白い提案
ガチャンと重たそうな鍵の音がする。
少し間を空けた後、ドアがきしむ音を立てながら開いていく。
地下室に廊下からの灯りが漏れて、もう少しでルカのところに届きそうになる。
その瞬間にルカは叫んだ。
「今だ!」
ルカの叫び声とともに鳥は飛び立ち、一直線に男の元へ向かう。
男は驚きで声もあげられず、のけぞって体のバランスを崩した。
鳥は男の顔の前で羽を大きく広げる。
すると、まばゆいばかりの白い光が当たりに飛び散り、そして男が倒れた。
鳥はまたルカの元に舞い戻る。
「これでいかがでしょう?」
ルカは戸惑いながらもうなずいた。
「あ、ありがとう。……彼には何をしたの?」
ルカの問いかけに鳥は答えた。
「回復魔法を過剰にかけたのです。良いものも量が多ければ毒になる。生命力を一時的にオーバーさせて、気絶させたのです。あまり長くは持たないので、行動するなら早い方がいいですよ」
ルカはうなずく。ひとまずこの地下室からは脱出出来た。
外がどうなっているかはわからないが、まずはここから出よう。
鳥に頼んで縄をくちばしでほどいてもらう。
しばらく縛られていたせいで、手足がぎこちないがなんとか動かせそうだ。
男の元をそろりと通過し、鳥とともに廊下へでる。
石畳の廊下の奥に、上に昇る階段が見えた。
音を立てないように、静かに階段へ近づく。
だが、そこで足が止まった。
ろうそくに照らされた階段の上に、女が一人座っていた。
こちらを見下ろし、微笑んでいる。
上等な服を着ているから貴族だろう。
どうするか、ここで引き返してもあの逃げ場のない地下室があるだけ。
であれば、相手が同じ体格の女ならなんとか出来るか?
自分がどうすればいいのかをルカが考えた時、女はくすりと笑った。
「好戦的なんですね。さすがダークナイトの継承者」
そのままくすくす笑いながら微笑む。
「私を倒すのは、話を聞いてからにしてもらってもいいですか?あなたにとって悪い話ではないですよ。この階段を上がっても、エルニアの者がうろついているので、あなたはすぐにまたとらえられてしまうでしょう」
彼女が言ったことは、ルカが危惧していたことだった。
部屋から脱出出来たとして、この地下の上に立つ建物がどれほどの大きさかわからない。
建物を出て、屋敷の敷地から脱出し、安全な場所まで人に見つからずに逃げることが出来るのか未知数だった。
ルカの迷いをくみ取ったのか、女は続ける。
「この地下室には外へ続く脱出路があります。罪人を閉じこめる役割と、避難できる場所を兼ねているんです。エルニアの継承者が、有事の際に脱出出来るようにね。ただ、普通には見つかりません。隠し通路になっていますから。……これからの提案を飲んでいただければ、そこに案内いたします」
いかがですか?
声に出さず、女はルカに問いかける。
彼女の話を信用していいかわからない。彼女のことをまず知らなくては。
話を聞いてみよう。
ルカはうなづいた。
女は満足そうに笑って話し出す。
「まず、自己紹介をしますね。私はアニエス・エルニア。ホワイトナイトの継承者です。今のところはね」
彼女がホワイトナイトの継承者?
ルカは肩に止まっている鳥へ目線を動かす。
鳥はルカを見返すと、ピチチっと鳴くだけだった。
先ほどと違い人間の言葉をしゃべるのを止めたらしい。
ルカは女に問い返す。
「継承者がなぜ私に協力を?エルニア家はアミュール家と協力関係にあって、むしろ私のことは邪魔なのでは?」
先ほどの推測を元に話すが、それはどうやら正解だったようで女は訂正することなく続ける。
「そうですね。お察しの通り、うちとアミュール家は協力関係にあります。それは単純に守護者としての力関係を維持したいだけじゃなく、経済的な理由もありますね」
エルニアはアミュールに借金をしているらしい。
現当主が新たな事業に手を出して、失敗してアミュールに金を借りている。
それで今回のことを協力させたとか。
「あなたの力を取り戻したら、その借金をチャラにしてもらえるとか言われたの。ちなみに、その借金を作ったのはあなたの後ろに転がってるあの男」
ルカは振り返る。
ルカを閉じこめて、殺そうとしたあの男が前当主だったのか。
女はとつとつと話し出した。蓄積した思いをすべて吐き出すように。
「私はね、自由になりたいの」
「守護者として生きること、それは人生が決まってしまうこと。あの父親のようになりたくないのよ」
「私はね、継承者として幼い頃から教育されてきた。貴族教育に加えて、守護者としての教育を受ける日々は自由なんて一つもなかった。おまけにね、エルニアは先の戦争で後方支援が主だったから、守護者としての地位があまり良くなかった。父はそれにコンプレックスを持っていたのね。守護者の力がどの家も徐々に衰えていく中、自分のところが力を増せば、威厳が大きくなるとでも思ったのかしら」
「でもね、私の能力は低かった」
「自分でもわかっているの。始祖の魔力を引き継ぐと言っても、それをうまく使いこなせるかも必要。……あなたのようにね」




