ステージに上がり楽器を構える。
時間ちょうどにドラムの4カウント。
さあ、お前らの音を聞かせてくれ──
30分後、SPUNKYのライブは無事終わり、ステージを降りた後輩たちから口々に、
「先輩! あたしの声めっちゃ響いたよね!?」
「ギターの音、すげー抜けたっす!」
「ベースも良かったです!」
「えー、ドラムいつも通り……先輩、私のドラムだけ放置ですか!?」
とお礼とクレームの混ざり合った声を浴びせられる。
「気づいてくれたか、みんな耳いいなー」
いつか言われて嬉しかった言葉を、後輩たちに伝える。
実は、俺がやったことは一つ、アンプセッティングの最適化だけ。
ギターは少し歪ませすぎて音の輪郭がぼやけていた。
ベースはその逆に、低音域のダイナミクスが死んでいた。
そこを改善しただけ。
ドラムはほとんどいじってない上に、生音で大音量だからモニターの音がよく聞こえないから、あのクレームは実は正しかったりする。
それにボーカルは、東田さんがPA側でセッティング出してるから、当然いい音になってる。
でも、こんなに喜んでくれるなら。
森山のバンドに加入する代わりに、後輩たちを選べなかった負い目に対するお詫びにはなっただろうか。
「先輩、本当の本当に……ありがとうございました!」
深く頭を下げる四人を見送り、俺は大きく息を吐き出した。
後輩たちの最高のステージは、俺がしっかり守り抜いた。
あとは、午後のトリ、オーラスが森山バンドの出番。
粛々と、準備をしよう。




