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【改稿中】エクリプス 〜選ばれない月は、太陽を閉じ込める〜版権無視Ver.  作者: 月乃下 想
目覚める 月の牢獄

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5-5

 季節は巡り、俺は3年生になった。


 卒業した先輩の思い出が、まだ少しだけ残る部室。

 そんな、少しだけ寂しさを感じるその空間に立つと、つい先月卒業していった先輩たちのことを思い出す。



 窓の外を眺めながら、あの日のことを思い出していた。




 ──全員の演奏が終わり、観客も全員いなくなった会場。

 さっきまでの狂騒が嘘のように静まり返った、体育館に鎮座するステージの前に出演者が集まる。


 最後のステージで完全燃焼し、汗だくになった先輩たちの顔は、出し切ったという晴れやかな顔の影に、これから始まる社会人生活へのわずかな不安が見え隠れしていた。

 少しばかりの寂しさを感じる先輩たちの顔を見て、さっき流し切ったはずの涙がまた溢れてくる。


「ありがとな、山谷」


 いつの間にか隣に立っていた中山先輩が、涙を溢れさせながら俺に頭を下げた。


「ちょ、先輩! どうしたんですかいきなり」

「お前たちの演奏見てさ、1年の頃のお前を思い出してたら……俺が1年生だった頃のこと、思い出したんだよ」


 中山先輩は涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すこともなく、俺をまっすぐ見つめる。


「俺も、こんなにがむしゃらに音楽が好きだったよな、って。あの頃の純粋に音楽が楽しかった気持ちをさ、お前を見てたら思い出せたよ」

「先輩……俺こそ、先輩がいてくれたから、みんなで音を合わせる楽しさを……」



 それから先は、もう言葉にならなかった。

 男二人がボロ泣きしながら頭を下げあう、ハタから見ればシュールな呼応系だったかもしれない。


 でも俺は、中山先輩がいたから、誰かと音を合わせたいって思えて、ZERO SOUNDの真太郎になれた。

 中山先輩がいなかったら、俺はここに立ってなかった。



「山谷、お前のギター最高だった……上手くなったな」

「ぜ……ぜんばぁぁい……」

「俺、就職先は東京だからさ。なかなか帰ってこれないけど……また一緒に、何か曲合わせようぜ。それまで俺ももっと上手くなっとくから」



 嬉しい約束を交わしたところで三谷先輩が話に突撃してくる。


「先輩! ……俺もまた先輩とセッションしたいっす……!!」

「そうだな、お前も一緒だ。そん時はお前の嫁がボーカルな」

「ま! まだ……まだ嫁じゃないっす……そう遠くない未来にそうなるけど……」

「わかったわかった、ありがとうなタヌ吉。いや、もうタヌキじゃなくてゴリラだから……ゴリ吉?」


「先輩……こんな時にそんなこと言わなくても……」


 中山先輩、そして他の卒業生たちはみんなに囲まれ、いつまでも涙は絶えない。

 この場所にいられて、本当に良かった。



「っと、悪いお前ら、ちょっと抜けさせてくれ」

「どうしたんですか先輩?」


 先輩は目を瞑り、瞼の裏に映した思い出を見つめながら呟く。


「長く続いた一方通行に、そろそろ答えを出さないとなって思ってたけど……勇気がなくて卒業式も終わっちまった。随分と時間を無駄にさせちまって申し訳ない気持ちだよ」


 中山先輩はそう言うと、みんなの輪からひょいっと抜け出し、体育館の出口に向かう。

 そこには亜美先輩がいた。



「山谷、気になるか?」


 沼田先輩と三谷先輩は、なんとも言えない目で出口を見る。


「俺、気になります」


 吹奏楽部でよく構ってもらい、指導してもらった先輩だから。

 それに、1年の頃から中山先輩を想い続けてきた、その気持ちが報われてほしい。


 中山先輩も亜美先輩も、共にお世話になった先輩だから、もし二人で幸せな未来を作っていけるのなら、俺はそうなってほしいと思う。

 中山先輩がつぶやいた言葉が、胸の中でリフレインしていた。


 あの言葉、もしかして……



「よし、尾行《つけ》るぞ」


 その言葉を合図に、俺たちは体育館の出口に突っ走る──



「ダメでしょ、そんな覗きみたいなことは」


 吉田先輩が立ちはだかる。


「咲希、今は止めないでくれ。俺たちは見届けなければならない。5年間の片思い、その結末を!」


 なんか三谷先輩、ポエミーなこと言い出したぞ。



 だが、沼田先輩も俺も思いは同じだ。


「頼む吉田、俺たちは、どんな結末でも受け入れる。茶々は入れないから!」

「吉田先輩……お世話になった先輩たちの、その道の先を俺たちも見たいんです」


 三者三様、ポエムを紡ぐが、相手は文芸部。俺たちの貧弱な語彙など敵うはずもなく──


「正座」

「はい……」

「はい……」

「はい……なんで俺まで……」

「沼田くん、不満を口にしちゃダメ。こういうのはね、二人だけの記憶に、胸の内に留めておくものなの。登場人物はこの世界にたった二人、その物語の結末を知るのも二人だけ、そういうのがいいの。……答えがどうであれ、ね」


 さすが吉田先輩。その言葉、しかと胸に響きました。


「すみません先輩……俺は吉田先輩側につきます!」

「なっ!」

「裏切り者!」


「二人は反省してないみたいだねー、もう5年生になるのに」


 吉田先輩の背後に、とても言葉では表現できない、言うなれば恐怖そのものが形を作り出す。

 それはどんな勇敢な戦士の心さえも、たやすく折ってしまいそうなものだった。


「ひっ! 咲希……落ち着いて……」

「美里……助けて……美里……」


 この後のことは、俺の口からはとても語れそうにない。

 あと沼田先輩、部長はもう帰りました。



 そんな楽しい時間も終わり、あっという間に時間は過ぎた。



 ちなみに、中山先輩と亜美先輩のその後については、二人の東京行きを駅に見送りに行った全員が見ていた。



 仲良く手を繋いで、新幹線に乗り込んだそうだ。




 っと、いけない。つい物思いにふけってしまった。

 意識を部室に戻す。



 ……そこには、むさ苦しいオーディオ部員の男たちが、椅子を円形に並べ、膝を突き合わせていた。





 ……え、何してんの? 儀式?

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