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『山谷は、影の薄い、何を考えているかわからないやつ』
『山谷は、ほとんど話さないし、友達といるところを見たことがない』
概ねこれが、中学校の圧倒的多数が持っている俺へのイメージだ。
『うちの学年で友達の多いやつ? 中島と林じゃないか?』
『いや、林より中島だろ。アイツ人と喧嘩したことないらしいし』
対してこれが、俺にLUNA SEAのCDを貸してくれた、中島という男のイメージだ。
こんなに真逆な二人が、ある日突然接点を持った。
しかも昼休み中、お互いが熱く語っていた。
中島がしきりに『彼女が』『彼女は』『彼女の』って言ってた。もしかして山谷、好きな人でもできたんじゃない?
……と、このようにクラス中で勝手な憶測が飛び交っていた。
この出来事は、校内で最もセンセーショナルな話題……スキャンダルと言っても差し支えない程度には騒ぎになった。
「山谷ってさー、なんかいきなり雰囲気変わったよね」
「わかる、もしかして本当に好きな人? まさかあたし!? ないわー無理だわー」
「あんな根暗に好きになられた子、マジかわいそー!」
ギターを手に入れた。
音楽に否応なく、自分を変えられた。
LUNA SEAの音に触れ、知らなかった熱さに触れた。
そんな内側の変化は、周りから見れば、ただの根暗な男子が学年一の人気者に突然絡みに行っただけに映っていた。
「中島くん、山谷に絡まれてウザいんじゃない?」
ある日の昼休み、いわゆるスクールカースト上位の、知らない女子が中島に話しかけていた。
俺は横目で中島を見て思った。俺のせいで変に目立っちゃってすまん。
別に自分が何を言われたところでどうでもいい。でも、中島に迷惑がかかるのは申し訳ない。
どうしたもんかと悩みながらも、自分にできることが特にないのは分かっているので、俺は二人の様子をこっそり眺めていた。
「え……何言ってんの木下」
「この前山谷が中島くんに絡みに行ってから、よく一緒にいるじゃん」
「ああ、あれは山谷がさ──」
「あたしわかるよ、内心迷惑なんでしょ?」
俺に向けての悪意だけを詰め込んだ言葉。
それはさすがに言い過ぎじゃないか? でも、俺が何かを言ったところで──
「は? んなわけねーだろ!」
中島が思わず立ち上がり、木下とかいう女子に一歩近づいた。
「木下さあ、お前何なの? 俺に喧嘩売ってんの?」
「え? いや、そんな……ただ山谷に絡まれて中島くんがウザがってるんじゃないかなって、あたし心配で……」
「木下さ、言っていいこととダメなことぐらい、もう中学生なんだからわかるよな? その上でそんなこと言ってくるんなら、お前、最低だな」
「──っ!? そんな言い方ないんじゃないの……?」
「いーやあるね。俺の音楽友達にそんなこと言うなんて、お前は最低だよ」
「……」
木下は黙り込み、俺に視線を向けた。
「山谷、あんたのせいで……!」
「えっと……木下だっけ? ごめん、誰か知らなくて」
「は……はあっ!?」
木下は叫んだまま呆然としたあと、取り巻きの女子に肩を叩かれゆっくり振り返り、そのまま教室を出て行った。その際、ものすごい目を向けられてしまった。
俺、何かした? むしろ木下の方が酷いこと言ってた気がするけど。
「ごめん中島、俺のせいで迷惑かけて」
「は? なんの話だよ? それより山谷……」
「いや、木下がさ……って、どうかした?」
「いやお前……木下に『誰か知らない』はすげーわ……アイツ今頃泣いてんじゃねーか? ふ、ふふふふふ……」
「え、俺、泣かせるようなこと言った!?」
「いいんだって、お前はよくやったよ……ふふふ……」
ずっと友達のいなかった俺が、中島のことを友達なんて呼んでいいのかわからないが。
それでも、誰にも悪口は言われない、代わりに周りに誰もいない、そんな空っぽの頃と比べたら、今の方がよほど楽しいと思えた。
それから数ヶ月経ち、中学2年の終わり。
「山谷、もうギター買ってたのか!? なんで言わなかったんだよー!」
話の流れで、SUGIZOモデルのギターを買ったと中島に話したのだが、思った以上に驚かれた。
「黙っててごめん、でもさ、まだ全然弾けないのに、ギター買ったなんて言っても恥ずかしいだけだから……せめて何か曲が弾けるようになってから言おうかなって思って……」
「いいっていいって、そうだよな、カッコつけたいお年頃だもんな!」
「正直、ギター弾いてる自分はいいと思ってる……」
「そっかそっかー! 聴くだけじゃなくて、ついにやる側になるのかー。いいなー!」
「うん、まだ全然弾けないけど、すごく楽しいよ」
「お前もついに、SUGI様と同じステージに立つのかー。共演が楽しみだな!」
「SUGIZOと共演なんて無理だって、まだ全然LUNA SEAの曲弾けないし……SUGIZOのギターむずいんだよ」
期末テストも数日前に終わり、あとは終業式、そして春休みを待つ生徒たちは、来年も同じクラスだといいね、春休みは隣町のショッピングモールに行こうよ、終業式までにロッカー片付けないとな、など、テストが終わった開放感と、春休みを待ちわびる浮ついた空気で満たされていた。
「中島も楽器やったらいいじゃん。モテそうだし」
「俺はもう彼女いるから、モテなくてもいいんだって! あーでも、ドラムは興味あるんだよなー。なんか秘密基地みたいでかっこいいじゃん」
天井を見上げながら、中島は物思いにふける。
「あー……ドラム叩いてる俺かっこいいかも……あ、客席に彼女いる……」
「中島、戻ってきて。ここ教室だよ」
「おー……ここからだと山谷の背中がよく見えるなー……しっかりソロ弾いてんじゃんか……」
空想の世界にどっぷりと浸かっている中島。戻ってくる気配はない。
「山谷、俺、ドラム買うわ」
「……え、いきなり何?」
「俺には見えた。武道館で、俺がドラム、山谷がギター、あとのメンバーは知らない」
「バンドって……え、バンド?」
驚きで固まった俺を、中島はニヤニヤしながら肘で突く。
「お、山谷のびっくり顔だ。レアカードだなこれは」
「いやいや、それはいいから。バンドって、組めるの?」
「そりゃ楽器できる奴が揃えば、バンドになるだろ。お前ギター、俺ドラム、他にも楽器やってるやつはいるだろうし、探してみるか」
思ってもいなかった。
自分がバンドを組む。
誰かと音楽を奏でる。
思ってもいなかったけど、言われて広がる想像に、言葉が出ない。
そうか、ギターやってるなら、バンドに入ることもできる。
一人でずっと弾いてるなんて、もったいない。
「それ……いいかもしれない……」
「だろ? ちょっと春休み中に探ってみるから、3年になったらまずは俺たちだけでもバンドやろうぜ」
「うん、やろう。絶対!」
思わず出してしまった大声に、自分が一番驚いていた。




