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吉田先輩という最終兵器を迎え、俺たちのバンドはついに完成形となった。
もう足踏みする必要はない、出られるライブを片っ端からさがし、メンバーで話し合って会場を決めた。
俺たちの初ライブは、約1ヶ月後に駅前公園で開催される地元商店街主催の『初夏のお祭り』。
その中で行われるオープンステージは、申請さえすれば誰でも出られる敷居の低いイベントだ。
この会場を持ってきたのは三谷先輩だ。以前、三谷先輩が組んでいたバンドで出演したことがあるらしく、俺たちの初陣を飾るにはもってこいの舞台だと教えてくれた。
最後の課題だったバンド名は『ZERO SOUND』に決まった。
ゼロから作り上げる音。いささか中二病くさい気もするが、金谷と鈴森が「絶対これがいいっす!」と譲らなかったので決まったバンド名だ。
……まあ、悪くはないな。
正直……すげーカッコいい。
ZERO SOUNDの真太郎です。おおっ、なんかかっこいい。
ZERO SOUNDの真太郎……ZERO SOUNDの真太郎……
「先輩、どうしたんすか?」
「うへあっ!?な、な、なんでもないよ!」
「なんかすごく険しい顔になってましたけど……ZERO SOUNDダメですかね?」
「ん!? いや! そんなことない!! いい名前だよZERO SOUNDの真太郎っ!!」
……あ……あああ……やっちまった……。
「……ふふふ、気に入ったんだね。山谷くん」
やめて吉田先輩……そんな『いいネタ仕入れた!』って顔しないでください……
恥ずかしい気持ちと、今後自分がどんな妄想で辱められるのか恐怖しながら家に帰った。
帰宅後すぐ、久光には出演が決まったその日にメールで連絡した。
そして「日程決まったらチケット持ってくから。絶対来てくれよ!」と頼んでた武田にもメールを送った。チケットのない、ほぼ自由参加のライブだけど。
『駅前の夏祭りでライブやることになったから来てね』と送信して数分後。
『お祭りの野外ステージやばい(笑)よしよし、行ってあげるからりんご飴おごってね!』
相変わらずな返信だが、来てくれるのは素直にありがたい。
そう思って携帯を閉じようとした直後、ブルッと再び短いバイブが鳴った。
『友達も何人か誘ってみるから、かわいい女子の観客が増えたらたこ焼きも追加ね』
……武田。今日ほどお前を神か仏だと思ったことはないぞ。
女子の観客が増えるなんて、これ以上の朗報はない。あわよくばちやほやされたり……うへへ。
これは気合を入れて、俺の最高にかっこいいとこ、見せちゃりますか!
三谷先輩と吉田先輩の純愛にあてられた俺は、少し頭がおかしくなっていた。
一ヶ月後。
初夏の風が吹き抜ける、駅前公園の特設野外ステージ。
地元商店街が主催するお祭りのメインステージであり、これから俺たちのバンド、ZERO SOUNDが初ライブを行う場所だ。
そんな記念すべきステージが、どれほど素晴らしいのか。
ステージ、機材を見た瞬間の俺、ZERO SOUNDの真太郎が発した言葉の全文を以下に示す。
「……おい、うそだろ」
そう、お世辞にもステージ上の機材群……と呼ぶことすら憚られるほど簡素なPA。接続されたスピーカーは、買った時についてたであろう小型のものが左右1つずつ。
高専祭のステージに設営されたPAシステムしか知らない俺は、この音響機材を一目見て頭が真っ白になった。
機材がどれだけのものか、詳しく説明しよう。
町内会の運動会で自治会長が挨拶するような、ショボいスピーカーが二つだけ。低音を豊かに鳴らすウーファーも、ボーカルの声を広く拡散するミッドレンジも、高音を切れ味良く飛ばすトゥイーターもない。音の反響する壁もない野外では、こんなスピーカーシステムを全力で鳴らしたところで音楽として成立しない、トラックの走行音や暴走族のバイク、違法改造の車の排気音のようなただの騒音。
俺たちの初舞台は、文字通り最悪の環境だ。
「先輩……音が全然まとまらないです……」
リハーサル中、鈴森が泣きそうな顔でベースを弾く。
三谷先輩は、こりゃダメだといった顔で、
「あー、俺のバスドラムも全然前に飛ばん。スネアも破裂しねーな」と苦笑いしている。
「去年はもっといいPAだったはずなんだけどなー、なんかあったかな?」
ステージの前には、焼きそばやフランクフルトを食っている地元の中高生や、暇そうにたむろしているおじいちゃんやおばあちゃんがパラパラといるだけ。
彼らは、「なんだあの委員長みたいな女」と言いたげな顔で吉田先輩を見ている。
当の本人は、マイクを両手でギュッと握りしめ、俯いたまま顔を伏せていた。
緊張してるのだろうか。
──当然だ、吉田先輩は初めてのライブ。観客のいる場所で歌う経験は今までなかった。俺だって、初めてのライブの時は頭が真っ白になって、足は震えたし手はガクガクだった。
それでもしっかりと立っている吉田先輩はすごい。
愛の力は偉大だ。ね、三谷先輩!と視線を向けると、俺の考えを見透かしたであろう三谷先輩が、張り付いたような笑顔を俺に向ける。
こわい。
それにしても、完全にみんな空気に呑まれてる。
どうする、俺に何ができる?
そんな時に空気を読まず、アイツが来た。




