自己紹介(3)
ルカと入れ替わりに、今度はリアンが話し始めた。
「では、次に私の話をいたしましょう。ルカは私のことをどの程度知っていますか?」
アミュール家に伝わる始祖の話を、ルカは詳細に知らない。
継承に関係ないルカは、世間一般的な知識しか知らなかった。
彼がアミュール家の始祖であること。
隣の国ネイニアから独立するときに活躍をして、黒魔法を主に使ったことから『ダークナイト』と呼ばれていること。
死後、その力を宝石に宿し、アミュール家と国を守り続けていること。
そこまで言うと、リアンが話し出す。
「最後の部分は違いますね。私が宝石に力を込めたのは『魔導の追求』のためです。少し長くなりますが、説明いたします」
宝石に魔力を込めたのは、その力を使って魔導の研究を進めるためだった。
時を戻す魔法をなんとか完成させたところで、リアンは亡くなった。
彼は生涯結婚することはなかったが、孤児を引き取って、研究の後を託した。
「そこからの記憶は曖昧ですが……受け継がれていくうちに、その志は潰えたのでしょう」
「曖昧とは?」
「魔力には、微力ながら私の意志を残しました。もう一人の私を魔力で作った、と言えばわかりやすいでしょうか。生前に果たせなかった思いを、不完全でも見届けたかったからです。そうして生み出されたのが私というわけです」
ルカは宝石の中にいるリアンのイメージが浮かぶ。
彼は自分自身を閉じこめた。そこまでして達成したかったのか。
リアンは続ける。
「ですが、この研究はまだ実験段階でした。意識を残したといっても不安定なものだったのです。朧げな中で、アミュール家の変化を見てきました。このままでは私の魔力は使い果たされ、魔導の研究が潰えてしまう。もう残りの力もわずかな時……あなたが現れたのです」
ルカは驚く。
「私が?」
リアンは微笑んだ。
「本来の継承者より魔力が高かった、だけがあなたを選んだ理由ではありません。……ルカの母上はこの国の人間ですか?」
突然の質問にルカ面食らう。
ここでなぜ、自分の母の話が出て来るのだろうか。
ルカの母には異国の血が流れていた。
だが、ルカはそれしか知らない。
ルカを生んで母親はすぐに亡くなったからだ。
メイドであった母が持っていた私物は少なく、それも彼女が亡くなった時にすべて棄てられてしまったという。
ルカはそれをリアンに伝えると、彼は痛ましい顔をした。
「そうだったのですか……悲しい過去を話させてしまって申し訳ありません」
ルカは曖昧に微笑んだ。
「私は母の記憶がないのです。ですから、悲しいという気持ちは今はないです」
ルカは過去を振り返る。
幼い頃は寂しくて泣いていた。泣くと鬱陶しがられるので、家の隅で隠れて。
母の存在は、ルカを支えると同時に悲しくもさせた。
『もし母が生きていたら』というあり得ない願いに自分がとらわれていることがむなしかったからだ。
だから、歳をとるにつれて母のことを考えないようしていた。
リアンは静かに話し出した。
「……あなたの母上のルーツを知っているかも知れません」
「え?」
突然の言葉に驚くルカに、リアンは説明する。
「まだネイニアにいた頃、魔導の研究の過程で世界を流転する一族と知り合ったことがあります。国を跨いで旅をしていた彼らはネイニアにはない魔導と魔力を持っていました。……ルカからは、かすかに同じ物を感じます。おそらく、母上もその一族に関係があったのではないでしょうか」
リアン曰く、魔力は血筋と似ているのだという。
人それぞれにある魔力は親から子へ受け継がれていく。
リアンのように、強大な魔力を持つ者はその性質が見えるのだという。
リアンは続けた。
「私が知る一族の力は、『使役』です」
「使役?」
「物に魔力をまとわせ、人や獣に具現化させて自分の駒として使役することが出来たようです」
そんなことができるのか。ルカには想像がつかない。
その様子を見ていたリアンは微笑んだ。
「私が実体を得ることが出来たのも、おそらくそれが関係しているのでしょう。本来、私の存在は宝石の中にとどまり、継承者に力を貸すのみの存在でした。それが、今はこうして生前の姿を取れている。なぜだと思いますか?」
ルカは前回の人生を思い出す。
確かに、前は煙のままだったリアン。
なぜ今回は人の姿になっているのだろう。
それがわからず戸惑うルカに、リアンは言った。
「あなたが、私を使役したのです」
「……え?」
「あの儀式の際、あなたは強い思いで私を手に入れ、自分の人生のために使うと考えていましたね」
恐れ多くも、始祖を自分の物にしてやるという考えがばれていた。
自分の考えが見透かされていたことに気恥ずかしくなり、ルカは微妙に視線を外した。
リアンはそれを見て小さく笑う。
「ダメなことではありませんよ。ルカの意志が私を引き寄せた。そして、あなたが提案した異なる血による新たな魔道の追求に賛同したから私はこうしているのです。私はね、頭打ちになったアミュール家ではなく、新しい道へ進みたい」
リアンの目が鋭くなる。今までの暖かなまなざしではない。深い決意の色。
彼はこの国の守護者で、アミュール家の始祖。
だが、その前に魔導の研究者なのだ。
そして、安寧にあぐらをかいて、ただ魔力を消費するだけの存在となったアミュール家に失望しているようにみえた。
「私とあなたの利害は一致しています。私はルカの魔力に可能性を見いだし、あなたは私の力を使って人生を変えようとしている。お互いこれ以上の相手はいないでしょう?」
そう言って、リアンは笑う。
母から受け継がれた血が、未来を切り開く一歩となった。
どこにも居ないと泣いた日々だったが、ここにいたのだ。
ルカは胸に手を当てる。
ありがとう。私を守ってくれて。
ダークナイトの強力な魔力を手に入れることが出来た。
やり直す人生の幸先としては最高だ。
この力を使って必ず復讐を遂げてやる。
ルカは不敵に笑った。
「茨の道のエスコート、お願いいたしますね」




