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季節は巡り、俺は3年生になった。
卒業した先輩の思い出が、まだ少しだけ残る部室。
そんな、少しだけ寂しさを感じるその空間に立つと、つい先月卒業していった先輩たちのことを思い出す。
窓の外を眺めながら、あの日のことを思い出していた。
──全員の演奏が終わり、観客も全員いなくなった会場。
さっきまでの狂騒が嘘のように静まり返った、体育館に鎮座するステージの前に出演者が集まる。
最後のステージで完全燃焼し、汗だくになった先輩たちの顔は、出し切ったという晴れやかな顔の影に、これから始まる社会人生活へのわずかな不安が見え隠れしていた。
少しばかりの寂しさを感じる先輩たちの顔を見て、さっき流し切ったはずの涙がまた溢れてくる。
「ありがとな、山谷」
いつの間にか隣に立っていた中山先輩が、涙を溢れさせながら俺に頭を下げた。
「ちょ、先輩! どうしたんですかいきなり」
「お前たちの演奏見てさ、1年の頃のお前を思い出してたら……俺が1年生だった頃のこと、思い出したんだよ」
中山先輩は涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すこともなく、俺をまっすぐ見つめる。
「俺も、こんなにがむしゃらに音楽が好きだったよな、って。あの頃の純粋に音楽が楽しかった気持ちをさ、お前を見てたら思い出せたよ」
「先輩……俺こそ、先輩がいてくれたから、みんなで音を合わせる楽しさを……」
それから先は、もう言葉にならなかった。
男二人がボロ泣きしながら頭を下げあう、ハタから見ればシュールな呼応系だったかもしれない。
でも俺は、中山先輩がいたから、誰かと音を合わせたいって思えて、ZERO SOUNDの真太郎になれた。
中山先輩がいなかったら、俺はここに立ってなかった。
「山谷、お前のギター最高だった……上手くなったな」
「ぜ……ぜんばぁぁい……」
「俺、就職先は東京だからさ。なかなか帰ってこれないけど……また一緒に、何か曲合わせようぜ。それまで俺ももっと上手くなっとくから」
嬉しい約束を交わしたところで三谷先輩が話に突撃してくる。
「先輩! ……俺もまた先輩とセッションしたいっす……!!」
「そうだな、お前も一緒だ。そん時はお前の嫁がボーカルな」
「ま! まだ……まだ嫁じゃないっす……そう遠くない未来にそうなるけど……」
「わかったわかった、ありがとうなタヌ吉。いや、もうタヌキじゃなくてゴリラだから……ゴリ吉?」
「先輩……こんな時にそんなこと言わなくても……」
中山先輩、そして他の卒業生たちはみんなに囲まれ、いつまでも涙は絶えない。
この場所にいられて、本当に良かった。
「っと、悪いお前ら、ちょっと抜けさせてくれ」
「どうしたんですか先輩?」
先輩は目を瞑り、瞼の裏に映した思い出を見つめながら呟く。
「長く続いた一方通行に、そろそろ答えを出さないとなって思ってたけど……勇気がなくて卒業式も終わっちまった。随分と時間を無駄にさせちまって申し訳ない気持ちだよ」
中山先輩はそう言うと、みんなの輪からひょいっと抜け出し、体育館の出口に向かう。
そこには亜美先輩がいた。
「山谷、気になるか?」
沼田先輩と三谷先輩は、なんとも言えない目で出口を見る。
「俺、気になります」
吹奏楽部でよく構ってもらい、指導してもらった先輩だから。
それに、1年の頃から中山先輩を想い続けてきた、その気持ちが報われてほしい。
中山先輩も亜美先輩も、共にお世話になった先輩だから、もし二人で幸せな未来を作っていけるのなら、俺はそうなってほしいと思う。
中山先輩がつぶやいた言葉が、胸の中でリフレインしていた。
あの言葉、もしかして……
「よし、尾行るぞ」
その言葉を合図に、俺たちは体育館の出口に突っ走る──
「ダメでしょ、そんな覗きみたいなことは」
吉田先輩が立ちはだかる。
「咲希、今は止めないでくれ。俺たちは見届けなければならない。5年間の片思い、その結末を!」
なんか三谷先輩、ポエミーなこと言い出したぞ。
だが、沼田先輩も俺も思いは同じだ。
「頼む吉田、俺たちは、どんな結末でも受け入れる。茶々は入れないから!」
「吉田先輩……お世話になった先輩たちの、その道の先を俺たちも見たいんです」
三者三様、ポエムを紡ぐが、相手は文芸部。俺たちの貧弱な語彙など敵うはずもなく──
「正座」
「はい……」
「はい……」
「はい……なんで俺まで……」
「沼田くん、不満を口にしちゃダメ。こういうのはね、二人だけの記憶に、胸の内に留めておくものなの。登場人物はこの世界にたった二人、その物語の結末を知るのも二人だけ、そういうのがいいの。……答えがどうであれ、ね」
さすが吉田先輩。その言葉、しかと胸に響きました。
「すみません先輩……俺は吉田先輩側につきます!」
「なっ!」
「裏切り者!」
「二人は反省してないみたいだねー、もう5年生になるのに」
吉田先輩の背後に、とても言葉では表現できない、言うなれば恐怖そのものが形を作り出す。
それはどんな勇敢な戦士の心さえも、たやすく折ってしまいそうなものだった。
「ひっ! 咲希……落ち着いて……」
「美里……助けて……美里……」
この後のことは、俺の口からはとても語れそうにない。
あと沼田先輩、部長はもう帰りました。
そんな楽しい時間も終わり、あっという間に時間は過ぎた。
ちなみに、中山先輩と亜美先輩のその後については、二人の東京行きを駅に見送りに行った全員が見ていた。
仲良く手を繋いで、新幹線に乗り込んだそうだ。
っと、いけない。つい物思いにふけってしまった。
意識を部室に戻す。
……そこには、むさ苦しいオーディオ部員の男たちが、椅子を円形に並べ、膝を突き合わせていた。
……え、何してんの? 儀式?




