自己紹介(2)
「甲冑のままも何なので、着替えましょうか」
リアンはそう言うと、足下から闇が吹き上がり首から下を包み込んだ。
それが浮散すると、黒い平服姿になった。
その姿を見て、ルカは声をあげそうになる。
彼の姿は、生首になった時にに広場で見た黒衣の男に似ていたからだ。
あの時、しっかりと彼を見られたわけではない。
自分はそのとき首を切り落とされて、人間としての機能がまともに動いていたわけではなかった。
だから、彼だとは断定できない。
けれど、広場を埋め尽くす人の中ではっきりと見えたほどの存在感。それが目の前の男と同等な物に感じた。
だが、あの男が仮にリアンだとしたら、なぜ彼はあそこにいたのだろう。
前回の人生では、リアンはルカの前に現れなかった。
煙となり、マリーが力として継承しただけだ。
その後、ルカは家族と距離をとり、破滅の一途をたどったので詳しくはわからない。
ルカが顔に出さずとも戸惑っていると、タイミング良くリアンから話を切りだした。
「では、名前意外のことも話していきましょうか。これから私たちは一蓮托生で進んでいきますから、よりお互いのことを知らなくては」
彼にはどこまで話していいだろうか。
二回目の人生を生きている、なんて信じてくれるだろうか。
ルカが迷っていると、リアンと目が合った。
中々口を開かないルカを、焦らせることも、いらだつこともなく柔らかく笑って見ている。
思えば、こうして人間らしい扱いをしてくれるのは彼が初めてだった。
家族をはじめ、交流のある貴族や、家に仕えるメイドや執事にまでさげすまれていた。
自分の話をこうして聞いてくれる人は、初めてだった。
ルカの雰囲気を感じたのか、リアンはフォローするように話した。
「失礼いたしました。まずは私から話すべきでしたね・・・・・・」
それにルカが首を振る。
「いいえ。私の話を聞いてください」
世迷い言、と言われるかもしれない。
けれど、彼自身がすでに世迷い言のような存在だ。
ならば、きちんと話したい。
初めて自分を信用してくれる人に、嘘偽りを話したくなかった。
ルカはリアンに伝えた。
自分は一度死んでいること。
前回の人生の継承のこと。
そのときにリアンとおぼしき人に会っていること。
それを聞いて、リアンは考え込んだ。
ルカは申し訳なさそうに謝った。
「ごめんなさい、突然こんな突拍子もない話を」
それにリアンは首を振る。
「いえ、それは私の可能性があります。残念ながら私にはその記憶はありませんが、おそらく時を戻す魔法を使ったのでしょう」
「時を戻す魔法?」
「えぇ。4人のナイトが研究し続けた魔導の最高到達点。それが、時を戻すという魔法です」
荒唐無稽なものに思うが、ルカは信じた。
自分自身がそれを経験しているからだ。
「時を戻す魔法は、一人の人間を支点とします」
「支点?」
「時間を戻すのは、それなりの理由がいるのです。あってはならないことが起きて、その未来を変えるために時を戻す。けれど、すべてを戻したところで結局は同じ未来が訪れることも往々にしてあります。人は単純ですから」
ルカは時が戻ったその日のことを思い出す。
家族の会話や、儀式の展開は前回の人生と同じだった。
リアンは続ける。
「ですから、その運命を大きく変える人の記憶をそのままにするのです。その支点となる人の力で、運命を回避する・・・・・・。きっとそれがあなただったのですね」
「リアンは、記憶が無いの?魔法を使った本人なのに」
「生前の研究の結果では、魔法使用者も記憶が残らないようになっているのです。強大な魔力を使う弊害でしょう」
前回の人生の記憶を持っているのは私だけなのか。
ルカは考えた。
自分の死はマリーにはめられたものだ。
ルカにとっては間違った未来。
だが、それは『あってはならない未来』として時を戻す魔法を使うほどのものなのだろうか。