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迎えた週末。
駅前のカラオケボックス。その一室で挙動不審の男が二人、初めての合コンに右往左往しながら待機していた。
無駄に尖ったレザーシューズに、ジャラジャラとよくわからないモチーフのぶら下がったウォレットチェーン。蛇柄のレザーパンツと相まって、どこのストリートスナップから抜け出してきたんだという服で身を固めた金谷と鈴森が、お互いの格好を食い入るようにチェックしている。
「先輩! 俺、髪型おかしくないっすか? ワックス馴染んでるっすか?」
「先輩、今日の俺の勝負服どうですか! 『ガイアが俺にもっと輝けと囁いている』って書いてありそうなメンズファッション誌を熟読して、モテコーデを完全再現したんです!」
コイツら、なんて雑誌見てんだよ……あの雑誌はそれこそ遊び人のチャラいニーちゃんのバイブルだろ。お前らみたいなフレッシュな高校1年生が参考にしていい代物じゃない。
髪も黒、眉も整えてない、そんな無防備な状態であんな服を着ても浮くだけだ。
まあ落ち着け後輩たち、俺はそんな奇抜な格好してないだろ?
そう、俺の格好はいつも通りのTシャツにジーンズ、足元はNEW BALANCEのスニーカーという、合コンなど微塵も意識していない格好なのだ。
これには明確な理由がある。
特別なイベントに、気負ったファッション。こんな人間が集まる場所に、あえて『外し』の普段着で来たらどうなる。
この人はがっついてないな、大人だな、と思わせられる。
後輩との合コンならなおさらだ。大人の余裕を見せることが大事なのだ。
……ということを、昨日インターネットの記事で見た。
少なくともチャラい格好で女子を警戒させることもない。
見たか後輩たち、これが高校2年生、年上の余裕ってやつなんだよ。
そんな俺を見ながら、金谷が話しかける。
「いいんすか先輩、そんな格好で」
「わかってないな金谷、これは大人の余裕を──」
その時、カラオケルームの重いドアがガチャリと開いた。
「あ、先に来てたんだー。まあ合格だね」
武田を先頭に、メイクをバッチリ決めた1年の女子が二人入ってきた。
金谷と鈴森の背筋がピンと伸びる。
「う、うっす! 俺、金谷っす!」
「鈴森です! 今日はよろしくお願いします!!」
後輩二人が(自称)爽やかな笑顔で挨拶をする。
だが、入ってきた1年女子二人の空気は、俺たちが想像していた『和気あいあいとした合コン』のそれとは、明らかに異なっていた。
彼女たちは部屋に入るなり、俺たちを値踏みするようにジロリと睨みつけ、そして武田に向かって恭しく頭を下げた。
「武田センパイ、今日はウチらみたいな下っ端を呼んでいただいて、マジ感謝っす!」
「センパイの隣、座らせていただいてもよろしいでしょうか!」
「あー、うん……いいよ。適当に座って」
武田が俺の隣にドカッと座り、その向かい側に女子二人が陣取る。
俺の方に顔を寄せると、口元を手で隠してボソッと囁いた。
「……ホントはさ、違う子呼ぶはずだったんだ。けど昨日、風邪ひいちゃって……」
「いや、こっちこそありがと。おかげで楽しい合コンになりそうだよ」
「あー、うん、そうかー。大丈夫そうならいいんだけど、急遽代打で呼んだこの二人なんだけど……うん、ゴメン山谷」
なぜ謝るんですか、武田さん……
「え、すまんってどういう──」
俺が眉をひそめた瞬間、目の前に座る1年女子が、腕を組んで口を開いた。仮にA子としておこう。
「へえ。あんたたちが、ギターとベース?」
A子(仮)は急にドスの効いた声で金谷と鈴森を見下ろした。
「えっ、あ、はい! ギターの金谷っす!」
「ベースの鈴森です!」
必死に笑顔を作る二人とは対照的に、女子二人は冷たい視線を交わす。
「ウチら、武田センパイから聞いてるよ。アンタたちセンパイの下僕なんでしょ」
「……何だとぉ!?」
あっぶねー、ウーロン茶を吹き出すとこだった。
横の武田に視線を向ける。
おい武田、何で今視線を逸らした。
お前、後輩になんて紹介してんだよ。
俺の視線にいたたまれなくなったのか、武田が後輩をたしなめる。
「アンタたち! いきなり敵意剥き出しでなんなの!? 戦争しに来たんじゃないんだよ!?」
その言葉に、後輩女子たちの背筋がスッと伸びる。
「「すんませんっしたぁーーー!!!!」」
……たけださん、このこたち、ヤンキーなの?
「まずは名乗れ! 話はそれからでしょうが!!」
「「おっす! 自己紹介しまっす!!」」
……武田さん、あなたの学校、軍隊か何かですか?
真っ先に喧嘩を売ってきたA子(仮)が自己紹介する。
「うっす! アタシ安田久美っす!!」
もう一人も背筋を伸ばしたまま、自己紹介をする。
「はじめまして! アタシは松崎愛弓っす!!」
安田さん、松崎さん、二人とも気合の入った金髪だ。
「よ、よろしくお願いしまっす!!!」
「こちらこそです!!!」
金谷も鈴森も、二人に負けない大声になってる。そんなとこで対抗してどうすんだ。まずはフレンドリーにさぁ……
「はい、これで全員の名前はわかったね! 仲良くするんだよアンタたち!!」
武田の号令を聞き、安田さんが手を挙げる。
「武田センパイ! 話していいっすか!!」
「アンタ……いいって自由に話してさぁ」
大変だな、武田。
安田さんはフッと鼻で笑うと、なぜか俺を指差した。
「山谷センパイ、でしたっけ? なんかうちのお父さんみたいな服装っすね」
「……はい?」
「いや、うちのお父さんが休みの日にそんな格好してるんで」
「あ! それさっき先輩に言いかけたこと!!」
か、金谷……さっきって。
──いいんすか先輩、そんな格好で
──わかってないな金谷、これは大人の余裕を──
この時かーーー!!!
もう恥ずかしさで消えてしまいたくなったが、一度始まった話題は止まらない。
そして──
安田さんの視線が、ガイア金谷を捉えた。
猛禽類のような鋭い眼光に、背筋が縮み上がった。




