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#9

 その後、旅を続けた私達は最寄りの街へと立ち寄った。

 もちろん、道中で遭遇したヘルハウンドの死骸を持ち込んだりはしないよ?

 私達は学習が出来る子だからね。

 討伐確認部位である牙以外の部位はちゃんと森の中に残してきた。


 おかげでギルドでも普通に歓迎して貰えたし、街の人から黒き邪悪なる金庫番呼ばわりされる事もなかった。

 ……いや、黒いうんぬんはあの偽長老が言ってただけだっけ。


「しっかし地図って、たっけぇなぁ。こんな落書きみたいなもんが金貨10枚って……日本円でいくらや?」

「10万円ぐらいだね。まぁ手に入っただけマシだと思うよ。私達の世界でも昔は地図って貴重品だったらしいし」

「スマホナビより不便やのに貴重なんか?」

「いや、もっと昔の話だよ……」


 中世ヨーロッパや日本の戦国時代では地図というのは戦略物資だったと聞く。

 なにせどこに何があるか判ってしまえば攻める側としてはいくらでも作戦立て放題だからね。


 それに現実世界では20世紀になっても一部の国――例えば隣国との間に慢性的な火種を抱えてそうな国とか――では戦国時代とあまり状況は変わらなくて、詳細な地図が出回らない国もあると聞いている。


 なんなら完全で詳細な世界地図が誰にでもアクセスできるようになったのは衛星写真が普及した21世紀になってから……なんていう、本当かどうかわからない話も聞いた事があるぐらいだし。


 でもまぁ、そんな事をイサミに説明しても判らないだろうから、ざっくりと地図の情報は重要なもので入手が難しいということだけを伝えておいた。



 で、地図だ。

 ギルド内のテーブルを借りて広げた地図は、私達がスマホでいつも見ている詳細な地図とは比べものにならないレベルの代物だった。

 具体的に言えば、街や村の位置と主要な街道や目印になる森や川、池みたいなものしか書かれていない。

 けど、これがあればただナビが示す方向だけを頼りに黒騎士を追いかけるよりは随分と追跡が楽になる。


 そして――。


「……ナビ、黒騎士の位置を教えて!……うん、この距離と位置なら……たぶんこの辺りだね」

「なぁサチ、何やっとるんや?黒騎士の場所はさっきも調べたやろ?」

「三角測量……って判る?」

「三角コーンみたいな感じか?」

「三角しか合ってないよね……」


 まぁイサミに聞くだけ無駄だとは思ったけど。

 三角測量っていうのは三角形の1辺の長さと2つの角の大きさを測ることで、直接測ることが難しい遠くの地点までの距離や位置を割り出す測量方法だ。


 本来だと私のナビで判るのは黒騎士がいる場所への距離とその方向だけだから、位置特定は無理だ。

 けど、黒騎士は街道を走ってるらしいから、地図があれば現在位置から地図上のルートを辿ればおおよそどの位置にいるのかが判る。

 そして時間をおいてその測定を2回行った事で黒騎士がどちらの方向へ、どれぐらいの速度へ移動しているかあたりを付けたってことなんだ。


 まぁこれは正しい意味での三角測定とは違うけど、私達に必要なのは正確な測量結果じゃなくて、どこで黒騎士を待ち伏せすれば良いかっていう情報だからね。

 この精度でも十分だったんだ。



 でもこの方法で判明した結果には1つ大きな問題があった。

 それは……黒騎士の移動速度が思ったよりも速かったことだ。

 いや、騎士だから馬に乗ってるし、徒歩の私達より早いのは当たり前だけど……時速20Kmってちょっと早すぎない?


