第1章 間話「“神眼”」
血みどろになった自身の双剣を手に、ニゲル・アロガンティアは戦場の最前線に立っていた。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
そう咆哮しながらこちらへ突っ込んで来るのは、クレオ・デウスに反対する組織──レジスタンスの者たちだ。当然命令なので生かしておく訳もなく、胸を剣で貫き、そのまま肉体を断つ。それを幾度も繰り返し、やがて戦場に立っているのはニゲル1人となった。
数ある死体の中から、リーダーと思しき人物のものを見つけ、死体漁りをする。
「あっ……」
男の側に刺さっている剣をよく観察すると、その柄の部分に眩く輝く紫紺の宝石が嵌め込まれていた。
“眼”。利用目的までは聞いていないが、クレオ・デウスの社長──プレジデントが、これを部下に集めさせているのだ。部下といっても、ニゲルのように階級が課長以上の者、そして特別枠のヴォイドのみ。これは、ほぼ上層部しか知らない極秘任務なのだ。
「さて、オジサンはここらでドロンしますか!」
ニゲルは“眼”をポーチにしまい、直ちにプレジデントの元へと帰還した。──その場に、落とし物をしているのにも気づかずに。
ニゲルはプレジデントと会うべく、クレオ・デウスの社長室へと足を運んだ。
ニゲルは数回ノックをし、「失礼します」と言って中に入る。
「……ニゲルよ。ノックをするのは良いが、相手の返事を聞かずに中に入るのは失礼に当たるぞ? 我とお前の間柄だったから良かったものを……」
中に入るなり、プレジデントにそう嗜められた。ニゲルは「申し訳ございません」と言って、その場に跪く。
「社長室」とは言うが、この部屋は一般的な部屋の構造とは異なっている。黒塗りの壁には幾つもの松明が下げられており、高い天井には大きなシャンデリアが1つ。中央には階段が聳えており、その両脇には台座が幾つか並んでいる。当然その先には玉座があり、そこにプレジデントは鎮座している。
台座の数は6つ──即ち、この世に存在する“眼”の数である。台座は既に1つ埋まっており、今ニゲルが持っている分で合計2つである。
「……プレジデント。“眼”を手に入れました」
「──ほう? 遂に2つ目の“眼”か……」
プレジデントは手に持っていたワイングラスを大きく傾け、その中身を一気に飲み干した。そして席を立ち上がり、ニゲルの方へと歩いて来た。
プレジデントはニゲルの前に着くと、その大きな手をこちらへ差し出した。
「さて、その“眼”を見せてはくれぬか」
ニゲルはプレジデントに、“眼”を差し出した。プレジデントはそれを松明の方向へと掲げ、“眼”が炎に照らされ輝く光景を見て恍惚とした笑みを浮かべた。
……実際は、仮面を付けているからその素顔は見えないのだが。
「……それでは、オジサンは例の少女の件があるので、ここら辺で失礼します」
この息が詰まる場所に居続けるのも神経を擦り減らすばかりだと判断したニゲルは、そう言って早々と扉に手をかけた。
部屋を出て扉を閉めると、一気に緊張が解けたのかニゲルはその場にへたり込んでしまった。日頃の疲れもあってか、腰が抜けてしまったのだ。
「オジサンも、歳だね……」
ニゲルは今宵50歳を迎え、遂に50代デビューである。自称「カワイイ系オジサン」キャラも、そろそろ潮時であろうか。
だが、今のニゲルにはプレジデントから与えられた任務──“眼”の収集──が残っている。こんなところでへばってなんかいられない。
「……あの少女は、大人しく“眼”を渡してくれるかねぇ……?」
* * *
ニゲルが帰った後の社長室にて。プレジデントは自分の部屋の台座に、先程ニゲルから受け取った“眼”を飾った。
残りの“眼”は4つ。その内1つはニゲルが手がかりを握っていると、プレジデントは聞いていた。
プレジデントが“眼”を集める目的、それは「創造神ルミナス・ルクステラ」の復活である。“眼”──正式名称“神眼”──は、創造神ルミナスの欠片なのだ。
太鼓の昔。創造神ルミナスは自分が消滅する際に、自身の力を7つに分断して宝石に封印した。それが“神眼”であり、それを7つ集めるとルミナスが蘇るという伝説が古くから言い伝えられている。
──因みに台座が6つしかない理由だが、残りの1つは既にプレジデントの体に埋め込まれているのだ。この台座は残りの6つの分なのだ。
しかし、プレジデントはその伝説が嘘だと思っている。伊達に100年生きていない彼の叡智と見聞は、これを御伽話の類だと判断したのだ。
それなら、何故プレジデントは“神眼”を集めているのか。それは、彼の願望が産んだ結論故であった。
プレジデントはこの部屋に元よりあった“神眼”──自身に埋め込まれた祖父の遺産を通して体験したのだ。“神眼”を持つ者だけが使える、神の能力を。それが全て集まれば、そこに存在するのは神の権能を全て使える者──即ち創造神ルミナス・ルクステラなのだ。
つまり、プレジデントが出した結論は単純だ。
「……我は“神眼”を全て集め、創造神ルミナスとなる!!」




