第1章 間話「“神眼”」
〜視点:ニゲル〜
血みどろになった自身の双剣を手に、私は戦場の最前線に立っていた。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
そう咆哮しながらこちらへ突っ込んで来るのは、クレオ・デウスに反対する組織──レジスタンスの者たちだ。当然命令なので生かしておく筈もなく、胸を剣で貫き、そのまま肉体を断つ。それを幾度も繰り返し、やがてこの地に立っているのは私1人となった。
数ある死体の中から、リーダーと思しき人物のものを見つけ、死体漁りをする。情報によると、こいつが“眼”を持っている筈。
「あっ……」
この男の側に刺さっている剣をよく観察すると、その柄の部分に眩く輝く紫紺の宝石が嵌め込まれていた。
“眼”。利用目的までは聞いていないが、クレオ・デウスの社長──プレジデントが、これを部下に集めさせているのだ。部下といっても、私のように課長以上の者、そして特別調査枠のヴォイドのみ。これは、ほぼ上層部しか知らない極秘任務なのだ。
「さて、オジサンはここらでドロンしますか!」
私は“眼”をポーチにしまい、直ちにプレジデントの元へと帰還した。──その場に、落とし物をしているのにも気づかずに。
* * *
プレジデントと会うべく、クレオ・デウスの社長室へと向かう。
ノックをし、「失礼します」と言って中に入る。
「……ニゲルよ。ノックをするのは良いが、相手の返事を聞かずに中に入るのは失礼に当たるぞ? 我とお前の間柄だったから良かったものを……」
中に入るなり、プレジデントに嗜められた。「申し訳ございません」と言って、その場に跪く。
「社長室」とは言うが、この部屋は一般的な部屋の構造とは異なっている。黒塗りの壁には幾つもの松明が下げられており、高い天井には大きなシャンデリアが1つ。中央には階段が聳えており、その両脇には台座が幾つか並んでいる。当然その先には玉座があり、そこにプレジデントは鎮座している。
台座の数は6つ──即ち、この世に存在する“眼”の数である。台座は既に1つ埋まっており、今私が持っている分で合計2つである。
「……プレジデント。“眼”を手に入れました」
「──ほう? 遂に2つ目の“眼”か……」
プレジデントは手に持っていたワイングラスを大きく傾け、その中身を一気に飲み干した。そして席を立ち上がり、こちらへと歩いて来た。
私の前に着くと、その大きな手をこちらへ差し出した。
「さて、噂の“眼”を見せてはくれぬか」
私はプレジデントに、“眼”を差し出した。プレジデントはそれを松明の方向へと掲げ、“眼”が炎に照らされ輝く光景を見て恍惚とした笑みを浮かべた。──まぁ、実際は仮面を付けているから素顔は見えないのだが。
「……それでは、オジサンは例の少女の件があるので、ここら辺で失礼します」
この息が詰まる場所に居続けるのも恐縮で、私はそう言って早々と扉に手をかけた。
部屋を出て扉を閉めると、一気に緊張が解けその場にへたり込んだ。日頃の疲れもあってか、腰が抜けてしまった。
「オジサンも、歳だね……」
今宵50歳を迎え、遂に50代デビューである。自称「カワイイ系オジサン」キャラも、そろそろ潮時であろうか。
だが、今の私にはプレジデントから与えられた任務──“眼”の収集──が残っている。こんなところでへばってなんかいられない。
「……あの少女は、大人しく“眼”を渡してくれるかねぇ……?」
〜視点:プレジデント(3人称)〜
ニゲルが帰った後の社長室にて。プレジデントは自分の部屋の台座に、先程ニゲルから受け取った“眼”を飾った。
残りの“眼”は4つ。その内1つはニゲルが手がかりを握っていると、プレジデントは聞いていた。
プレジデントが“眼”を集める目的、それは「創造神ルミナス・ルクステラ」の復活である。“眼”──正式名称“神眼”──は、創造神ルミナスが創造した魔石だ。
太鼓の昔、ルミナスが消滅した際に自身の力を7つに分断して宝石に封印した。それが“神眼”であり、それを7つ集めるとルミナスが蘇るという伝説が言い伝えられている。
因みに台座が6つしかない理由だが、最後の1つは既にプレジデントの体に埋め込まれているのだ。この台座は残りの6つの分である。
しかし、プレジデントはその伝説が嘘だと思っている。伊達に100年生きていない彼の叡智と見聞は、これを御伽話の類だと理解したのだ。
それなら、何故プレジデントは“神眼”を集めているのか。それは、彼の願望が産んだ結論故であった。
プレジデントはこの部屋に元よりあった“神眼”──祖父の遺産を通して体験したのだ。“神眼”を持つ者だけが使える、神の能力を。それが全て集まれば、そこに存在するのは神の権能を全て使える者──即ち創造神ルミナス・ルクステラなのだ。
つまり、プレジデントが出した結論は単純だ。
「……我は“神眼”を全て集め、創造神ルミナスとなる!!」




