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#10

 ともかく街道へ出たのはいいけど予定遭遇時間までにはまだ結構間がある。

 そう考えた私は資金調達のために狩るべき獲物を探すことにした。


「ナビ、最寄りの悪徳商人の位置を教えて!」

「ちょ、待て、サチ!なんで商人狩りやねん!ちゅーか、それ前もやったやろ!」


 うん、資金稼ぎと言えばやはり鉄板は悪徳商人狩り。

 これは外せないよね。

 まぁ、そうそう都合良く悪徳商人がいるとも思えないけど、これはお約束ってやつだ。


 けどイサミのツッコミを無視して私が叫んだ声に反応して眼鏡に矢印と文字が表示される。


「……あれ?目標、悪徳商人……前方1.1Km先?」

「なんでそんなに悪徳商人ようけおるねん!」

「ミィールカが商業の街だから?」


 私の言葉に、イサミは小首をかしげると視線を前後に向ける。

 そして不思議そうな表情で言った。


「けどサチ、前方ちゅうことは街道のほうやろ?街と関係あらへんやん」

「それは……そうだね」

「なぁ。あの砂埃、見覚えある気がするんやけど」

「奇遇だね。私もだよ」


 イサミと話している間にも前方から砂埃を巻き上げながら、猛烈な勢いで見覚えのある馬車がこちらに向かって走ってくる。

 そしてその後ろには……この地方に入ってからはもはやおなじみになった厄介者の大型犬魔獣、ヘルハウンドの姿も。


「あのじいさん、いっつも追われとるんやろうか?」

「なんだろうねぇ。猫の女神様が悪徳認定してたし、幸運からは見放されてるのかもね」


 そう、こちらに向かって走ってくる馬車は、先日私達がヘルハウンドから救出した猫嫌い(悪徳)商人、ゴーヨックさんの馬車だったんだ。


 ただ、今回は前と違うことが1つあった。


 それは……到着までにまだ3時間掛かるはずだった黒騎士の姿が、ゴーヨックさんの馬車の後ろに見えたこと。

 つまり、ゴーヨックさんは、黒騎士に追われていたんだ――!


「おい、サチ!あと3時間はけぇへんのとちゃうんか!」

「え、え?なんで!?ナビ、黒騎士の場所を……って前方500m!?なら、最寄りの魔王の場所を……って、同じ!?」


 ナビが示すのは言うまでもなく眼前に迫りつつアレとの距離だ。

 一瞬、黒騎士が複数いるのかと思ったけど再度魔王で確認した距離は黒騎士と合致していた。

 つまり私がナビの表示を消している間に、黒騎士はとんでもない速度でこちらへ接近していた?

 ……いや、状況的にみれば、どこかのタイミングでゴーヨックさんを捕捉して猛追していた!?


「ごめん、イサミ!計算違いだったかも!あれが黒騎士で魔王に間違いないよ!」

「まぁ、ぶちのめすタイミングが3時間はよなっただけや、心配あらへん!」


 そう言うとイサミは背負っていた大剣を抜きはなち、黒騎士の接近を待つ。

 ……が。


「あっ!」


 私達はてっきり今回もゴーヨックさんの馬車が逃げ切りに成功すると思い込んでいた。

 だから馬車が通り過ぎた後、その後ろを追ってきたヘルハンドと黒騎士をカウンター気味に迎撃する体勢をイサミも取っていたんだけど。


 私達の元へ到着するよりも随分と手前で、ヘルハウンドの吐いた炎が馬車を捕らえ、車輪の1つを破壊された馬車は爆走していた勢いのまま横転し、街道脇の茂みに突っ込んでしまった!?


「馬車、やられてしもうとるな。積み荷崩れたら積み直すの大変やろうなぁ」

「暢気なこと言ってないで、助けないと!」

「せやなっ!」


 そう言って駆け出すイサミの後ろ姿を見送る。

 彼が向かう先では黒騎士とヘルハウンドが街道から逸れた馬車を包囲し執拗な攻撃を加えているように見える。


 本当なら私も一緒に走っていって「勇者様」の援護が出来たらいいんだけど……魔法も武器も使えない、一般人でしかない私は彼を見送ることしか出来ない。


「……マネージャーとか金庫番って言っても、結局イサミに寄生してるだけだよね。私だって本当は勇者になりたかったのに。……猫の女神様の馬鹿」


 戦闘中だと言うのに、ついそんな言葉が口を突いてしまう。

 あの時、猫が私の言葉を邪魔しなかったら……私もイサミの隣で戦ってたんだろうか?

 それともイサミの代わりに私が独りで魔王と戦ってたのかもしれない。


 遠くで奮戦するイサミの姿を見ながら、私はぼんやりとそんな事を考えていた。


 フミィ~


 気付くと、いつの間にか足下に猫がじゃれついていた。

 黒い毛皮の猫は……あれ?前にも見たことがある、ブラックフェラルって呼ばれてた子だろうか?

 でも前に黒猫と出会った場所からはずいぶんと遠く離れているし、たぶん毛色の似た別の子なんだろう。


 それにしても猫の女神様に対する愚痴を言った直後に猫が現れると、なんとなく女神様に「聞こえてますよ?」と言われているようで、いたたまれなくなる。

 そういう所だけ女神ムーブしてないで、私にも魔法の力とか覚醒させてくださいよ、女神様。



 ……余計な事を考えていた私は、イサミの方に視線を向ける。

 前回なら既にヘルハウンドを全滅させていたぐらいの時間は経っていたはずなのに。

 何故か今回はまだ1体もヘルハウンドを倒せていない?


 それどころかイサミが所々手傷を負っているようにも見える。

 なんで?ヘルハウンド戦は何回も経験したから、余裕だって言ってたのに!?


 イサミが血を流す姿に動揺しながら、私は状況を把握しようと試みる。

 彼が戦っているのはヘルハンド5体と黒騎士。

 ……だけど、黒騎士はイサミから離れた所にいて戦闘に参加しているようには見えない。


 そしてヘルハウンドの方はこれまでみたいに雑に包囲して散発的に襲いかかってくるんじゃなくて、イサミの死角に位置した個体が背後を狙ってきてる!

 イサミも勇者だけあって背後からの攻撃にも反応してるけど、彼が飛びかかってきたヘルハウンドに斬りつけようとすると、様子見していた黒騎士がさりげなく長槍で割って入ってヘルハウンドをガードしているようにも見える……。


 なんだろう、あれ。

 ヘルハウンドの動きが全然違う。まるてま統率が取れた魔獣の軍隊に見える。

 このまま戦い続けたら、きっとイサミは体力を消耗して負けてしまう。


 そう考えた私は、敗北という言葉が意味することを理解して、背筋が凍る思いがした。

 ここはゲームの世界じゃない。


 イサミが血を流し、傷ついているということは……敗北が意味するのは、死だ。

 つまりこのままだとイサミは死んでしまう!?


 こんな時、私に戦う力があればイサミを援護できるのに!

 どうして猫の女神は……。


 いや、違うな。女神に頼るんじゃない。

 あの女神はポンコツだ。なら私がなんとかしないと、なんだ。


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