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三谷先輩と吉田先輩の、甘さにまみれた世界を見せつけられたあの日。
青春の熱病、いや、独り身の孤独という、中年になって感じ始めるような淋しさに心折れた金谷と鈴森は、武田に直談判したいから呼び出してくれ、という命知らずな提案を俺にしてきた。
こいつら、いくら何でも腹括りすぎだ。
そうは言われたものの、何と説明したらいいのか分からずPHSを握ったまま寝落ちしてしまった初日。
翌日、赤い目でフラフラの金谷が始業前の教室に現れ、
「せんぱぁ〜い、たけらせんぱいにぃぃ、れんらくしまひたかぁぁあぁぁああ〜」
と、どう見ても寝られなかったと言わんばかりの酷い顔で俺を詰めてきた。
これは早く武田に頼まないと、後輩の睡眠の質が下がってしまう。
俺も覚悟を決め、昼休みに
『武田、話したいことがあるんだけど。
明日か明後日、空いてない?』
とメールを送った。
予想に反して返事は夕方になっても来なかった。
あれ、忙しいのか?
返事が来たのは風呂上がり。午後10時だった。
『あさってならいいけど、しょーもない話だったらねじり切るから』
ねじり切るって、何を? 首?
かくして、俺が明後日以降も人生を送れるかは、金谷と鈴森の情熱に委ねることとなった。
不本意だけど。
2日後の放課後、俺が1年の頃からバイトしているファミレス、Joyfull。
決戦の地はここだ。何かあってもスタッフが助けてくれる……と思う。
すでに着いていた金谷、鈴森。両名とも表情が固い。お見合いでも合コン本番でもないんだから、もっと気楽に行こうよ……。
そんな二人に声をかけると、
「先輩、顔怖いっすよぉ……もしかして、無茶なお願いしたから怒ってるんすか……?」
「ホントすみません……でも! 今回だけは、許してください……」
「はあ? 何言ってんだお前ら。俺は至って普通の──」「「顔怖い」」「っす」「です」
また同時か。仲良いなこいつらは。
いやいや、そんな怖い顔なんてしてるわけが──
ファミレスのガラスに映る我が貌。
とんでもなく固い表情がそこには映っていた。
気を取り直し、表情をニュートラルに戻して店に入る。
店長と目があったので声をかけた。
「お疲れ様です」
「おー! 山谷君お疲れ様。今日バイトだったっけ?」
「今日はお客さんで来ました」
「そうなの? ゆっくりしていってねー」
店長は料理を持っていきながら振り返る。
「忙しくなったら声かけるねー!」
「今日は休みですからやめてください……」
一度本当に厨房に入ることになり、とんでもなく忙しかったことがある。
今日はぜったい断るぞ。何たって今日は決戦。これ以外にリソースを回す余裕なんてないんだ。
さて、武田はもう来ていた。
山盛りのフライドポテトを頬張っていた武田のテーブル。
そこに目的の人物を見つけた二人の後輩が猛ダッシュで駆け寄り、他のお客さんの目もはばからず……スライディング土下座をかました。
いきなり何やってんだお前らあああああああああ!!!!!
「武田先輩!! 一生のお願いっす!!」
「俺たちに! 1年女子との合コンをセッティングしてください!!」
ファミレスの店内がざわめく中、武田はポテトを持ったままピタッと動きを止める。その視線が二人の土下座からゆっくりと上がってゆき──目が合った。
「よ、よお武田。なんかいきなりすまん……」
俺の顔を少し凝視し、視線は再び土下座組へ。
すぅーっと目から光を消し、ゴミを見るかのような冷たい視線を土下座組へ。
…… 一緒に土下座しなくてよかった。あんな目で見られたら一生もんのトラウマだ。
武田の視線が、再び俺を捉える。
「もしかして、今日呼び出されたのってその話……?」
「ごめん、こいつらがどうしてもって……」
「だから言い方ァッ! というかメールの文ッッ!!」
武田の拳が、的確に俺の脳天を突き抜けた。
いてーよ。
「まったくもう! あの呼び出し方はダメ!! 変な勘違いしたじゃん!!!」
「勘違いって……どんな勘違いっすか?」
「黙れアホ谷! お前は土下座してろっ!!」
かわいそうに、金谷。しおれた雑草みたいになってる。
しかし鈴森は諦めない。武田の目をまっすぐに見つめ、懇願する。
「武田先輩……俺たちに……俺たちに合コンのチャンスを……!」
あの金谷を見たあとで、まだお願いができるなんて根性あるな。
「いーや! アタシの可愛い後輩たちを、アンタたちみたいなアホと会わせたくない!!」
「そこをなんとか!! 武田先輩の可愛い後輩ちゃんたちなら、きっと天使のように可愛らしいに違いないっす!」
「俺たち、晴れてバンドマンになれたんですよ! 今なら絶対モテるはずなんです!!」
その惨状を、しれっと武田の対面に座って眺めながら、つとめて他人のフリをしつつ、武田がドリンクバーも頼まず、水だけでポテトを食べているのを確認して4人分、ドリンクバーを注文した。
ついでにハンバーグも注文した。
「はぁ……まあいいわ、ちょうど後輩たちからも合コンしたいからって頼まれてたし……いいよ、セッティングしてあげる」
その言葉を聞いた土下座組、水を得た魚のように顔が生き生きとしはじめる。
「ありがとうございます! 武田先輩マジ神っす!!」
「このご恩は一生忘れません!」
「ちょ、もういいって! 落ち着けサルども!!」
武田、俺の後輩がすまん。
「じゃあ山谷、アンタもこいつらの保護者として参加ね。でうちの後輩が二人、アタシも参加するからこれで3:3ね」
「ちょっと待て! 俺も!?」
やばい。
これはマジでやばい。
よりによって初めての合コンが武田と、だと……!?
「当たり前でしょ、アンタいないとコイツら誰が世話するの」
「そりゃそうだけど……そうだけどさぁ……」
「んじゃ決まり。来週の日曜、うちの学校近くのカラオケでどう?」
「神の言うことは絶対っす!」
「全て仰せのままに!」
決まってしまった。
こんなにあっさりと、俺も参加することになるなんて。
そんな俺の不安をよそに、後輩たちは大はしゃぎだ。
仕方ない、コイツらの人生勉強に付き合おう。
「いや、アンタ先輩顔してるけど合コン初めてでしょ?」
「なぜわかった武田、もしかしてエスパーか何かか?」
「初めてなのね」
そんなに確認しないで……なんか見透かされてる気分になるから。
「じゃあ、武田は合コン行ったことあるの?」
「あるわけないじゃん、面倒だし、知らない人と話すのストレスだし」
ないんかい。
「ま、それならいいか」
武田が呟く。
「何か言った?」
「何でもない。じゃあ当日よろしく。あ、お会計払っといてね山谷ー」
「え……マジで?!」
そうして、会計は全て俺が払った。
そんな俺を見て、店長が気を利かせて割引してくれた。
店長ありがとう……次回ピンチの時はヘルプ入ります!
かくして、男三人にとって忘れられない、あの合コンが決定したのだった。