「時速20キロって徐行やろ?全然遅いやん」

「それ、日本で車とかで走るときの基準だよね?イサミのアイテムボックスに原付バイクでも入ってるなら追えるけど」

「俺の流星号……。今頃駐禁とられとるんやろうか……」


 私が原付の話を持ち出したせいで、イサミが遠い目をしだした。

 っていうか原付に名前付けてたのか、イサミ。ちょっと可愛いところがあるじゃない。


 いや、それよりも黒騎士の移動速度だ。

 この世界の移動手段は馬やロバを使った騎乗や馬車が中心だけど、私もイサミも馬なんか乗ったことがない。

 それに馬車だって荷台に載せて貰うならともかく、自分達で操縦?運転?するのは難しいだろう。


 となると私達が選べる移動方法はこれまで通りのんびり歩くか、あるいは駅馬車みたいなものに乗せて貰うかの二択だ。

 黒騎士が馬で移動してる以上、徒歩だと先回りも待ち伏せも難しいから、馬車を使って先回りできそうなポイントと言えば……。


「商業都市、ミィールカ」

「なんやねん、いきなり」

「黒騎士がこのルートを移動し続けるなら、このミィールカっていう街まで馬車で移動ししたら待ち伏せできそうってこと」

「なんでそんなこと判るんや?もしかしてサチの眼鏡、予知でもできるんか?」

「いや、だからさっき測量の話したよね……」

「すまん、聞いてへんかった」

「うん、そうだと思ってたよ。途中から目が泳いでたからね」

「まぁ細かいことはええやん。ならいこか、そのミーなんとちゅうとこへ」


 イサミは軽い調子でそう言うと、席を立って歩き出した。

 いつも通り、見当違いの方向へ。



 で、翌日の昼過ぎ。

 私達は目的地のミィールカへ到着した。


「うぇ……気分わりぃ……」

「うん……ちょっと飛ばしすぎだよね……。私達が頼んだんだけど……」

「しかもアレ、えらいぼったくりやったんとちゃうか?」

「まぁチャーター料と特急料金込みって考えたら……。まぁ多少足下見られてた感はあるけど」


 やや顔色の悪いイサミとの会話が示すように、私達はチャーター便の馬車を使って急ぎでミィールカの街まで運んで貰うことになった。

 なぜ当初の予定通り駅馬車を使わなかったかというと、都合良くミィールカへ向かう駅馬車が無かったからという、まぁ当たり前と言えば当たり前の理由だったんだけど。


 私が景気よく「急ぎで!」と言ったせいで馬車はとんでもない速度で街道を走り、予定していたよりも3時間以上早く到着はしたんだけど……。

 問題はろくな舗装をされていない道を爆走する馬車の乗り心地は最悪で、馬車酔い――いや車酔いでいいのか?――になってしまったということだ。

 しかも駅馬車なら2人で銀貨6枚で済むところを金貨4枚も請求されて、この前もらったばかりのヘルハウンド討伐報酬の残り少なくなって、有り体に言えば懐事情がなかり厳しくなっている。


 いや、お金が無い理由の半分ぐらいはイサミがやたらと良く食べるからっていうのもあるんだけど。

 この世界、あまり味付けのされていない庶民が食べる食べ物は比較的お安いんだけど、日本で私達が食べてたような香辛料やら砂糖やらの調味料を使った料理はえらく高いんだよ。

 イサミは財布を私に預けてる上に金銭感覚が割とザルっぽいから、気にせず高いものでも平気で食べてるけど……。


 そんなこともあって、誰の依頼も受けずに(ただ)魔王を討伐(働き)することにした私達は、エンゲル係数の高いイサミの食費を自前で調達する必要もある訳だ。

 普通ならさっき払った馬車のチャーター代だって魔王討伐のための経費として落とせそうなのになぁ……。


 そんな事を考えながら、私達は到着したばかりなミィールカの街を出て黒騎士が接近してくるであろう街道へと向かう。

 さすがに街中で戦って、屋台やら建物やらを壊すと後から賠償しろと言われて大変そうだし、万が一にも街の人を怪我をさせる訳にもいかないからね。


「なぁサチ、黒騎士っていつ来るんや?」

「んー、予定だと3時間後ぐらいかな。もう少ししたらもう一度ナビで確認するよ」

「いっつも表示しときゃええやん?」

「視界に常時矢印と距離が表示されてると結構気が散るんだよ……。ダンジョンとか、迷いの森とかなら仕方ないけど、こんなところで常時表示はパス!」

「まぁ、歩きスマホは危ないからなぁ」


 イサミがややピントの外れた事をいうけど……いや、でも感覚的には似たようなものか?


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